第70話 サイクロプス討伐

 カルハ北部へと向かう蒼真とアイリ。


 それ程大きな街ではない為、少し店を覗きながら弁当屋を探す。

 街の出入り口付近に建っており、弁当と水を購入して街を出る。


 街を出ると畑が広がり、前方には森林も見える。

 街から少し離れたところに複数の建物があり、街から離れた農村という事だろう。

 街に近い方では畑にもたくさんの野菜が実っている為魔獣モンスターも来ていないのだろうと、とりあえず農村に向かって少し話を聞こう。


 農村に入ると外で遊ぶ小さな子供がいた。子供達が遊ぶのをお婆さんが見ていたので話を聞いてみる。


「こんにちは。冒険者の蒼真、とアイリだ。サイクロプスの討伐に来たんだが少し話を聞かせてくれないか?」


 アイリも笑顔で挨拶をする。

 お婆さんは驚いた表情をして答える。


「サイクロプスの討伐にかい!? 今まで誰も来てくれなくて本当に困っていたんだけどねぇ。お昼を過ぎた頃になると森林から出てくるんだけど数が多くて…… 今では村に近づかないように畑の野菜を森林近くに供えてるくらいなんだよ」


「余程追い詰められてそうだな。この村が襲われたら次は街にも被害が出るだろうに。今日見つけたやつは殲滅するとして、定期的にクエストを発注した方がいいだろうな」


「村でのクエストではなく街で発注してもらえるよう所長さんと話してみます」


「あ、あんたら二人で討伐するのかい? サイクロプスは大きくてとても強いんだよ?」


 心配そうなお婆さん。


「「アイリ(蒼真さん)一人でも余裕 (です)」」


 お互い指をさして笑顔で答える。

 子供達もいるのでアイリが飴玉を渡して先に進む。


 農村を出るとまた畑が広がり、街側に比べて実りが少ない。

 森林の手前に何人か人が見える。

 野菜のお供え物を準備しているのだろうと思われる。


 今日はその準備も要らないだろう。走って向かう。


「こんにちは。冒険者のアイリです。こちらの蒼真さんと一緒にサイクロプスの討伐に来ました」


 今度はアイリから声をかける。


「おお!? あんた達は冒険者か! 本当困ってたんだが…… あんた達は二人だけなのか? サイクロプスはとんでもない強さなんだぞ?」


「問題ない。一応ランクもゴールドだ」


「一応ゴールドって…… 聖騎士長様より強かったじゃないですか」


「アイリだってほとんど変わらないだろ」


 何故かアイリに呆れられた。

 蒼真はザウス王国で訓練中、狙っていたレオナルドやロナウドとの戦闘訓練もできた。

 進化したランが力を行使した事もあり、全力のロナウド相手に魔法陣を発動する事なく戦える程だった。

 ロナウドは蒼真との戦闘が楽しかったらしく、全力で戦いを挑んだ。

 おかげで訓練場はボロボロになったのだが。

 ザウス王もウズウズしていたがさすがに戦うわけにはいかない。

 ザウス王、レオナルド、ロナウドももっと訓練が必要だと何故か嬉しそうに言っていた。


 聖騎士長より強いと聞き、半信半疑ながらも任せようと思う村人達。




 お供え物も撤去してもらい、森林前に立つ蒼真。


「ラン。呼吸探知だ」


 呼吸探知。

 ランは風の上級精霊な為、自分の魔力範囲内であれば生物の大きさや位置、数を呼吸から把握できる。

 英語読みの方がカッコいいかと思ったが、レスピレーションディテクションと長いのでやめた。

 ランの探知できる魔力範囲は半径およそ5キロ。


「この森はあまり魔獣モンスターはいないね。大きな魔獣が二十三体…… 小さいのが五十体くらいかなー」


 なかなか大きな森だが生物の数が異様に少ない。サイクロプスがほとんど食い尽くしたのだろう。小さな魔獣も鳥などの小型のものと予想される。


「サイクロプスが二十三体か。用意していた野菜の数から見てもそれくらいは居るだろうな」


「便利な魔法ですねぇ。私の精霊ではできませんよね……」


「イザナギとイザナミを走らせたらすぐに見つかるんじゃないか? 見た目狼だし嗅覚…… 魔力を辿って行きそうな気もするな」


「なるほど。イザナギ、イザナミ! 大きな魔獣を探して来てください!」


 まだ襲ってくるまで時間もあるし、試しに精霊を走らせてみる。

 嬉しそうに尻尾を振りながら走って行く雷狼。




 しばらくすると戻ってきたイザナギとイザナミ。


「どうでしたか? 何体いました?」


「「ウォンッ!!」」


 喋れませんでした……

 それでも褒めて欲しいのか尻尾をペシペシして待つ雷狼。

 アイリが笑顔でありがとうと言うと、尻尾を振ってクラウ・ソラスに戻った。




 もうすぐ昼なので弁当を食べる事にする。

 いつものように水魔法と魔法の洗剤で手を洗ってご飯を食べた。

 弁当もやはりカルハの味。少し味噌に近い味付けの肉が美味しかった。


 そして村人達からもらった果実を食べる。

 蒼真が皮を剥いて切り分けたリンゴのようなもの。

 アイリは蒼真のナイフ捌きに感心する。

 クルクルと果実を回しながら、途切れる事なく繋がる皮。

 切り分けられた果実は甘みとわずかな酸味があり、シャリシャリとしていてとても美味しかった。




 複数の重い足音が聞こえる。

 サイクロプスが近づいて来たのだろう。


 蒼真とアイリは立ち上がって待ち構える。

 現れたのはやはりサイクロプス。

 以前蒼真が戦ったサイクロプスに比べれば、一回りほど小さな体躯。これが通常サイズなのだろう。

 視界に入るだけで十二体。全部出て来るまで待つ必要もない。


「蒼真さんは森を切ったらダメですよ!」


「アイリこそ森林火災とか起こすなよ?」


 二人は同時に駆け出す。

 蒼真もアイリも数秒で六体ずつ斬り倒す。

 思った以上に手応えがなく、少しガッカリする蒼真。


 残りは森林の中の十一体。


「じゃあ残りは競争です! 負けた方は街でスイーツを奢る事にしましょう!」


「望むところだ!」


 アイリはイザナギとイザナミを走らせる。

 蒼真はランが指差す方に走り出す。

 どうやらサイクロプス達は森の中で隠れているらしく、バラバラに散らばっているようだ。


 およそ十五分して畑へと戻ってきた二人。


 アイリが微妙な表情をし、蒼真はふふんと笑顔を見せる。

 どうやら蒼真が勝ったようだ。


 魔石を持って村へと向かい、討伐が終わった事を伝える。

 村人は喜び、畑への危険性がなくなった事でまた農作業へと戻って行った。




 街へ戻った蒼真とアイリ。

 西部森林のサイクロプスを殲滅できた事を報告し、今後の討伐依頼を街で発注するようお願いする。

 理由としては今後農村が襲われ、農作物が全て食い荒らされた次は街が襲撃に遭うだろうと報告した。

 役所の所長もこの報告を受け、サイクロプスの数からその危機的状況を理解し、今後のサイクロプス討伐を街で発注する事を約束してくれた。

 また今回のクエストに関しても街からの発注という形にする事で、農村の支払いをなしとしてくれた。

 これまで農作物を供える事で農村への被害、街への被害がなかったと考えれば当然だろう。


 報酬は230万リラ。

 二人で山分けとし、喫茶店へと足を運ぶ。




 この世界のスイーツはあまり種類がなく、ここカルハの街の喫茶店でも一種類しかない。

 この街の名物らしいが、その名はカルハスター。


 紅茶とカルハスターを注文する。

 出てきたのは星型で棒状の揚げ菓子だ。

 茶色のソースも添えられており、匂いからしてキャラメルソース。


「チュロスだな」


「チュロスってなんですか!?」


 地球にあるチュロスとほぼ同じだった。たぶん以前来た地球人が伝えたのではないだろうか。

 カルハの名物で星型な事からカルハスター。

 がっかりなネーミングだったが味は美味しい。そのままでも美味しいが、キャラメルソースをつけてもまた違った美味しさとなる。


 蒼真がおもむろに自分の袋から取り出したのは果実。

 お昼にデザートとして食べた果実だ。

 店員さんを呼び止めて皿とビンを持って来るようお願いする。

 皿とビンを持って来た店員さんも不思議そうに蒼真を見ている。

 ナイフで皮を剥き、小さく刻んだ果実をビンに入れていく。

 コーヒーや紅茶用の砂糖を適当にビンに入れ、紅茶用のレモンを絞って魔法をかける。

 加熱の魔法で果実が熱くなる。

 スプーンでかき混ぜてさらに熱を加え、何度か同じ事を繰り返す。

 冷却の魔法をかけて、ひんやりとしたジャムが完成した。


 蒼真はチュロスにジャムをつけて一口。

 笑顔が溢れる蒼真。

 アイリもジャムをつけて一口食べる。


「美味しいですっ! あまーいカルハスターも美味しいですけどサッパリとしたこのソースもまた違った美味しさですね!」


 アイリも気に入ってくれたらしい。


 店員さんも思わずチュロスに手を伸ばす。

 ジャムを付けてパクリ。目を見開いて美味しい! と声をあげる。

 そして我に返った店員さん。ぺこぺこと頭を下げて詫びている。

 また皿をもらってジャムを取り分ける。

 残りのジャムは店員さんにプレゼント。

 お礼を言って厨房に駆け出す店員さん。


「蒼真さんはどうしてあれを作ったんですか?」


「…… ジャムも美味しいからだ」


「ふふふっ。蒼真さんらしいですね!」


 横を向いて答えた蒼真。

 アイリにもわかりやすい蒼真の嘘。

 農家の果実を仕入れさせようとしているのだろうなと思うと、アイリもクスクスと笑いが止まらなくなる。


 厨房が騒がしく、他の店員さんがどこか店の外に走って行った。

 きっと果実を買いに行ったのだろうと予想する。

 厨房からこちらを覗き込む料理人さん。アイリと目が合い、お互いにお辞儀をする。

 アイリは間違いないなと判断した。


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