第29話 打ち上げ
十八時になり、役所に近い酒場に集まる冒険者達。
騎士団もすでに集まっていた。
今日はどこのパーティーも近場のクエストを受注していたらしく、アルテリアを拠点に置く冒険者が全員集まった。
街を護る者が全員集まって大丈夫なの? と思った千尋だが、街の見張りを仕事とする者もいると言っていたので一先ず安心だ。
ハウザー達も集まっており、千尋達の近くの席につく。
アブドルが挨拶して乾杯する。
千尋達は地球では未成年だが、この世界では十五歳で青年とされる為お酒も飲んで構わない。
全員ザウス王国の酒で乾杯する。
アルコール度数は高くなく甘めで炭酸があり、スパークリングワインのような味で飲みやすくどんどん飲める。
料理も街の中央に構える店だけあってとても美味しい。
わいわいと騒ぎながら盛り上がる店内。
役所の職員も全員参加しており、日頃の冒険者を労うつもりでお酒を注いで回っていく。
受付のカリファは千尋達のパーティーを担当する事が多かった為、クエストで魔石をどれだけ集めてきたのか言いふらしている。
常に数え切れないほどの魔石を持って来る千尋達に、彼女も後処理にかなり苦労していたのだろう。
ある程度盛り上がったところでアブドルから一つ発表される。
もちろんエンチャントの件だ。
「今回の街の防衛に協力してくれた皆んな。街を代表してお礼を言わせて欲しい。ありがとう! 明日にはこれまでの防衛に関する費用を支払いするので、午前には役所に集まって欲しい。私からも少しだけ色をつけてお渡ししたい。あと、役所側からだけでなく千尋君からも皆んなにプレゼントがあるそうだ。武器の性能を格段に上げてくれる魔石だが、こちらは明日の夕方に対応してくれるそうなので各々武器を持って来てくれ」
アブドルからの発表を聞き、ハウザーが千尋に質問してくる。
「千尋からもらえる魔石ってなんだ? 武器の性能が上がるとかわけわかんねーけど」
ハウザーだけでなく他の冒険者達も首を傾げながら千尋を見る。
「んー、そうだなぁ。ハウザーはダガーを二本使うんだよね?」
「ん? ああ、そうだけど?」
「状態の良い方を貸してよ。お試しで強化するから。あ! 嫌なら解除できるからね!」
「…… んじゃあこっち頼む。気に入って使ってるやつだ」
「ありがとう。それじゃお試し…… 時間かかるけどね」
千尋は魔石をダガーに当ててエンチャントを施す。
周りの冒険者達も興味深く見つめている。
三分程で魔石が消え、ダガーのエンチャントが完了。
ハウザーにダガーを返して魔法を発動させてもらう。
「え…… なんだよこれ。とんっでもねーぞ!?」
火属性魔法を発動させ、ダガーが燃え上がり炎の刃が豪と揺らめく。
もう一方のダガーからは火が出ないのを確認し、魔力の流量に驚くハウザー。
「どお? 気に入ってくれた?」
「どお? じゃねーよ。ミスリル並みに魔力が流れるじゃねーか!?」
「ミスリルには少し劣るけどねー」
驚いたのはハウザーだけではない。
周りにいた冒険者達、騎士達も炎を放つ鋼鉄製のダガーに驚愕している。
酔い過ぎたかな? などと言うものまでいるくらいだ。
ハウザーのダガーを手渡しに各々確認していき、また驚きの表情を見せる冒険者達。
自衛騎士団に関しては武器が壊れるまで買い替えする事はない。
理由は騎士の剣がミスリルを組み込まれた高価な直剣で、キメラ武器と呼ばれる物だそうだ。
値段も500万リラと、なかなか買えるような金額ではない。
それならば今日エンチャントしても問題ないだろうと、自衛騎士団団長のリヴァリーに問う千尋。
リヴァリーもこれまでのやり取りを見ていた為断る理由がない。
「ミスリルが組み込まれてるなら魔力を溜めれるようにした方が良いねー」
という提案も快く了承される。
自衛騎士団三十名分のエンチャントを、千尋、蒼真、リゼで各十名ずつ行う事にした。
ミリーはエンチャントを施すには雑念が多いので無理ですっ! と断った。
「じゃあ順番に並んでねー」
そう言ってみたのだが…… リゼの前に全員並ぶという事態になった。
リヴァリーが眉間にシワを寄せて騎士団を割り振って十名ずつとなったので問題はないのだが、女性陣は冷たい目で騎士団を見ていた。
そしてリヴァリーもリゼの前に並んでいるのだが。
そんなやり取りもありつつ自衛騎士団全員のエンチャントが終了し、各々その性能を試すというので一旦外に出てもらった。
その見学に行く冒険者も多く、見に行ってすぐに戻って来たハウザーは、今買える一番良い武器を買ってくるからそれを頼む! と言っていた。
当然魔力を溜められる武器の威力は高く、騎士団の放つ魔法はそれまでの比ではなかった。
ただ魔力を放出する魔法よりも、溜めた魔力を魔法にした方が威力が高いのは当然だ。
冒険者達は見学をやめて戻ってくるなり考え込む。
全員が武器の新調を考えているようだ。
「あれ? 千尋…… 今日は剣を持ってるんだな。素手じゃないのか?」
「あーこれ? この剣エンヴィとインヴィっていうんだー。聖騎士の友人から貰ったの! カッコイイでしょっ!」
そう言って地属性魔法で剣を抜く千尋。
手には持たず、浮かせてある。
「聖騎士の友人て…… 当然ミスリル剣としてもその造りから考えたら相当な業物だろ…… 」
「一級品ってなんか高いらしいねー」
グラスを傾けながら、値段などどうでも良さそうに言う千尋に呆れるハウザー。
千尋の剣を見た冒険者達は考えるのをやめて新調する事に決めた。
千尋を見てると悩むのがアホらしくなってしまう。
良い武器に魔法を付与させてその後また稼げばいい、楽に稼げるようになるのだから問題はないと考える事にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、朝から役所に詰め寄った冒険者達は報酬を受け取ってすぐに武器屋に向かう。
その日、武器屋が未だかつてないほどの売り上げを叩き出したのは言うまでもない。
街にいる冒険者全員が全財産を持って武器を購入していくのだから当然だ。
普段の売れ筋である鋼鉄製の武器には目もくれず、高級品のミスリルが組み込まれたキメラ武器、ミスリル製の武器が多く売れた。
ハウザーも全額右のダガーに注ぎ込んだらしく、ミスリル製の装飾の入ったダガーを購入した。
1,200万リラというかなりの高額な買い物に嫌な汗をかいたという。
しかしエンチャントを終えて性能を試すと、これまでの物とはわけが違うと満足していた。
ハウザーはブルーランク。
このダガーの性能ならと、明日はキラーアント討伐をパーティーのみで挑戦するそうだ。
同じパーティーのリンゼもミスリル製のスタッフを購入していた。
アウラのパーティーはまだイエローランク。
まだ所持金も少ないだろうとは思ったが、役所からは相当な金額が支払われていたようで、人数分のキメラ武器を購入できたようだ。
そして陰ながら一番頑張っていたであろう街の魔法医師達。
彼らには所長から直接ミスリルのワンドが手渡され、もちろんエンチャント済みの特別仕様だ。
夕方から始めたエンチャントだったが、ミスリルに付与させるだけなので九十人いてもすぐに終わった。
「千尋。この街の冒険者を代表して礼を言わせてもらう。ありがとな」
ハウザーは笑顔でお礼を言う。
「でも、皆んなと相談して決めたんだんだが、今後はその魔石を無償で与えるのは無しで頼む。武器屋も商売だしな、それを無償で性能を引き上げてくれるってのは何か違うと思う」
「んん、そうだね。でもオレ達の友人が無事だったんだ。それはハウザー達冒険者や騎士団が街を守っていてくれたからでしょ? 今回はそのお礼として受け取ってくれればいいよー」
「ああ、それなら素直に受け取れる。あと無料じゃないなら今後も頼みたいって思ってるんだがどうだろう」
「お金を取るのか…… いくらくらいだろね?」
「ハッキリ言って並みの冒険者じゃ支払えないほどの価値があるとオレは思う。でもそこは千尋次第かな……」
ハウザーも決められないと複雑な表情をする。
「千尋君。勝手ではあるが冒険者の稼ぎを考慮して価格を提示してみてもいいかね?」
アブドルから提案があるようだ。
「うん、所長の提示する金額を参考にしたいかも!」
魔石に関しては千尋しか作れない為、蒼真達も口を出さない。
「では鋼鉄製の武器は魔力の流れを良くするというので100万、ミスリル系は魔力を溜め込む仕様で500万ではどうだろう。安く言ってしまって申し訳ないが、冒険者の収入を考えるとこのくらいになる」
「その値段でも安いのか…… んー、じゃあそれで引き受けるよ!」
武器強化は今後もお金を払えば出来るという事や、程よい価格設定に冒険者達も納得と安心をした。
もろもろ終わって宿屋に帰ろうとしたところでリンゼが千尋に声をかけてくる。
「あの千尋さん! 皆さんのみたいに武器をお洒落にしたいんですけど…… できませんか?」
「ん? できるよー」
「待て待て千尋。無料ではダメだからな! リンゼが稼いでくるからそれでやってくれ」
ハウザーが価格をつけろと言ってくる。
リンゼも頷いている。
「あ、でも装備の代替えないから長くは預かれないよねー。エンヴィは剣だし」
「私のスタッフならあるわよ?」
「どんなのだ?」
「一級品の
「やめてくれ…… 家買えるような武器を代替えで出さないでくれよ」
とりあえずお金を貯めてからという事で保留となった。
他にも武器には装飾を施して欲しい冒険者はいるようで、今後依頼を受ける事にした。
「ただいまー! レイラお腹減ったよー!」
宿屋に着くなり空腹を訴える千尋。
「ごはんは十八時からね! あ、そうだ。千尋さん宛にすっごい量の荷物が届いてるわよ」
「んん? なんだろうね?」
「王国のロナウド様からって運んで来た人が言ってたわ」
「ああ!!」
「千尋、どうしたんだ?」
「何を焦ってるんですか?」
「ゴメン、レイラ。私も言うの忘れてた」
千尋とリゼは知っているようだ。
「実はね、魔剣作った後に残った材料とか機材をもらう事にしたのよ……」
「ロナウドさんねぇ、あれ置いてかれても使い道ないって言うからさぁ……」
「なるほどな。機材と素材あれば武器作れるからな」
「職人さんやれちゃいますね!」
「アルテリア戻ったらどこか置くとこ借りるつもりだったのに忘れてたわ……」
頭を抱える千尋とリゼ。
「ある程度金もあるし、倉庫借りればいいだろう」
「ゴメン、明日は倉庫探しでもいい?」
「戻って来てすぐあんな騒ぎがあったんだし仕方ないですよ! 倉庫探ししましょう!」
「空き店舗とかでも良いよねー」
明日まで宿屋の倉庫に預かってもらう事にし、とりあえず部屋に…… と思ったが今朝チェックアウトしていた。
また男女で二部屋借りる事にしたのだが、やはりリゼはレイラにからかわれていた。
夜にレイラがリゼ達の部屋に向かい、また女子会が行われたという。
夕食後、シャワーを浴びてソファでお茶を飲んで一息つく千尋と蒼真。
「千尋、機材があるならミスリル職人やれば良いんじゃないか? 武器屋にそのまま卸すのもありだと思うし」
「その間蒼真とか暇でしょー?」
「昨日他の冒険者達に少し戦闘を見て欲しいと言われたんだ。所長もアルテリアの戦力増強が必要って言ってたしな。オレ達も常に街にいるわけじゃないし訓練がてら他のパーティーに同行を考えてる」
「あー、確かにそうだね。遠征する場合もあるわけだし。魔族はそうそう来ないとは思うけど、亜種と戦えるだけのパーティーはある程度居てほしいね」
「リゼが冒険に出られるようになってそうそうこんな提案するのもどうかと思うが……」
「高難易度クエストが出た時とか、何日かおきにとかでオレ達のパーティーで受けるので良いんじゃない?」
「そうだな、装備の依頼もあるだろうから千尋はリゼと組んでくれ。オレはミリーと他の冒険者に同行する」
「あいおー」
明日の予定は千尋とリゼが倉庫か貸店舗探し。
蒼真とミリーは他の冒険者に同行する事となる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現在の設定
名前:
年齢:17歳
レベル:7
魔力量:18,672ガルド
冒険者ランク:シルバー
【武器】
ベルゼブブ(銃)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:ノーム(リク)
インヴィ(片手直剣)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
エンヴィ(片手直剣)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
名前:
年齢:17歳
レベル:8
魔力量:35,206ガルド
冒険者ランク:シルバー
【武器】
魔力量:4,000ガルド
エンチャント:なし
精霊:シルフ(ラン)
名前:ミリー
年齢:18歳
レベル:8
魔力量:63,155ガルド
冒険者ランク:シルバー
【武器】
ミルニル(メイス)
魔力量:3,000ガルド
エンチャント:
半精霊:
名前:リゼ
年齢:16歳
レベル:7
魔力量:72,891ガルド
冒険者ランク:ゴールド
【武器】
魔力量:1,000ガルド(先端)
500ガルド(二枚目)
250ガルド×18枚
計6,000ガルド
エンチャント:隣り合う部品を使用者の魔力で繋ぐ
精霊:フラウ(リッカ)
精霊:ウィンディーネ(シズク)
名前:レオナルド
年齢:19歳
レベル:10
魔力量:78,449ガルド
職業:聖騎士
【武器】
魔剣レーヴァテイン(片手直剣)
魔力量:4,500ガルド
エンチャント:飛空斬
精霊:ヴォルト(グロム)
名前:レミリア
年齢:18歳
レベル:10
魔力量:75,184ガルド
職業:魔術師団副団長
【武器】
魔力量:4,000ガルド
エンチャント:
精霊:シルフ(アリア)
名前:ロナウド
年齢:46歳
レベル:10
魔力量:98,543ガルド
職業:聖騎士長
【武器】
魔剣デュランダル(片手直剣)
魔力量:4,500ガルド
エンチャント:
精霊:サラマンダー(メテラ)
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