第12話 源治の過去
廃館での1件から数日凛は菫のもとで過ごしていた。菫と過ごす時間は今まで源治と暮らしていたゆえの男女間の問題を気にせずに済、むしろあのデリカシーゼロの化身とひとつ屋根の下で過ごさないことがこんなにも快適だとは思っても見なかった。
今や凛にとって菫は憧れの人だった。立ち振舞は優雅に、気配りもでき家事全般も難なくこなせる。敷いて欠点があるとしたらボディタッチが多いことと凛の前でも気にせず服を脱ぐことだった。これさえなければ完璧なのに・・・。それと同時にこんな完璧超人が戦闘だけの粗暴な源治と一緒にいる理由がよくわからなかった。ある日に昼下がり3時のティータイムを二人で楽しんでいる所に凛は思い切って聞いてみた。
「ねぇ、なんで菫さんって源治と一緒にいるの?もしかして弱みでも握られてる?」
「・・・HMM、ついに聞いてきたか。今まで結構な数の人間に同じことを聞かれてきたからそろそろだとは思っていたが・・・。そうだな強いて言うならあいつは不器用だがみんなが思っている以上に繊細で寂しがり屋でね、そんな所が堪らなく愛おしいんだ」
うっとりしたように話す菫を凛は信じられないと言った顔で見る。その反応に気づいたのか
「その顔は疑ってるね?実例を話すとそうだな・・・。今私と君が出会ったのも君がここにいるのも源治が考えた上と言ったら信じるかい?」
菫の答えにブンブンと首を横に振る凛。そんな凛を見ながら菫は続ける。
「君、初任務の時に吐いたそうじゃないか。源治はそれを見て同姓の私と姉のことでも話せば気が紛れると考えたんだろう。あの時君に私と暮らすように言ったのはまぁ本人が情緒不安定になっていたのもあったがそれと同時に休暇を与えたつもりなんだろうね。源治と組んでからしょっちゅう怪異狩りに駆り出されていたんだろう?」
菫に指摘されはっと凛は気づいた。思えば人狼の件以降もほぼ毎日規模の大小に関わらず源治に連れ回されていた。
「思うところがあったみたいだね、まぁ他にも彼なりに君を元気づけようとしたりしたんだろうがどうやら気づいてもらえなかったみたいだね」
思えば菫の所へ行く前の風呂場での1件、あれも源治なりに訓練に疲れた凛を元気づけようとしたギャグだったのかもしれない・・・ダダ滑りだったが。
「わたし・・・そんな事考えもしなかった」
「その点については凛くんが気に病む必要は全く無いよ。むしろ女心を理解できずに親切と思えない親切を行ったのはあいつだ。気づかれないのは自業自得さ」
そんな事を言いながら紅茶を飲む菫。その仕草を見ながら凛はそもそも凛が菫の所に住む原因となったあの廃館での出来事を思い出す。
「あのさ・・・岩永亜希って誰?」
岩永亜希。その名前を聞いた菫の紅茶を飲む手が止まる。そしてゆっくりとティーカップを小皿の上に置けばふーっと宙を仰いでため息をつく。
「やっぱり覚えていたのか」
「そりゃぁあんなに派手な出来事にまつわることなんて覚えてるよ。もしかして前に言ってたあいつの彼女?トラウマってことは別れたってこと?あいつも結構繊細なところがあるんだね」
色恋が気になる年頃なのか捲し立てる凛。しかし。
「確かにあいつと彼女はもう付き合っていない。なぜなら彼女はすでに死んでいるからね」
菫の返答に自分が特大級の地雷を踏んだことに気づきバツが悪そうに目を泳がせる凛。
「もしかして・・・聞いちゃいけないことだった?」
おずおずと話す凛に菫がゆっくりと口を開く。
「・・・これが若さゆえの過ちというやつなんだろう。そうだね、この話は君の姉の静葉も聞いたことがない話だ。・・・それでも聞くかい?」
先ほどとは打って変わった菫の雰囲気に言葉を詰まらせる凛だったが、源治が今まで自分を理解しようとし気にかけていてくれたこと、それに対して自分は拒絶しかしてこなかった事を思い出し、今度は自分が源治のことを理解しようとする番だと思い力強く首を縦に振る。
「どうやら腹をくくったみたいだね、いい目だ。意思の強い子は好きだよ私は。では、お茶を入れ直そう、お茶菓子も減っているね。すまないがそこの棚にある缶の容器を取ってくれ少し長い話になるからね。」
言われたとおりに茶菓子の入っているにしては少し重い気もする缶を棚から取り出しテーブルの上に置く凛。少ししてティーポットに茶葉とお湯を足してきた菫が戻ってくる。
「実はこの容器は特注でね、底を決められた手順で弄ると・・・ほら開いた。」
容器の底は二重底になっており、中からは紙の束が出てきた。
「一見なんでもないようなものにこそ秘密は隠れているものさ。ほら、これが資料だ」
手渡された紙の一番上にはタイトルが記載されており、そこには「退魔隊員及び武闘家の連続殺人事件とその顛末について」と書かれていた。
「なにこれ・・・こんな事件習ったことも読んだこともない」
その物騒なタイトルに戸惑う凛。
「だろうね、この事件は退魔隊でも秘中の秘トップシークレットだ。私がこの資料を持ってることは秘密だぞ。・・・さて、どこから話そうか。まずは一五年前、源治がまだ退魔隊の一員としてブイブイ言わせ始めた頃から話すとしよう」
そして語られるのは葛城源治という男の過去。源治が最も憧れ最も愛した女の話だった。
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