第95話 遊園地
実はここクイースト王国には遊園地がある。
そんな話を研究所で聞いたミリー。
【ゆーえんち】とは何なのかわからなかったようだ。
朝のテラスで千尋に聞いたミリーは、教えてもらった内容に歓喜し、すぐに朱王を起こしに走っていった。
起こす時間はまだ三十分先のはずなのだが。
そんなわけでこの日は遊園地に遊びに行く事となった。
アースガルドで唯一の遊園地。
それはもう楽しみだ。
千尋や蒼真でさえ期待に胸膨らませている。
ただでさえ娯楽の少ないこのアースガルドで、遊園地などのテーマパークは観光客を多く呼び寄せるだろう。
さっそくやって来た遊園地。
場所はクイースト王国西側の市民街外れにある。
少し遠かったが駐車場がないかもしれないからと歩きで来た。
遊園地前にも露店が多く並び、多くの人で溢れかえっている。
遊園地に入る前から買い食いする千尋達は、さっき朝食をたくさん食べたはずなのだが。
まぁそれはさて置きせっかくの遊園地、勇飛達と一緒に遊び倒そう。
どうやらジェットコースターのような物やメリーゴーランドのようなもの、観覧車や空飛ぶ船のようなバイキングなど様々なアトラクションが楽しめるようだ。
チケットを購入して遊園地に入場し、全員で回るわけにもいかないので分かれて遊ぶ事に。
遊園地という楽しそうな場所で出てこない朱雀ではない。
朱王とミリーと朱雀が一組となり、勇飛パーティーも別行動、千尋達も四人で一組として行動する。
別行動なのに全員が最初に並んだのはジェットコースター。
世界最高のジェットコースターなどと書かれており、遊園地はここしかないので間違ってはいないだろうが何か違う気がする。
しかしこの遊園地。
絶対に地球人の手が入ってるだろうと思ったら、クイースト王国に国を挙げて遊園地を作ったら? と提案したのは朱王との事。
遊園地も昨年ようやく完成し、運営を開始したようだが提案したのは三年前らしい。
余談だが魔道具作りもその頃から加速度的に増え始め、今では魔法の国ではなく工業大国化しつつあるとか。
運営開始から観光客も押し寄せて、お土産などの売り上げも好調。
ここ数年景気がうなぎ登りだとか。
この世界にもうなぎがいるのかは不明だが。
順番を待っている時間も楽しみで仕方がない。
先日飛行装備を試しているのでスリルや興奮が味わえるのか少し不安はある。
ついに順番が回って来たので乗り込む一行。
ゴゴンとゆっくりと走り出したジェットコースター。
登り坂を進んでどんどん高度を上げていく。
どんどん上がっていく。
どんどんどんどん。
どんどんどんどん。
…… 物凄く高い。
魔法のあるここアースガルドでは、魔石を使用して無茶な作りを平然とやってのけたようだ。
コースを見ても作りがかなり無茶がある。
何故グルグルと捻りが入りながら旋回するような事をするのか。
嫌な予感が頭をよぎる中、ジェットコースターが下へと向きを変えていく。
視界が空から地面へと変わり、超高高度から一気に加速。
思った以上に恐い。
飛行装備は開放感と自分でコントロールできるという安心感があるが、このジェットコースターには安心感がかなり不足している。
股間が縮み上がるような浮遊感の後は重力を感じる急な登り、そして逆さになっての走行からの捻りの連続。
再び登って速度が落ちたかと思うと再び下降と加速。
先程見た旋回しながらの捻りのコース。
浮遊感と重力の連続に不思議な感覚を覚えつつ、大回りして速度を落としながらスタート地点へと戻ってくる。
「「「楽しかった(です)!!」」
と好評だったジェットコースター。
地球のジェットコースターより恐いと感じた千尋や蒼真、朱王と勇飛だった。
メリーゴーランドにも乗り、スリルが足りないなどと不満を漏らす声もあったが、そもそもスリルを味わう乗り物ではない。
それに何故か所々に
何故メルヘンなアトラクションに魔獣を盛り込んだのかわからない。
続いてバイキングにも乗り込んで前後に揺られる一行。
別行動なのにずっと一緒に行動している。
バイキングは前後に大きく揺られる船なのだが、若干の浮遊感があってなかなかに楽しめる。
これは地球のと同じなんだなと思っていたのだが、どんどん振れ幅が広がっていく。
そして最終的には回転した。
体が固定されていないというのにまさかの縦回転。
危険極まりない乗り物だが大丈夫なのだろうか。
そういえば乗る際にバーをしっかりと握ってくださいと言っていたが、自分の命はしっかりと掴んでおけよという事か。
バイキングにも満足そうなアースガルドの面々。
地球人にとっては予想外の展開に少し焦る。
今度は軽い乗り物でコーヒーカップを選んだ。
何故か乗る前にコーヒーを受け取ったがどうするのか。
各々コーヒーカップに乗り込んで回転する。
そして職員さんが一言。
「回転中にコーヒーを全部飲んでください!」
なんか間違っている。
職員さんの方を見ると看板を持って笑顔を見せている。
看板に書かれているのは【喫茶店開店中】。
回転と開店を掛けたのか……
考えた人はバカなんじゃないかとも思ったが、なかなかに美味しいコーヒーだった。
また飲みに来てもいいかもしれない。
次にフリーフォールに乗った。
何となく嫌な予感がしつつも乗る事にする。
スカートを履く女性達には黒いハーフパンツが渡されている。
本当に嫌な予感しかしない。
フリーフォールとは上下に動作して落下の浮遊感を楽しむアトラクションのはずだ。
それなのに今足に巻かれているのはロープ。
何故ロープ? 意味がわからない。
ロープを足に巻いてするといえばあれしかない。
バンジージャンプではないのだろうか。
フリーフォールと呼ばれているこのアトラクション。
椅子が複数取り付けられ、そこに座って今足にロープを巻かれている。
不安しかないが準備が完了したようだ。
このアトラクションも十二人が同時に楽しむ事ができる為、千尋達十一人が全員席に着く。
職員さんの「いきまーす!」を合図に装置が稼働。
まさかの射出。
そう、上空に射ち出されたのだ。
そして足に繋がるロープがピーンと伸び、斜め方向に倒れていく。
倒れていくというよりも落ちていく。
落ちいく先には大きなバルーンがあり、そこで落下していく人を受け止めるらしい。
これを考えた人もバカじゃないだろうか。
確かにフリーフォールをそのまま捉えれば自由落下。
そのまま落ちることがフリーフォールで合っている。
だからといって射出してそのまま落とすとはどういう了見だろう。
ロープを解かれて集まる一行。
納得がいかない複雑な気持ちの地球人と、楽しかったと喜ぶアースガルド民。
喜んでいるなら否定はできない。
納得はいかないが、ちょっとだけ楽しいと思ったのも事実。
次に行ってみよう。
今度は乗り物ではなく迷路に挑戦。
お金を払って迷路内に入り込む。
そしてすぐに落とし穴。
滑り台となっており、下へ下へと下っていく。
ついた先では地下迷宮と表示されており、ゴールを目指して進むらしい。
光の魔石が埋め込まれており、内部もある程度の明るさが保たれている。
この迷路の攻略には時間がかかった。
進めど進めど行き止まり。
迷路の最終攻略手段壁伝いも通用せず、全てが行き止まり。
朱雀がスンスンと匂いを嗅ぎながら壁に触れると隠し扉が現れる。
外から屋台の匂いが入ってきていたようだ。
迷路のゴールが隠し扉とは予想しなかった。
そして空中ブランコにも乗った。
この遊園地で唯一普通のアトラクションだった。
ブランコに乗り、高い位置でグルグルと回転するのはなかなかに楽しい。
すでに昼も過ぎている。
遊園地内の食事処で昼食を摂る。
安そうな料理が高額で売られているが、飛ぶように売れているようだ。
今もまだ食事をしている人が大勢いる中、なんとか席を確保して食事をする。
手洗いはすでに済ませてあるのでまずは一口。
「うっ…… うまー?」と首を傾げる朱雀は正直すぎる。
別に不味くはないが普段一流料理を食べていたので感覚がわからないのだろう。
これはそれなりに美味しいんだよと言い聞かせて食べさせた。
遊園地特製のパスタなのだろう。
不思議な色をしたパスタがたくさんある。
各々好きな色のパスタを注文したが、色は時に食欲を減退させたりもするんだなと感じた。
デザートにはやはりスライム。
半解凍状態のスライムは、小学校の時に出されたゼリーによく似ている。
それほど美味しいゼリーではないが、少しだけ凍っている事で美味しさを引き上げていた。
午後からもまたアトラクションを楽しみ、ジェットコースターには何度も何度も乗るミリーとリゼだった。
朱王と千尋はコーヒーカップで数杯のコーヒーを飲んだ。
回転しなければもっと美味しいのにと思う二人だった。
蒼真とアイリ、勇飛と朱雀はフリーフォールが気に入ったらしい。
あの意味のわからないアトラクションも楽しめるらしい。
カインとナスカ、エレナはバイキング。
回転するものだと思えば楽しいらしい。
前後に揺られる浮遊感がクセになると何度も乗っていた。
そして最後に観覧車に乗る。
この観覧車は艶消しの黒に塗られていて遠目にわかりづらい。
遊園地といえば大きな観覧車が目を惹くというのに何故艶消しの黒なのか。
クイースト王国に着いた時もまったくわからなかった遊園地。
他のアトラクションも高い位置のものは艶消しの黒に塗られている。
理由は簡単だ。
高所に派手な色のアトラクションがあると飛行する魔獣が向かってくるという。
理由も納得の真っ黒観覧車だ。
クイースト王国を一望できる高所からの景色もまた良かった。
充分に楽しんだ遊園地。
お土産を大量に買って帰る事にする。
夕食はやはり邸に帰ってから。
何故かって? 邸で食べるご飯が一番美味しいからだ。
外食するメリットが全くない。
いつものように帰ったらお風呂に入り、夕食を食べて映画を観る。
当たり前になっているこの生活だが、近々ゼスへ旅立つと考えれば少し寂しい気もする。
またいつでも来られるが、まだしばらくいてもいいと感じている千尋達だった。
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