第51話 アイリの実力

 昼食後はすぐに砂漠地帯に向かった。


 砂漠地帯についてすぐに現れたのはサンドワーム。

 以前はなかなか見つからなかったのに、今日は早速見つかった。


 魔力を練るアイリ。

 剣に魔力を集めてサンドワームに放つ。

 弱点を知らずに放った炎の弾丸は容赦なくサンドワームの胴体を爆発させた。


「す、すごい…… 剣に魔力が集められました!」


「威力がとんでもないですね……」


「これは期待以上だな」


 魔石を回収して砂漠を進む。


 再び現れたサンドワームも風の剣を放ってぶった切る。


 次に現れたサンドリザードマンの集団もザクザク切り倒す。


「すごい楽しいー!! 剣ってこんなにすごい物なんですね!」


「なんか動きは素人みたいですけどすごく強いですね!」


「魔力の使い方が上手いな。剣が無くても倒せそうだ」




 難易度6のサンドスコーピオンを探して砂漠を彷徨う。


 現れる魔獣モンスターを次々と倒し、サンドスコーピオンよりも先に四匹のサンドスパイダーと遭遇する。

 難易度7の魔獣だ。

 魔力を練って振りかぶり、サンドスパイダーに向かって剣を振り下ろす。

 炎の弾丸が放たれ、着弾とともに爆発。

 サンドスパイダーは木っ端微塵に吹き飛び、炎の弾丸、風の刃ともに威力も充分だ。

 近づく事もなく遠距離攻撃のみで倒すアイリは、蒼真やミリーの近接戦闘にはない強さを持っていた。


「これは今から鍛えるのが楽しみだな。遠距離でこれだ。近接戦闘を覚えたら相当なものだろう」


「蒼真さんが絶賛ですか!? これは私もうかうかしてられませんね!」


「こんなに楽に魔獣を倒せたのは初めてです!」


 嬉しそうに戻ってくるアイリ。

 剣を大事そうに抱えている。


「アイリさんのその剣はご自分で買ったんですか?」


「いいえ? ゼスを出る前に朱王様が買って来てくれました」


「見たところ6,000万以上はするだろうな」


 ピシッと固まるアイリ。


「ミスリル剣のそれも一級品みたいですよ? もっとするかもしれません」


「えぇえ!? そんなにするんですか!? 朱王様から渡されたのでただ普通に受け取りましたよ!?」


 頭を抱えて絶句するアイリ。


「あとその剣な、千尋が付与させた魔法のおかげで聖剣並みの性能らしいぞ」


「値段を付けられない剣になってます」


 頬を手で押し潰し、「いやぁぁぁあ!」と表情を乱して叫ぶアイリ。


「やめろアイリ! ブスな表情はするな!」


「女の子にブスって言ったらダメですよ!!」


「せっかくの美人が台無しだろう! これは注意すべきだ!」


「…… ねぇ、アイリさん? さすがにその表情はいけませんよ? ちょっと酷いです」


 アイリの顔を見てミリーも微妙な表情で注意する。


「だだだだって! 私、そんなにお金持ってないですよ!?」


 涙をボロボロ流して言うアイリ。


「気にするな。強くなって朱王さんの力になれ。金よりはるかに価値がある」


「…… それで足りますか?」


 涙目で問いかけるアイリ。

 ミリーは手を広げて構えている。


「朱王さんも喜んでくれるぞ」


 パァッと嬉しそうな表情をするアイリにミリーが抱きつく。


「可愛いー! 何なんですかこの子は!? ブッサイクな表情したと思ったら泣いたり笑ったり!」


「ミ、ミリーも大概だがな……」


 ミリーはアイリの涙を拭い、そのまま頬をムニムニしている。


 落ち着いたところで目の前をサンドラットが三匹通過する。

 フワリと風で浮かせて捕獲。


 役所へ戻る事にした。




 役所に戻って報告し、とりあえずブルーランクが確定した。

 明日は他の冒険者に審査してもらう事になる。


 クエストの報酬は、全てアイリが倒したのでアイリが受け取る事になった。

 生活費も冒険で稼ぐように言われていたので、少し安心できる金額が手に入った。


 受付で少し待つと、明日の審査の同行が蒼真という事になった。

 シルバーランク以上の冒険者がすぐに捕まらない為である。


 アルテリアの冒険者達は全てグリーンランク以上となった為、蒼真達は多くの審査に同行してきた。

 今となっては形式のみの審査となってしまっているが問題は無いだろう。

 無理だと判断した場合はランクの変更を蒼真が認めず審査すら必要ないのだ。

 ランクの変更を認めなかった代わりに蒼真はパーティーの訓練に付き合う。

 しっかりとした実力を身に付け、ランクアップの審査に同行して合格としている。


「アイリ。少し訓練をするか?」


「いいんですか!? お願いします!」


「では私は回復しますね!」


「え!? 回復が必要なんですか!?」


「いえ、腕とか疲れるじゃないですか!」


「な、なるほど……」


 少し不安なアイリ。




 とりあえず宿にも近いという事で西側の岩場に向かう。


 途中工房に寄って冷たいコーヒーをもらう。

 千尋とリゼは剣を作っていて、蒼真達が来たところで一休みとした。




 西の岩場での訓練はミリーの時同様に防御を徹底的に叩き込む。

 防御の型を教え、ある程度の速度であればしっかりと防御ができるようになった。


 アイリは魔力制御が上手い。

 剣での魔法の使い方を説明し、物理操作グランドで剣を操作するところから教える。

 元々地属性魔法も使えるアイリは上達も早く、体の動きに合わせるように剣を動かす。


 しばらくするとアイリは体の痛みに気付く。

 普段これほど体を動かし続ける事がない為だ。


 ミリーが回復魔法をかけると痛みも引き、再び訓練を続行する。


 蒼真の刀の速度は少しずつ上がっていき、アイリは必死で食らいつく。

 汗を流し、息を切らせながらもなんとか耐え続ける。

 蒼真の攻撃が止むとすぐにミリーは回復し、そしてまたアイリの息が整うと再開する。

 ただひたすらに繰り返しの訓練だ。

 泣き言一つ言わずに続けるアイリの根性も相当なものだ。


 およそ二時間続け、現在十七時。


「うん。アイリは筋が良いな。今日はここまでにしようか」


 蒼真は満足そうにアイリを見る。


「ありがとうございました!」


 汗でぐっしょりとなったアイリに回復をかけるミリー。

 アイリは顔を紅潮させているので暑いのだろう。

 蒼真も風魔法と冷気の魔法で周囲の温度を下げる。


「アイリさんは上達が早いですね…… 少し自分に自信が無くなりそうです」


「ミリーはヒーラーだろ。ヒーラーでその強さになる事の方が難しいと思うがな」


「私はミリーさんに少し憧れます。今は朱王様に好かれたのも何だかわかるんですよ」


「あ、憧れですか!? 何だか照れます!!」


  顔を赤くして恥ずかしがるミリー。


「汗は引いたな? そろそろ帰ろうか」


 一旦工房に寄ってからエイルに戻る事にする。

 千尋とリゼも作業をやめ、蒼真達の帰りを待っていたようだ。

 戸締りをして工房を後にする。






 アイリは汗をかいたのでお風呂に入る。

 今日はミリーやリゼも一緒に入る。

 千尋にブロー魔法をかけてもらう為、今のうちにお風呂に入ってしまうのだ。


 蒼真や千尋はシャワーで済ませ、テラスで寛ぎながら女性陣を待つ。




 しばらくして戻って来た三人。


 まずはリゼの髪にブロー魔法をかける。

 リゼに使用するのはアップルティーの香り。

 前回作った物をリゼが気に入って使っている。

 毛先に向かうにつれてフンワリと柔らかく仕上げるのがリゼ仕様。




 次にミリーの髪。

 ミリーに使用するのはシトラス系の爽やかな香り。

 リゼとの違いは全体をフンワリと柔らかく仕上げるところ。

 指通りもよく、ふわふわした髪がミリーのお気に入り。




 アイリは初のブロー魔法。

 千尋の見立てでヘアオイルを選ぶ。

 綺麗めなアイリにはオリエンタル系を選択。

 ムスクな香りがアイリの雰囲気をさらに引き立てる。

 サラサラとしたストレートな髪に仕上げてみた。


「すごいですね! とても良い香りがします! あとこのサラサラな髪はなんですか!? 自分の髪じゃないみたいです!!」


 アイリもすごく喜んでくれたので千尋も満足だ。






 夕食を食べた後は、アニーとリンゼも交えて女子会を開催する。もちろんレイラも参加だ。


「さぁて、ミリー。お話しを聞かせてもらいましょうか」


 ミリーに詰め寄るリゼ。


「今日はアイリさんと砂漠地帯に行ってきましたよ?」


「そうじゃないのよ。朱王さんと…… そうね、今朝起こしに行ってからなかなか戻って来なかったけどどうしたのかしら?」


「け、今朝言ったじゃないですか!」


「今も聞きたいなー」


「むぅ…… キ、キスしてました……」


「朱王様ぁ……」


 ガクッと項垂れるアイリ。


「キスはどんな感じでしたの!?」


 リンゼも興味津々のようだ。


「どんなって…… チュッて……」


 真っ赤になりながら答えるミリー。


「それだけ!?」


 身を乗り出すリンゼ。

 恥ずかしさのあまり下を向くミリー。


「他には!? 言いなさい!!」


 熱くなってミリーに掴みかかるリンゼに皆んな若干引いている。


「し、舌を絡めたりもしてました!!」


 ヤケになって大声で言うミリー。


「よーーーっし!! 良いよぉミリーさん!」


 キャラが変わっているリンゼにさらに皆んな引いている。


「今日はキスだけ!? 他には何もしてないの?」


 さらに詰め寄るリンゼ。


「ま、まだキスだけです…… 皆さん待ってましたしそこまでです……」


 顔を押さえて言うミリー。


「そっかー。まぁそれは仕方ないよね! じゃあ今度はバシッと! …… あれ? 皆んなどうしたの?」


 ふと、周りの視線に気付くリンゼ。


「リンゼさんは欲求不満みたいねぇ」


 レイラがポツリと呟く。


「あ、いえ…… ダイジョウブデス」


 嫌な予感がして縮こまるリンゼ。


「リンゼは進展したのかしら?」


 自分の事は棚に上げ、上から問うリゼ。


「ハウザーはまだ気付いてないの……」


 落ち込んだように言うリンゼ。


「当たり前だ。私やベンダーにばっか絡んでるじゃないか」


 アニーがビシッと言う。


「だって意識しちゃって恥ずかしいの!」


「このヘタレが!」


 アニーもイラっとするヘタレ振り。


「ハウザーは最近リンゼの事見てるけど、嫌われたと思ってるんじゃない?」


 リゼからはそう見える。


「ええ!? すっごく好きなのに!?」


 心底驚いたように言うリンゼ。


「避けられてたら嫌われたかと思うでしょ」


 アニーは額に手を当ててため息を漏らす。


「うぇえ!? ど、どうしたらいいの!?」


「告っちゃえ」


 焦るリンゼにあっさり返すアニー。


「フラれたらどうするのよぉぉぉ……」


 涙目になるリンゼ。


「大丈夫ですよ! ハウザーさんもリンゼさんのむぐぉ……」


 途中まで言うミリーの口をリゼが押さえる。


「明日私がハウザー呼び出すからね。リンゼも覚悟を決めなよ!」


 アニーが本気っぽい口調で言うと、リンゼも渋々と頷いた。


「さて、アイリさん?」


「何でしょうかレイラさん?」


「あなたの好きな人は誰なのかな?」


「朱王様です!」


「ダメですよ!」


 話しが終わってしまいそうだ。


「きょ、今日はミリーや蒼真と一緒だったじゃない? 蒼真はどうだったの?」


「蒼真さんはいい人でした。教え方も上手いし優しいし怖い人ではありませんでした!」


「うんうん、それで?」


「産まれて初めてブスと言われました……」


「「「「ええ!?」」」」


「あわわ、あの! アイリさんが変な表情してたからですよ!?」


「それでも女の子に向かってブスは酷いわよ!」


 女性陣から非難の声があがる。


「でも私の装備を選んでくれたのは蒼真さんですからね。可愛くてとても気に入ってます」


「蒼真さん好みに仕上げたそうです!」


 ミリーは蒼真のイメージ回復の為に言ったのだが、リゼはリゼなりに解釈した。


「美人とも言ってくれたのでプラスマイナスゼロですよ」


 うーん。と納得できないでいるアニー、リンゼ、レイラ。


「この髪飾りも蒼真さんがくれました!」


 笑顔で髪飾りに触れるアイリはとても綺麗だった。






 一方、千尋と蒼真の部屋では……


「オレさ…… リンゼに嫌われてるみたいなんだよ。オレ何かしたかなぁ? わっかんねー……」


 ハウザーがお悩み相談に来ていた。


 千尋も蒼真も知っている。

 リンゼがハウザーをチラ見を超えてガン見している事を。


「ハウザーってさ、彼女とかいるの?」


「ああ? いるわけないだろ? 全然モテないんだからさぁ」


「じゃあ好きな女はいるのか?」


「え…… こ、答えなきゃダメか?」


「知ってるからいいや」


「なんで言ってねーのにオレがリンゼ好きなの知ってるんだよ!?」


「よくわかった」


「あ……」


  簡単に乗せられたハウザー。


「相談してくる時点でバレバレでしょ! それにハウザーは気付いてないんだよねー。リンゼはハウザーをめっちゃ見てるよー?」


  千尋…… 自分も気付かないだろ! と思う蒼真。


「本当か!?」


「ああ本当だ。今すぐ告ってこい」


「まじかよ!? んでもなぁ…… うん、よし、善は急げって言うしな! 行ってくる!」


 走ってリンゼの部屋に向かったハウザー。


 数分後に戻って来る。


「なんか部屋にいなくてな…… 明日にするわ……」


 勢いがなくなってそのまま部屋に戻って行くハウザーだった。


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