第16話 精霊
宿に戻り、エイルでの夕食中。
「リゼは精霊魔術士なんだよな? 今はその精霊はどうしてるんだ?」
「精霊は以前使っていた魔杖に契約してたのよ。冒険者を辞めた時に杖を使わなくなったから契約を破棄したの。今はルシファーがあるから魔杖は必要ないし…… あれ? ルシファーでも契約できるわね」
「そうなんだよ。オレの兼元にも精霊を宿す事ができるんじゃないかと思ってな」
精霊魔術。
属性の精霊を器に宿し、イメージから生み出される魔法よりも高位の魔法を使用する事が可能になる。
精霊と契約する為には器が必要で、器となるのは魔力を溜め込む事ができる武器や防具となる。
一般的には魔木から作られる魔杖を器として精霊と契約をするのだが、魔杖は魔力の流れが遅いため前衛としては戦えない。
後衛で時間をかけて魔力を練り、精霊に魔力を受け渡す事で精霊魔法を発動する。
精霊を宿すための器の魔力許容量はおよそ1,000ガルドとなるが、孫六兼元やルシファー、ミルニルなら問題ないはずだ。
「私のもできるんですか!?」
「ミリーも精霊と契約できるわよ」
「え…… オレのベルゼブブだけできないって事!?」
「千尋は今日作った魔石があればできるんじゃないか? 魔力を溜め込むって条件をエンチャントすればいい」
「その手があった!」
千尋も安心して胸を撫で下ろす。
「精霊と契約するには魔法陣と呪文を唱える必要があるわ。魔法陣は精霊の姿を形成する為に必要なの。自分の武器に魔力を溜めて描けば発動するわよ。呪文は属性ごとに違うから精霊魔術の本を読みながら呼び出す事になるわ」
「オレは風の精霊と契約したいからシルフだな。上位精霊のジンと契約したいが呪文が載ってなかった」
実は蒼真が昨夜読んでいた本に精霊魔術の事が載っていた。
過去に下級精霊と上級精霊が確認されたとあるが、上級精霊の召喚方法などは記載されていなかったようだ。
「上級精霊は下級精霊に取り次いでもらわないと召喚できないと聞いた事があるわ。だからまずは下級精霊との契約をしましょ」
「私は何が良いでしょうか…… 魔法は爆破しかできないですからね」
「どの精霊でも良いと思うけど、自分が得意とする魔法と同じ属性だと威力が高くなるらしいわね」
「じゃあ火属性にします!」
「オレはノームかなぁ。地属性精霊なら強化もしてくれるよねー」
千尋は素手で戦う事を前提にノームを選んでいるが、誰も気づいていないようだ。
「私は氷を使いたいからフラウかしら。みんな精霊の名前を考えておいてね。名前を呼ぶと出て来てくれるから呪文の詠唱も要らなくなるの。あと、コーザ達にも精霊との契約を見てほしいから明日は研究所でやらない?」
というわけで明日の予定が決まった。
その後千尋は消音に魔力量2,000ガルドの魔石で上書きエンチャント。
【魔力を溜め込む】
静音が消えてしまった為、今後銃を撃つ時は魔法で音量を抑えることにする。
翌日、研究所を訪れた。
精霊魔術書を開いて契約したい精霊を選ぶ。
・火の精霊サラマンダー
・水の精霊ウィンディーネ
・氷の精霊フラウ
・風の精霊シルフ
・雷の精霊ヴォルト
・地の精霊ノーム
と、魔術書には載っている。
全て召喚はできるが、氷の精霊、雷の精霊などは契約した例がないと書かれている。
もしかすると器となる魔杖の魔力量が足りなかったのではないか、という事も踏まえて呼び出してみる事にする。
まずはリゼからやってみる。
武器に魔力を溜めて描くのは精霊召喚の魔法陣だ。
呪文を唱え精霊を召喚する。
魔法陣が淡く光を放ち、呪文に呼応して冷たい光の柱が立ち昇る。
現れたのは身長10センチ程の小さな女の子。
白く長い髪に大きな目、透き通るような白い肌に短い着物のようなものを着た精霊だ。
フラウはリゼのルシファーを見つめ、器となり得るか確認しているようだ。
フラウは首をフルフルと横に振り、ルシファーは器にはならなさそうだ。
「ルシファーの先端は1,000ガルドくらい溜まるんだけどね。刃節のエンチャントを魔力2,000の魔石でやったらできないかな?」
千尋の思いつきで先端の魔力1,000程の刃と、二番目の魔力500程の刃を魔力2,000の魔石で連結を再エンチャント。
ルシファーをジッと見つめるフラウ。
パアッと嬉しそうな表情をしてフラウがリゼを見つめる。
どうやら器として使えるようだ。
「あなたの名前はリッカよ。よろしくね」
リゼは手のひらに魔力を集め、フラウに渡すと魔力を取り込んだ。
フラウは満足そうに笑顔を見せてルシファーへと入り、光の柱が消えてリゼはルシファーを鞘に納める。
「なんとかフラウとの契約が成立したわね。みんなも同じようにやってみて」
次は蒼真が兼元で魔法陣を描く。
呪文を唱え精霊を召喚する。
現れた精霊シルフはフラウよりも小さい妖精のような女の子だ。
身長は10センチもない。
白い肌に大きな目、尖った耳と長い緑色の髪。
簡素な布を纏い、背中からは透き通った羽が生えている。
兼元を見ると嬉しそうに飛び回る。
目で追いきれないほどのスピードだ。
「お前の名前はランだ」
手のひらに魔力を集めると、シルフは蒼真の手に飛び込む。
魔力を取り込んで兼元に入り、蒼真が鞘に納めたところでまた出てきて柄に座っていた。
随分と自由な精霊らしい。
千尋も同じように魔法陣を描くのだが、銃の為描きづらそうだ。
呪文を詠唱すると魔法陣が光を放ち、大地が揺れ動く。
現れた精霊ノーム。
筋肉で膨れ上がった手足に、バッファローのようなツノの生えた毛むくじゃら。
髭の生えた老人? には見えないがこの世界のノームはこのような姿なのか。
フラウやシルフに比べて少し大きく、体長は20センチ程となる。
千尋はあまり気にするわけでもなく魔力を渡してベルゼブブを近づける。
「君の名前はリクだよ」
千尋に会釈をしたノームはそのままベルゼブブに入った。
ミリーもメイスの尖った部分で魔法陣を描いていく。
呪文を詠唱して現れたのはサラマンダー。
背中から炎を噴き出す真っ赤な火蜥蜴だ。
頭の先から尾までの長さが30センチ程で、尾の長さが体長の半分ほどとなる。
「サラマンダーさんの名前はホムラです!」
手のひらから粒子の魔力をサラマンダーに注ぐとクルルルッと鳴き、炎の翼を生やしてメイスの中に吸い込まれる。
どの精霊も名前を考えたのは千尋と蒼真だ。
日本の言葉で属性にあった名前がいいという事で昨夜決めていた。
全員精霊と契約が終了し、コーザ達は資料をまとめに戻っていった。
「精霊魔法使うのはどうするの?」
「名前を呼べば器から出てくるわ。精霊も顕現したばかりだから、まだ子供みたいなものよ。最初は与えた魔力を魔法として放つくらいしかできないから、少しずつ教えていく必要があるわね。まずは精霊を呼び出して、普段使う自分の魔法を見せると良いわ」
「私の魔法は爆破しかないですけど……」
「成長してくればミリーを見て足りない部分を補ってくれるわよ。精霊は言葉を話せないけど、理解はできるから話しかけるのも重要ね」
「なるほど! ホムラ!」
顕現するサラマンダー。
ミリーの腕にしがみついているが熱くはない。
「ふぉお! すごい! なんだか精霊は可愛いですね!」
「最初から戦闘訓練で使うのは危険だな。とりあえず個人練習をしようか」
という事で四方に散って精霊との訓練を始める。
「リク」
顕現したノームは千尋の頭に載っていた。
「オレの魔法はいろいろな属性を使うんだけどさー、その中で必殺技と言えるのがリクと同じ地属性なんだよー」
リクは理解したのか千尋の髪をクイクイと引っ張る。
「これから練習するんだけど、まずはオレの体の強化をして欲しいんだよねー」
と言って魔力を少し渡してみる。
リクが腕を前に突き出すと、ドゴンッと目の前の地面が盛り上がった。
「…… 違う。それじゃない」
首を横に振って違う事を伝える。
「体の強化をするの」
自分の体をパンパンと叩き、ムンッと力を入れて見せてから魔力を渡す。
すると千尋の体が軽くなり、どうやら強化ができたようだ。
「おー! すごい! これだよリク!」
褒められた事を理解したらしく、また髪をクイクイ引っ張る。
「よーし、次は石を浮かせるよー!」
千尋が魔力を込めて近場の石を複数浮かせて見せる。肩の周りに石を浮かせ、拳を振るうのに合わせて石も動かす。
石を落として自分が使った魔力と同程度の魔力をリクに渡す。
前方に腕を突き出して魔法を発動するリク。千尋が浮かせるよりも多くの石が浮かび上がり、肩の周りに集まる。
千尋が拳を振るうと、少し遅れて石が追従する。
この辺は少し慣れが必要なようだが、最初にしては上出来と言えるだろう。
しばらくそのまま訓練を続ける事にした。
「ラン」
呼ばなくても柄に座っているシルフ。
「なんで呼ばなくても出てるんだ?」
蒼真を見て笑顔で羽をパタパタさせるラン。
「まぁいい。オレの魔法を一つずつ見せるから、そのあとで同じように魔法を発動してくれ」
ランは飛び上がって少し離れて蒼真を見る。
蒼真は兼元を抜いて魔力を練り、右袈裟に風刃を放つ。
手加減しているが並みのモンスターでは耐えられないであろう一撃だ。
蒼真が振り返ると、ランはクルリと回って兼元へと飛び込んだ。
魔力を練り、先程と同じように風刃を放つ。
ランのタイミングがズレたのか頭上へ飛んで行く風刃。
兼元から再び出てきたランが不思議そうに首を傾げている。
「ランは魔法を飛ばせるのか」
蒼真にとって嬉しい効果、遠距離攻撃が可能になるようだ。
「リッカ!」
真っ白な精霊がリゼの前に現れる。
リゼを見ながら髪の毛先を手で持ち上げている。どうやらリゼの髪型の真似をしたいらしい。
「リッカはストレートの方が可愛いと思うわよ? 」
言うと手で梳いて真っ直ぐに伸ばし始めた。
リッカが終わるのを待ってから話しかける。
「私の水魔法を凍らせて欲しいの。発動に合わせて凍らせてくれる?」
嬉しそうにコクコクと頷くリッカ。なんとも可愛らしい。
ルシファーを抜くとリッカは飛び込む。
魔力を練り上げ、乱れ舞うようにルシファーを振るうと同時に水魔法を発動。
ルシファーの刃全てから氷の刃が周囲に舞い散る。
氷魔法は他の魔法に比べて魔力の消費が大きく、水魔法の三倍もの魔力を消費する魔法なのだが、水魔法と同じ分の魔力で発動できた。
単純に考えて以前の半分の魔力で氷魔法の発動が可能となった。
「リッカすごいわね! 可愛い上に魔法も完璧!」
嬉しそうにリゼを見るリッカ。
今度は自分の服を気にしだしたところを見ると、どうやらおしゃれに興味のある精霊のようだ。
今度精霊の服の精製方法を調べてみようと思うリゼだった。
「ホムラは火を出せるんですよね? 私は爆破しかできないんですよー。私の魔力でもホムラの魔法は使えますかね?」
クルルルーと鳴いてホムラは応えているようだ。
メイスを片手に地面にミルニルを打ち付けると爆発が起こる。
「こんな魔法なんですけどホムラはできますか?」
ミリーは魔力をホムラに注ぎ込む。
ホムラは羽根を広げて舞い上がり、大きく息を吸って炎を吐き出す、炎のブレスだ。
「ふぉぉぉぉお!? なんで火を吐いてるんですか! びっくりしましたよ!?」
炎を吐いた後は気分良さそうに飛ぶホムラ。
ホムラはひとしきり飛び回った後にミルニルに飛び込む。
「むぅ。難しいですねぇ……」
ホムラが入ったままだが普段通りに魔力を込めてミルニルを横薙ぎに振るう。
すると炎の一閃が走る。普段の爆破ではなくブレスのような炎が吹き出す。
さらに地面に叩きつけると炎と同時に爆破が起こる。
「すごい! 私の魔法に炎が追加されました! ホムラ見ましたか!?」
また腕にしがみついたホムラがクルルルと鳴いて応える。
午前中いっぱい訓練して昼食を食べに街に出た。
全員が精霊魔術士になれたお祝いとして高級料理店に行く。
今日は千尋とミリーの希望で焼肉店だ。
「それじゃオレ達が精霊魔術士になれた事を祝ってカンパーイ!」
各々食べたい肉を焼いてどんどん食べる。
呼んでないのに勝手に出てくるランとホムラは焼肉を見て首を傾げている。
蒼真が肉を口に運ぶのをランがジッと見つめている。
食べたいのかと思ったが違うらしい。
魔力を少し与えると喜んでいた。
同じようにミリーが肉を食べるのをホムラがジッと見ている。
「食べたいんですか?」
「精霊が食べるわけないでしょ!」
箸でつまんだ肉をホムラに差し出すミリー。
パクリ…… ムグムグムグムグ。
食べた。
普通に肉を食べるホムラ。
「え…… ちょっとどうなってるの? 精霊が食事をするなんて聞いた事ないわよ? 半精霊のドラゴンじゃあるまいし!」
……
……
……
「うそ!? 火竜って事!?」
「ん? サラマンダーじゃないんですか?」
「そういえば、私が知ってるサラマンダーは羽根がないわ! 最初顕現した時は羽根がなかったもの!」
「ヒーラーが精霊を召喚した事って今まであったのか? ミリーはいろいろと普通じゃないから、火蜥蜴が火竜だったとしたも驚かないけどな」
「…… いや、驚くでしょ!?」
さすがに千尋もツッコんでおく。
その間にもホムラは肉を求めて口を開けて待ち、ミリーはホムラの為に肉を焼いている。
焼肉より生肉の方が好きなのでは? とも思ったが言わないでおく。
「ミリー、ホムラの事はサラマンダーって事で通してくれる? いろいろ問題になるかもしれないから」
「わはりまひた。わはひのほむははふぁあまんあーえふ!」
ムグムグしながら答えるミリーとまだ肉を求めるホムラ。
四人が食事している間、ホムラはミリーから肉をもらい、ランはリッカを引っ張り出して飛び回り、リクは千尋の頭の上で店の音楽に合わせて体を揺らしていた。
リゼは精霊ってこんなに自由だったかしら? と不思議に思いながらも千尋達の様子を伺う。
精霊達の自由奔放さを何も気にせず、デザートのシャーベットを四人分注文していた。
昼食を終えた後はリゼは研究所に、千尋と蒼真、ミリーは各々精霊との信頼関係を築くべく別行動をとる事にした。
リゼは練習中に自分の水魔法よりもウィンディーネとフラウの組み合わせの方がより優れているだろうと考えた。
後日千尋から魔力2,000ガルドの魔石を三つ貰い、刃四つを連結で再エンチャント。計算上魔力量1,000ガルドとなった部分にウィンディーネを契約。
ウィンディーネの名前はシズク。
青くて長い髪に色白な肌。水着を着て腰布を巻いた可愛らしい精霊だ。
リゼが思った通り精霊同士の相性が良く、水量増による氷魔法の拡大に繋がった。
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