第45話 掃討作戦

 朱王を見送って工房でコーヒーを飲む四人。


「今日から朱王さんの魔剣作りしよっか」


「ちょっと待ってよ千尋。武器屋のナーサスさんから手紙届いてたじゃない」


「あ…… 忘れてた」


「私達の剣を欲しがるお客さんが多いからいくつか届けて欲しいって書いてあったわよ?」


 以前、三本の直剣を武器屋に卸したところ、すぐに買い手がついたという。

 それを購入した客が知人にも見せびらかした事で、新たな客が次の武器の入荷を待っているという。

 まぁ購入した客は聖騎士の三人なのだが。


「じゃあバイクあるし、今日は王国に皆んなで行かないか?」


「行きたい!」


「バイクで行く! 竜車は嫌!」


「楽しそうですね! 王国に行きましょう!」


 という事で王国の武器屋に行く事にした。


 行きと帰りで運転を変わる事にして、サイドカーのトランク部に武器を入れていく。

 トランクに入らない槍などはサイドカー横に着いたキャリアに固定する。

 キャリアの固定ワイヤーにも魔力鍵のロックがかかるようになっている。


 王国までは一時間と少しらしいので弁当も要らないのでそのまま向かった。


 アルテリアの街の中は朱王に言われたようにゆっくりと走り、西門から抜けて南下。

 南から回って東に向かう。


 現在十時半。

 時計も付いているので便利だ。

 バイクは全開で走るとやはりヴェノムの方が速いが同じペースで走り、時速80キロ程度で走り続ける。

 このバイクは舗装されていない地面であっても振動が少ない。

 竜車のようにゴツゴツとした乗り心地ではなく実に滑らかだ。

 ミリーなどはサイドカーに乗り込んで、ゆったりとした姿勢で寝ようとさえしている。

 サイドカー内はとても快適で、シールドを調整する事で走行風が顔に当たらないようにも出来る。

 内部には風の魔石と冷気の魔石、暖気の魔石が装備され、温度調節も可能だ。

 さらに、ゼノンはサイドカーが付いているのにも関わらず、バンク出来るところが良い。

 バンクして曲がる事ができる為、普通のバイクと同じ感覚で運転できる。


 一方、千尋とリゼが乗っているヴェノム。

 二輪のバイクだがリゼやミリーも苦もなく乗れる。

 普通であれば倒れてしまうかもしれないが、魔法の効果で倒れる事はない。

 停止した状態で跨っても倒れないのだ。

 両手を離すと倒れてしまうので、朱王からはしっかりと注意を受けている。

 そして倒れないのでバックギアも付いている。


 どちらのバイクも魔力を消費する。

 その消費量はおよそ時速60キロで走って、一時間あたりの魔力量3,000ガルド程。

 通常魔力回復込みで3,000ガルドだ。

 交代して乗る事や、休憩を取りながら運転する事が望ましい。




 王国に着いたのが十一時半。

 まだ昼前だが少し早めの昼食を摂る事にした。


 前回食べたパスタ屋さんにまた行き、夏場で暑い為冷製のパスタを食べた。

 お土産の麺もたくさん買って店を出る。


 やはりバイクを停めておくと珍しいのだろう、人集りができていた。

 人集りに入っていき、お土産をパニアケースに入れてバイクに跨る。

 たくさんの人々に見送られながら走り出すのだが、何気に恥ずかしかったリゼとミリー。

 千尋に先導してもらい、武器屋へ向かう。




 武器屋前に着くと店主が飛び出してきた。


「ああ…… お前らか。何事かと思ったぜ」


 バイクのエンジン音に驚いて飛び出して来たらしい。

 物珍しそうにバイクを眺めている。


「ナーサスさん、武器を持って来たよー」


「おお! 待ってた待ってた!」


 トランクから複数の武器を取り出し店内に運び込む。

 槍も合わせて全部で十本。

 前回同様魔力300ガルド仕様だ。


「ほんとすげー出来だな…… どれもが一級品以上でこの数量。これならまたすぐに売れちまうだろうな」


「お客さんはまた聖騎士なの?」


「いや、聖騎士だけじゃなく貴族の連中も入荷はまだかと言って来たぞ。複数欲しいと言うのもいたが、一度に購入できるのは一本のみと言っておいた。ただ飾って置くだけの貴族に売るのは勿体無いだろう?」


「確かに使って貰わないと意味はないわね」


 契約書を手渡され、全て書き込んでいく千尋とリゼ。

 千尋が各種七本。

 リゼは直剣を三本。

 今回は武器にも名前を付けて来たので悩む事はない。

 サラサラと書き終えて値段を付けてもらう。


 さすがに十本もの武器に値段を付けるのには時間がかかり、少しの間待っている。




「朱王様!?」


 店に飛び込んで来た一人の男。

 二十歳前と思われる男が店の中をキョロキョロしている。


「朱王さんの知り合いか?」


 蒼真が男に声をかける。


「そうだ! 朱王様はどこにいる?」


「いないがどうした?」


「あの乗り物は朱王様の物! あれは一体どうしたのだ!?」


「あの、私はミリーと言います。朱王さんの友人です。あのバイクは朱王さんから譲ってもらったんですよ」


「友人? ねぇミリー、友人なの?」


 ミリーの顔を覗き込んでくるリゼ。


「い、い、今はまだ友人です!」


 赤面しながら答えるミリー。


「友人か…… 朱王様に友人とは珍しい! 私は朱王様の部下、ロズと言う。よろしく頼む」


「部下? ドロップを売ってるのか?」


「そうではないが…… 少し話がしたい。君等はこの後時間はあるか? 」


 ナーサスに値段を付けてもらい、店を後にする。




「さすがにバイクは目立つからな…… 信用できる者の元へ預ける事はできないか?」


「ロナウド様のところに預けて来るわ」


「そうだな、変な奴に触らせたくないしな」


「では預けたらここに来てくれ」


 紙には地図が描かれている。


「…… 絵が下手だな。これじゃわからない」


「ぐぅ…… んん? ロナウド? 聖騎士長様の事か!?」


「ええ。そうだけど」


 驚いたロズにリゼが答える。


「で、ではロナウド様のやしきに行ってくれ。私も向かう」


 千尋達はバイクに乗ってロナウド邸へ向かう。




 出迎えたシスルは、バイクの停める場所を案内する。駐輪場というわけではないが広い小屋だ。


「ロズがここで待つように言ってたから待たせてもらっていいかしら?」


「はい、では客室にお茶をお持ちします」


 客室に案内され、ロズを待つ。




 しばらくするとシスルと共に客室に来たロズ。


「まさか朱王様だけでなくロナウド様の知人とはな」


「ロナルド様は私の叔父みたいな方よ」


「なるほどな」


「ロズさん。朱王さんの部下ってどういう事ですか?」


「まずは朱王様からどこまで聞いているかだな。その後なら答えてもいい」




 朱王から聞いた話を蒼真が話す。

 朱王の魔力についても話すとロズは驚いていた。


「朱王様が人間相手に魔力を放出するとは驚いたな。ロナウド様以来初めてじゃないか?」


「聞いたのはここまでだ。今は旅に出ているからな、帰って来たら話す事があると言っていた」


「なるほど…… 私は朱王様の組織、クリムゾンの隊員だ。組織の目的は魔族からの人間族の防衛。主な任務は各国の情報収集と魔族と繋がる人間の探索だ」


「魔族と繋がる人間?」


「人間は欲深いからな。貴族の中には国の平和よりも自分の地位や身分、利益を優先する者がいるだろう? 魔族と繋がって国を滅ぼし、自分が国の王になろうという輩もいるわけだ」


「魔族がそれを許すかな?」


「魔族には強い魔力を持つ人間を食う事で魔力を高められるという思想があるらしいからな。人間を管理する人間の王がいても良いという事かもしれない」


「この国にもいるの?」


「ああ、一人魔族と繋がっている奴がいる」


「どうしてそう言い切れる?」


「実際魔族が邸にいるからな。送り込んだ仲間からの情報だ」


「どうして放っておくの!?」


 リゼが立ち上がって問う。


「誰が踏み込むんだ? ロナウド様一人であの数は相手にできない。いくら聖騎士でも勝てないかもしれない。レオナルド様とレミリア様も行けば勝てるかもしれないが、潜んでいる魔族はそれだけじゃないかもしれない。全て憶測でしかないが国を危険に晒す事を朱王様は良しとはしない」


「確認できているのは何体いるの?」


「報告によると十体いるそうだ」


「んなっ!?」


「ロナウド様が二体倒して以降は成りを潜めているが、いつ動き出すかもわからない。私も多少は戦えるがはっきり言って魔族相手では勝ち目はない」


「オレ達が踏み込むのはダメか?」


「君達の実力を知らないからな。魔族と戦った経験はあるのか?」


「アルテリアに来た二体はリゼとミリーが倒した」


「本当か!? しかし十体…… その数を相手にできるのか?」


「やってやれない事もないだろう。オレ達が二体ずつ相手にするから千尋は四体だな」


「ちょっと待て! なんでオレが四体なの!?」


「武器二つあるだろ? いけるいける 」


 相変わらず適当な事を言う蒼真。


「うーん。まぁミスリル弾ぶっ放せばいいか」


「そうだ。魔族を引き入れる奴の邸だぞ? 破壊しても何も問題はない」


「…… 本気でやるのか?」


 呆けたように問いかけるロズ。


「私はやるわよ!」


「朱王さんの為になりますか?」


「…… 正直、朱王様は望んだりはないだろうな」


「何故そう言えるの?」


「朱王様も先代魔王と同じく人間族と魔族の争いを望んではいない。朱王様は先代魔王を優しい魔族だったと言っておられた。全てを守れる優しい存在だったと。朱王様はあれほどの力を持ちながらも、自分の弱さを恥じている。全てを守る力が欲しいとよく言っていたよ」


「魔族をも傷つけたくないって言うの?」


「そうではない。我々を危険に晒したくないんだ。自分が強ければ、四大王を倒せるだけの力があればそれで済む話だろう?」


「でわやりましょう!」


「…… 朱王様は望んでいなくてもか?」


「私は朱王さんの力になりたいんです。目の前に朱王さんの敵がいるなら叩き潰します!」


「そうか…… それなら頼んでもいいか?」


「任せてください!」


「先にロナウド様に報告しよう。突然襲撃したのでは我々はただの犯罪者だ。それと私の代わりにバランに同行してもらう事にしよう」


「なんでバラン?」


「バランは私の兄だ。朱王様の部下でもある」


「あまり似てないね!」




 聖騎士を含めての会議が行われ、掃討作戦を決行する事になった。

 魔族と繋がりのある貴族邸への襲撃に参加する為、バランと合流したロズ。


「場所はダライオの邸。かなり広い邸だが魔族は地下にいるはずだ。まずはダライオの捕縛して地下への入り口を案内させる。そこからは君等次第となるが……」


 千尋達を見て言うロズ。


「なぁロズ。ダライオの邸で暴れたら王様が直接狙われる可能性が高いんじゃなかったか?」


 バランはあまり話を聞いてないようだ。


「ああ、そうだ。レオナルド様達がいるから大丈夫だと思うが、ロナウド様とバラン以外の聖騎士全員も待機してもらってるから問題ないだろう」


「なんかさ…… すごい大事になってない?」


「急に不安になってきましたよ!」


「やる事は変わらない。行って斬って終わりだ」


「蒼真、発言が犯罪者っぽいわよ」






 時刻は十四時。


 ダライオの邸に到着し、白昼堂々殴り込む。

 門番に引き止められるが押し通る。


「主人を呼べ! この邸内に魔族を匿っているという情報がある! 調べさせてもらうぞ!」


 バランと騎士二十人が邸に向かっていく。

 バランに続いて進む千尋達。


 邸に入ろうとしたところでダライオと執事らしき男が扉を開けて出てくる。


「ここを誰の邸と思って入って来ている! 聖騎士が不法進入とは随分だな!」


 ダライオが怒鳴り声をあげる。


「これはこれはダライオ伯爵。お目にかかれて光栄です。魔族隠匿の容疑がかかっておりますので捕らえさせて頂きます」


 バランは頭を下げて、執事の首に剣を突き付ける。

 執事は剣を中程まで抜いていた。


 騎士がダライオを捕らえて腕を縛る。


「さぁ、案内して頂きましょうか? 伯爵」


「魔族だと? そんなもの私の邸にいるわけがないだろう!!」


「千尋。出番だ」


「あいよ」


 ダライオの肩を掴んで笑顔を見せる千尋。


 次の瞬間……


「ぎぃやあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」


 ダライオの悲鳴と迸る電流。


「次、ミリー回復して」


 回復魔法で焼けただれた肩も癒されていく。


「魔族の元へ案内してくれよ伯爵」


「そ、そんなものは知らん! ぎぃやあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」


 一回目より長い放電。

 再び回復するがミリーは浮かない顔をしている。


「魔族はどこにいるんだ?」


「わ、私は…… 奴等におど、脅されて仕方なく!」


「ふーん。で? どこ? 案内してよ」


「邸の…… 地下だっ。そこにいるから、もうっやめてくれ!!」


 怯えながら答えるダライオ。


 ダライオと執事に先頭を歩かせて案内させる。


 屋敷の大広間に入って右の壁。

 隠蔽魔法のかかった壁だった。

 魔法を解除すると扉があり、開くと地下に繋がる階段があった。


 ダライオと執事は再び先頭を歩いて階段を降りていく。

 地下は通路になっており、大きな部屋がいくつもあるようだ。

 地下にたどり着いたダライオと執事は走り出す。


 通路の向こう側にいた魔族の元へ。


「たっ…… 助けてくれ! やつらを始末してくれ!」


 ダライオはそのまま奥へと逃げていく。


 現れた魔族は四体、いずれも人型の男三人と女一人。

 禍々しい魔力を発しながらこちらを見ている。


 スッと前に出る千尋。


「オレの受け持ちは四体でしょ? あれやるよー 」


 軽く言い放つ千尋。


「おい千尋! 魔族相手だぞ!? 全員でやるべきだろ!」


「バラン邪魔するな。千尋がやるって言うんだから任せろ」


「は? 蒼真何言っ……」


 千尋がエンヴィとインヴィを抜いて魔力を練る。

 歩きながら双剣で岩の壁を破壊する千尋。

 千尋の行動に理解できないまま、魔族も向かってくる。


「リク、いくよー!」


 千尋はベルゼブブを抜き魔族へ向ける。

 千尋の魔力が膨れ上がり、発砲すると同時に崩れた岩壁が全て消える。

 銃弾が直撃した魔族はもう一体の魔族を巻き込んで岩の弾幕に押し潰され、直後に双剣が突き刺さる。

 千尋がエンヴィとインヴィを引き止めて発射を遅らせた為最後に突き刺さった。


 あまりに呆気ない仲間の死に驚く魔族。

 千尋は突き刺さった双剣に魔力球を叩き込む。

 魔力2,000ガルドの剣。

 双剣に溜まった魔力で発動したのは炸裂弾。

 狭い地下通路では逃げ場がなく、残りの二体は小規模な爆発に飲み込まれて抵抗する事なく息絶えた。

 容赦ない千尋の攻撃。


「千尋の本気は初めて見たな」


「あんなの防ぎようがないじゃない……」


「千尋さんが別人のようですね……」


 声も出ないバラン。

 千尋の強さは知っていたがここまでとは思いもよらなかった。




 さらに奥へと進む。

 また通路の向こう側に四体の魔族。

 その後ろにはダライオと執事。


「奴等強いな。さっきの四人もかなり強いんだがもう倒して来たのか……」


 魔族の男が声を漏らす。




「じゃあ次は二体ずつ私とミリーで行きましょ」


「やっちゃいますよー!」


 魔力を練るリゼはルシファーを薙いで歩き出す。

 ミリーはミルニルを手に持ち魔力を放って歩き出す。


 突如、壁を破壊して出て来た他の二体がリゼとミリーに襲いかかる。


 ミリーはミルニルを叩き付けて全力爆破。

 魔族の爪もろとも身体を破壊する威力。

 リゼもルシファーで氷結の乱撃を放ち、凍りつきながらバラバラに砕かれていく。

 突然現れた魔族は地面に着地する事なく息絶えた。


 蒼真も風を纏って駆け出す。

 ミリーとリゼの間を駆け抜けて風刃の横一閃。

 二体を同時に斬り裂いた。


 ミリーも駆け出す。

 リゼは振りかぶって蒼真の横にいる魔族へ音速の剣尖を放つ。

 蒼真に気を取られていた魔族は頭を突き抜かれて絶命。

 ミリーに向かう魔族は駆け出して爪による攻撃を放つ。

 魔族の半端な攻撃にミリーの渾身の一撃。

 爪ごと肩まで破壊され、とどめに頭を打ち砕かれた。


 地下に降りておよそ三分。

 魔族掃討作戦はあっという間に幕を引いた。




 ダライオと執事、邸の者を全て捕らえて連行する。


「お前ら強すぎるわ。さすがに引いたぜ」


 顔を引攣らせて笑いだすバラン。


「実はリゼとミリーに全部持ってかれると思って焦った」


「急に出てくるからびっくりしたわよねぇ?」


「はい! もうイラっとしてガーン! ですよ」


「あーもうどーしよ! レベル上がった感じしないっ! どうすれば上がるの?」


 千尋は自分の魔力量の感覚からレベルが上がっていない事を読み取ったようだ。


「あれ? 王宮の方うるさくないか?」


 バランが耳を澄ます。


「そうだな。金属音も聞こえる」


「向こうも魔族がいるんでしょうかね?」


「ロナウド様が危ない! 行きましょう!」


「「「「それはない(だろ)(です)」」」」


 リゼの心配を全員で否定して走り出した。


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