第90話 勇飛パーティーと

 勇飛達の武器を擬似魔剣化し、精霊魔導師となった四人。

 各々その性能を確かめながら千尋達と交流を深める。

 精霊魔導師となった彼らであれば魔族相手にも問題なく戦えるとは思うが。


「デンゼルでは高難易度のクエストは発注されてるのか?」


「いや、今は難易度7程度までしかねーな」


「それなら王国の難易度10クエストを受けに一緒に行かないか? まぁ勇飛さん達次第だが」


 という事で王国に連れて行く事にした。

 朱王邸はまだ部屋に空きがあるので大丈夫だろう。

 車の荷物も邸に置いてあるので、三列目シートを倒せば三人乗れる。

 朱雀が朱雀丸に戻れば勇飛達も四人が乗れる。




 役所に戻ってサーシャに王国に行く事を伝え、お土産に持ってきたマカルォンを全部渡した。

 大量に買ってきたので職員さん達で分けるといいだろう。


「勇飛さん、お土産待ってますねー」と見送られ、車に乗り込む勇飛達。

 三列目にリゼ、アイリ、ミリーが乗り、二列目に勇飛達が乗った。


 二列目も三列目も映画が観れる。

 ミリーが三列目にある操作板で映画を再生。

 ナスカやカイン、エレナはその動画にまた驚愕する事になった。

 勇飛から聞いていた地球の話。

 地球という世界がそこには映し出されていた。

 今乗るこの車にも驚いたが、たくさんの車が行き交い、巨大なタワーが建ち並ぶ世界。

 そして空を飛ぶと聞いていた飛行機も映し出され、あまりの衝撃的な映像に目を回すナスカ達。

 勇飛は地球の映像、映画を観ることができて懐かしさを覚える。


 映画を観ながらあっという間に王国にたどり着き、ゆっくりと車を走らせて貴族街へと向かう。

 まだ昼食を摂っていなかったので貴族街のレストランへと入り、分厚いステーキを食べて大満足。




 朱王の邸に到着し、またも驚愕する勇飛パーティー。

 執事のカミンと挨拶を交わし、部屋を決めてロビーでくつろぐ。


 昼食にデザートを注文しなかったのは料理長のレイヒムのデザートを食べる為だ。

 朱王が渡したイメージの魔石から次々と新しいデザートや料理を作り出しているらしく、その再現度も高い。

 全員に出されたのはかぼちゃのプディング、のようなもの。

 タルト生地の上に乗ったかぼちゃのプディングは濃厚にして口にとろける滑らかさ。

 甘さをやや控えめに、素材の味を引き出している。


 プディングを堪能していると、商人のレントンがやって来る。

 勇飛達の水着や私服を購入する為にカミンが呼んだのだろう。




 勇飛は水着に黄緑色のサーフパンツとサングラスを選び、すぐに私服選びを始めた。

 カインも勇飛に習ってサーフパンツとサングラスを選んで私服を勇飛に相談する。

 ナスカとエレナはやはり水着を選べずにいるようだ。

 ミリーとアイリで二人の水着を一緒に選ぶ。

 リゼは相変わらず千尋用に女物の水着を物色中。

 そのせいで千尋は竜車に近寄らないのだが。




 しばらくして私服も選んだ勇飛パーティー。

 この日はプールで遊ぶ事にし、全員水着に着替えてプールに向かう。


 ナスカとエレナは以前のミリー達のようにラップタオルを胸から巻く。

「変な目で見るんじゃない!!」と怒鳴るナスカのタオルをミリーが背後から取っ払う。

 同じくエレナのタオルもアイリが取り払った。


 必死で隠そうとするナスカとエレナ。

 鍛えられた体はスタイルが良く、マジマジと見るミリーとアイリ、そしてリゼだった。

 ナスカもエレナも余計に恥ずかしかっただろう。




 マーリンとメイサは浮き輪を持ってナスカとエレナに渡す。

 カインの分も必要なのだが気付いていない。

 プールに飛び込んだミリー達に続いてナスカとエレナもプールに飛び込む。

 浮き輪もあって沈む事はない。

 暑い日差しに冷たい水。

 ナスカとエレナもテンションが上がってはしゃぎだす。


 勇飛もカインと一緒にプールに飛び込む。

 やはり気付いていないがカインは泳げない。


 飛び込んだ直後から浮いてこないカインはプールに潜って踊っている。

 そんなに楽しいのだろうかと見つめる勇飛。


 しばらく見ていた勇飛は、動かなくなったカインを見てようやく溺れている事に気が付いた。

 プールから引き上げて腹に一発。

 水を吐いて息を吹き返す。


「ゲホッゲホッ…… ゆ、勇飛…… なんで助けてくれないのさ!」


 涙目でお怒りのカインに回復魔法をかけ、浮き輪を渡してプールに飛び込む勇飛。

 ちょっと不機嫌ながらも浮き輪をしてプールに飛び込むカインは、すぐに機嫌を直して遊びだした。




 しばらくプールを楽しみ、まだ明るいうちにお風呂に入る。

 この日は男性陣が露天風呂、女性陣が大浴場だ。

 露天風呂の男性陣は、湯船に浮かべたお酒を飲みながら景色を楽しむ。


「なんて贅沢な暮らしをしてるんだ……」


「ほんと羨ましいよね……」


 勇飛達も羨む贅沢な生活を過ごしている千尋達。

 朱王と旅に出てから少し感覚がおかしくなりつつある。


「朱王さんってすげー金持ちなんだな。まぁ緋咲グループのトップなら当然かー」


「貴族用のドロップの売り上げが大きいよ。発売当初から一個につき五百万リラで即完売だったからね」


「千尋や蒼真もすごいお金持ってたりしてね」


「オレは二億くらいだな」


「んー、オレは今十億くらいかなー」


 吹き出す勇飛とカイン。

 まさか冒険者でそんなに金を持っているとは思わなかった。

 千尋の場合は作った武器の売り上げが大きいが。




 一流料理人レイヒムによる今日の夕食も美味しかった。

 この世界に来て初めての天ぷら。

 醤油のない調味料で作られた天つゆも、かなり近い再現度に驚いた。

 塩で食べる朱王の真似をしてミリーやアイリも天ぷらを口に入れる。

 天つゆとはまた違った美味しさにとても満足そう。


 夕食後はいつもの映画鑑賞だ。

 使用人達も待ってましたとばかりに急いで片付けと準備を始める。

 フィディックもいそいそと片付けをしている。

 勇飛は懐かしい映画を、そしてナスカ達は初めて大画面で観る映画を楽しんだ。






 翌朝のテラスにて。

 いつものように魔力操作をする千尋。

 少し遅れてリゼやアイリも起きてきて訓練を始め、ミリーは静かにコーヒーを飲む。


 やはり勇飛も早起きで、ミリー達とほぼ同時に部屋から出てきた。

 千尋の覚醒する時間を見計らって声をかけるミリー。

 目を見開いた千尋はポリポリと頭を掻く。

 どうやら今日は失敗したようだ。

 挨拶を交わして今日の魔力訓練を終え、カインからコーヒーをもらって会話を楽しむ事にする。


「千尋達は冒険者だからまぁわかるけど、朱王さんは仕事してないよな。部下に任せっきりなのか?」


「いいえ、朱王様は毎日仕事をなさっていますよ? くつろいでいる時はほぼ仕事の時間となりますので」


 カミンが朱王の仕事について説明する。

 どうやら朱王は頭の中でほとんどの仕事をこなすらしい。

 各国の支部から送られてきた書類を全て一瞬で記憶し、頭の中でデータを解析してまとめているそうだ。

 各国の店の状況や部隊の必要経費、施設の運営費や新しく施設に入った子供達、工場の管理や売れ行きに対する生産状況に至るまで全ての情報を管理している。

 まとめた内容は書類にまとめ、各国に指示書を送って運営、監督を行なっているそうだ。

 また、部下に調査させた魔族の情報を集め、その内容を元に今後の対策と準備を進めているという。

 さらに貴族用のドロップは全て朱王の手作業によるものだ。

 これまでのストックがまだ相当数ある為、旅に出てからは作っていないのだが。


「スペック高すぎね!? それにオレ達と同じ迷い人だろ? もしかしてめちゃくちゃ強かったり……」


 言い切る前に千尋達の顔を見た勇飛。

 苦笑いでコクコクと頷く千尋達。

 言葉を聞かなくてもその表情から尋常ならざる強さを感じてしまう勇飛だった。




 全員を起こして朝食にする。

 朝から美味しい食事にテンションがあがる。


「今日は難易度10のワイバーン討伐クエストに行くけどいいか? 遠いから車で行きたいんだが」


「ワイバーン!? 行こう行こう! もしかしたら飛行装備に素材として使えるかもしれないよ!」


「ほんとに!? じゃあ魔石に還す前に素材剥ぎ取らないとね!」


「よし、全部剥ぎ取るか!」


 朱王と千尋、蒼真が嬉しそうに話し出す。

 リゼ達も勇飛達もわからないので首を傾げている。

 朱王が以前千尋達に話した飛行装備について説明し、俄然やる気を出す一行。

 少し休んだら車に乗って出発だ。




 役所でクエストを受注。

 初の合同パーティーによる受注だが、何が違うのかよくわからなかった。

 単純に報酬を分ければいいんじゃないのか?

 クエストを受注する際に勇飛達のパーティーにも驚いていた受付の女性。

 勇飛達はデンゼルだけでなくクイースト王国でも有名な冒険者との事。

 王国の役所にいるゴールド冒険者達をも差し置いて最強と呼ばれる冒険者だという。


 クエスト内容:ワイバーン討伐

 場所:クイースト王国北東部岩山

 報酬:一体につき6,000,000リラ

 注意事項:空を飛び火を吐く

 報告手段:魔石を回収

 難易度:10


 人数分の弁当と、市民街でお菓子を買い漁って出発だ。

 飲み物にはレイヒムが作ってくれたジュースがある。

 岩山までは少し遠いのだが車なら一時間程度で着くだろう。

 いつも通り後部座席では映画を観ながら車を走らせる。

 たくさんの魔獣が見えるが、やはり車を襲って来ることはなさそうだ。




 およそ一時間程して岩山が見えてくる。

 山の周りを飛ぶワイバーンから相当な数がいると予想する。

 飛んでいたワイバーンが気付いたのか、数体がこちらに向かって飛んでくる。

 どう見てもデカイ。

 翼を広げれば10メートルはあるのではないだろうか。

 岩山まではまだ距離があるが、このままでは車が壊されてしまう可能性もあるので車を降りて迎え撃つ事にする。


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