第101話 デモンロード

 ミリーが向かうは巨大なデーモン。

 朱王の予想では四百年以上の時を経たデーモンだろう。

 ポテポテと歩いてデーモンに向かう。

 対するデーモンは空を飛んで超高速で向かってくる。


 ミリーへ向けられたのは、高速飛行からのデーモンのラリアット。

 それをミリーはミルニルを打ち付けてガードするが、その威力はこれまでの魔獣を遥かに超える。

 朱王の一撃と同等かそれ以上。

 ミルニルの爆炎がデーモンの強化のみの一撃を防ぎきるが、その質量がミリーの体を浮かす。

 わずかに弾かれたミリーはそのまま着地。


「ホムラ! 行きますよ!」


 ミリーの肩付近に飛翔する火竜。

 下級魔法陣を発動してその体を一回り大きくする。


 自分の攻撃を防がれた事に少し驚くデーモンは、これまで一撃の元に全ての敵を葬ってきたのだろう。

 ミリーに警戒して魔力を練り、全身に風を纏う。


 このデーモンはグレンデルが風の精霊を取り込んだ魔獣だ。

 風の精霊を取り込んだグレンデルは、空を飛ぶ他の魔獣を見てその生態を変えて翼を生やしている。


 デーモンは拳に風を集め、腕に旋風を巻き起こす。

 初めて見る魔法を操る魔獣にミリーも驚く。

 一瞬で間合いを詰めたデーモンは右の拳をミリーに打ち付ける。

 相殺する為ミリーもミルニルを全力で打ち付ける。

 旋風を相殺し、その威力をも抑え切ったが質量までは奪えない。

 巨大な拳にミリーは弾き飛ばされた。

 このままでは押し負ける。

 ミリーは戦い方を変え、正面から受けるのではなく爆発を利用して受け流す事にする。

 デーモンの追撃の左の拳を逆風に打ち上げ、爆炎をもって受け流す。

 そしてホムラの炎のブレスで目眩しを放って距離を詰める。

 しかしデーモンはその体の大きさから、少し仰け反るだけでミリーの間合いから逃れる事ができる。

 飛び上がったミリーに右の拳を振るうデーモン。

 振り上げたメイスを打ち付けてその拳を回避し、続く右脚からの蹴りに体を捻ってメイスを当てる。

 そのまま爆破してその反動を利用して距離を取る。


「むぅ、やりづらいですねぇ」


 体の大きさ、パワー、速さも相まってミリーには戦いづらい相手だ。

 普段は真正面から受け止め、返していくミリーの戦闘スタイルが全く通用しないのは初めてだ。

 試しに受け流しもしてみたがそれでも通用しない。

 それならばと飛行装備を試してみる事にする。

 まだ慣れない飛行装備だが、ミリーの意思そのままに飛行する事が可能だ。

 そしてこのデーモンも元はグレンデル。

 他に苦戦する事なくこれまで戦闘をしてきたとすれば、飛行しながらの戦闘は慣れていないのでは? と考える。

 飛行装備を起動して空へと舞い上がるミリー。

 ミリーに続いて飛び上がるデーモン。

 速度は互角だが、その飛行性能はどうだろう。

 上空で体を翻したミリーはデーモンに向かって降下する。

 落下による速度を乗せたミルニルの一撃。

 突き上げられたデーモンの右の拳を躱し、ミリーの渾身の一撃がデーモンの額へと打ち付けられる。

 七色の爆炎がデーモンの額に炸裂し、地面目掛けて叩き落とす。


「めちゃくちゃ硬いですねぇ。あれで頭を砕けないとは思いませんでしたよ」


 右手をプルプルと振りながらデーモンの強度に驚嘆するミリー。


 地面に叩きつけられたデーモンは頭を振るって意識を確かめる。

 額が割れ、赤黒い血が流れ出る。

 唸り声をあげながらミリーを睨みつけ、再び風を纏って空へと舞い上がる。

 額の傷を超速回復しながら、上空で待つミリーのいる高さまでゆっくりと飛翔してくるデーモン。

 空中浮揚してミリーの出方を待つ。


 ミリーは上級魔法陣エクスプロージョンを発動。

 巨大化するホムラはミリーの飛行装備と重なり、爆炎の竜へとその姿を変貌させる。

 まるでミリー自身が七色の火竜のような様相だ。


 風を纏ったデーモンは咆哮をあげて威嚇し、風のブレスを複数放つ。

 ホムラからの爆炎のブレスが風のブレスを相殺。

 爆発が起こるとともに、翼を羽ばたかせてお互いの距離を一気に縮める。

 デーモンの旋風の拳とミリーの爆炎のメイス。

 ホムラの炎に全身を焼かれながらもミリーのメイスと打ち合うデーモンだが、ミリーの攻撃はそれまでの一撃とは次元が違う。

 ミリーの爆炎を超える爆轟。

 その一撃はデーモンの拳を粉砕し、胸まで一気に破壊する。

 右薙ぎに振り抜かれたメイスを頭上に振り上げ、デーモンの頭を打ち抜いた。

 地面へと叩き落とされるデーモンは、すでに頭部はなく、爆散した頭部はその炎によって燃やし尽くされた。


 エクスプロージョンを解除したミリー。

 炎を巻き上げてホムラは元の姿へと戻った。




 蒼真は下級魔法陣ウィンドを発動した状態でデーモンと対峙する。

 前回よりもさらに大きいデーモンはその動きも速い。

 蒼真は風刃を高圧縮した【圧空刃】でデーモンに向かう。

 リーチを短くした圧空刃だが、その斬れ味や威力は風刃の比ではない。

 常に膨張しようとする圧空刃はデーモンの拳を斬りつけ、重い一撃をも弾く事が可能だ。

 デーモンは旋風の拳を蒼真に向けて振るうが、それ以上の風の魔法に全て掻き消される。

 地面を殴りつけて空へと飛び上がるデーモン。

 ついに飛行戦闘だと嬉しそうな蒼真は、翼を羽ばたかせて空へと舞い上がる。

 空中浮揚するデーモンと蒼真。

 お互いに魔力を練って接近する。

 振り抜かれる右の拳と左薙ぎの蒼真の刀。

 蒼真はすれ違いざまに体を翻し、急制動するとともに背後から横腹を圧空刃で斬り付ける。

 デーモンも急制動からの右腕を後方に振り抜いて抵抗しようとするが、蒼真の飛行速度についていけない。

 腕を振り抜いた時には、すでに反対側からの斬撃が頭部目掛けて振り下ろされる。

 咄嗟に左腕で防ぐデーモンだが、蒼真の一撃はその腕ごと斬り落とす。

 すぐに超速再生を発動するデーモンだが、斬り落とされた腕は一瞬で生えるわけではない。

 続く蒼真の攻撃に耐えきれずに落ちていくデーモン。

 蒼真は空からデーモンの再生を待つ。

 デーモンが万全な状態で飛行戦闘を楽しむつもりだろう。


 怒りの唸り声をあげながら空へと舞い上がるデーモン。

 魔力を練って全身から暴風を巻き上げる。

 暴風を拳へと集約させ、突き上げるように蒼真へと向ける。

 集約された竜巻が蒼真へと一直線に向かう。

 蒼真も魔力を練り直してデーモンへと降下する。


 振り下ろされた刀によってデーモンの竜巻は斬りさかれ、強化した拳も圧空刃によって斬り付けられる。

 次々と襲いくる蒼真の攻撃に耐えきれないデーモン。

 両腕を斬り落とされ、最後に頭を斬られて地面へと落ちていった。




 千尋は最初から魔剣を手に持ち、リクとシンでの四刀流でデーモンに挑む。

 下級魔法陣で強化されたリクとシン、そして激震も強化される。

 最初から飛行装備で飛び上がった千尋は、リクとシンをけしかけて上空へとデーモンを誘き寄せる。

 リクとシンが持つエンヴィとインヴィ。

 千尋はイメージ力を高めて激震と同質の魔法を双剣に込めている。

 威力は魔剣の激震には劣るが、その衝撃は耐えられるものではない。

 あらゆる方向から襲いくる剣を捌ききれないデーモン。

 爆発ともいえる衝撃が全身を襲い、まともに飛ぶ事もままならない。

 千尋から距離をとったデーモンにリクとシンを向かわせる。

 左右の拳で叩き落される双剣と精霊達。

 強化された拳は激震にも耐え得る程の強度だ。

 千尋と左右の旋風の拳で打ち合うデーモン。

 叩き落とした双剣が戻る前に千尋を倒すつもりなのだろう、その一撃一撃が尋常ではない威力で放たれる。

 千尋の強化では耐えきれない程の攻撃の連続に、千尋も回避を余儀なくされる。

 回避と同時に体を翻して加速して飛ぶ千尋。

 それを追うデーモンだが、千尋は急制動して魔剣を振るう。

 突然の停止に反応しきれないデーモンに、唐竹に激震を見舞う。

 頭に魔剣を受けたデーモンだが、刃が通らない程に強度が高い。

 地面に向かって落下するデーモン。

 このまま戦っても倒す事はできないだろう。

 試しにベルゼブブを抜いて魔剣を物理操作グランドで操る。

 リクとシン、エクスカリバーとカラドボルグから、落下によって距離が離れていくデーモンに狙いを定め、発砲。

 ライフル弾の如き速度で打ち出されたミスリル弾はデーモンの背中を撃ち抜いた。

 同時に背中に突き刺さる四本の剣。

 ミスリル弾で撃ち込めばダメージは与えられるようだが、倒すまでには至らない。

 そのまま地面へと落ちていくデーモンと、追従して急降下する千尋。

 千尋は魔力球を複数魔法に変換。

 十発の炸裂弾を剣の刺さった背中へと叩き込む。

 そのままデーモンの背中へと着地し、魔力球を魔剣へと叩き込んで全力の激震を見舞う。

 爆発の如き衝撃がデーモンの内蔵を破壊する。

 痙攣していたデーモンだが、激震が収まる頃には力なく横たわっていた。




 朱王はデモンロードへとゆっくりと歩み寄る。

 同じようにデモンロードも朱王に向かって歩き進む。

 デーモンよりも一回り大きい。

 身長も5メートル程はありそうだ。

 最初から倒すわけにはいかない為、しばらくは様子を見ながら戦闘をしよう。


 強化した朱王の装備は緑色に光り輝く。


 デモンロードも強化を施して朱王に襲い掛かる。

 朱王の斬撃とデモンロードの左右の拳。

 風の魔法がデモンロードの攻撃をさらに強化し、旋風の拳に続いて風の爪刃が襲う。

 同じように朱王も風の刃を発生させて相殺する。

 デモンロードに見様見真似で対抗する朱王はまだまだ余裕がある。


 しばらく刀と拳を交えていると、アイリとリゼがデーモンを倒す。

 デモンロードが光を放ち、眷属であったデーモンの魂が吸収される。

 同時に死体となったデーモンもその姿を消す。


 力を増したデモンロードだが、まだ朱王には余裕がある。

 周りの様子を見ながらデモンロードの攻撃を捌ききる。


 続いて蒼真、千尋と続けて古い眷属も倒されると、デモンロードの力が大幅に増す。

 朱王も強化のみでは耐えきれない。

 朱雀丸の火焔でその攻撃に耐える。

 耐え切れるような攻撃ではないのだが、全て受け流す事で耐え凌ぐ。

 予測と操作と確定でデモンロードの攻撃を全て思いのままに操る朱王。

 相手の攻撃パターンを観察し、そこから数百通りの予測をし、回避と防御でデモンロードの攻撃パターンを操作、隙を生み出す為の動作の確定が朱王の戦闘スタイルだ。

 もはや人間業ではないのだが。


 ミリーがデーモンを倒す事でその攻撃力も跳ね上がり、朱雀も遊びを辞めてとどめを刺す事で、デモンロードはデヴィル化を開始する。

 戦闘しながらでもデヴィル化は止められない。

 そして魔力の増加により、どんな攻撃も全て無力化されてしまう為朱王も防御に徹する。


 そして攻撃を止めるとともに咆哮をあげるデモンロード。

 魔力が凝縮され、巨大だった体が小さく収縮していく。

 デーモンよりも小さく、グレンデルと同じ程度の大きさとなった。


 超級魔獣デヴィル。


 放たれる魔力はこれまで感じた最高のもの。

 朱王の知る魔王【ゼルバード】の数倍となる魔力量だ。


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