四月 末日。深山桜の評論。

 四月も終わりが近づき、桜がそろそろ咲こうとしている。そんな中、私は後輩の始和と午前中、陽子と午後に一緒に喫茶店に行こうと誘われていた。


「これはブッキングしなくて良かったわ」


 四月にしては珍しく、シトシトと雨が降り、喫茶店の広い窓ガラスの外には暗い雨雲が広がっている。後輩が来るまでの後15分、私は二人のことについて考察をすることに決めた。所謂、人間観察だろうか。

 私、深山桜は最近、ギクシャクしていた同じ常任委員会の和泉山陽子と常任委員会の後輩の余月始和の唯一の共通の知人であると自負している。

 陽子とは高校に入ってからの知り合いだ。切っ掛けは私が入学式で彼女に教室を教えたことだ。それからというもの別のクラスではあったが話す機会も多く、私が常任委員会に入ると言ったら一緒にやると言って結局一緒にやることになった。孤高を気取ったわけではなかったが中学校では堅物と思われていたし、一緒に行動する同級生というものは新鮮であった。

 逆に後輩の始和とは中学校の時から先輩と後輩という間柄だった。中学校では私がやっていた部活に新入生の彼女が入ったことが切っ掛けで彼女とは知り合った。最初はそこまで話すような関係ではなかったが、彼女が才能を開花させるにつれて次期部長に内定していた私は自然と彼女と話す機会が増えていった。始和の方は陽子と異なり、部活以外ではあまり関わる方ではなかった。ただし、部活内での会話は交流は群を抜いて多かったので、周りからは部活の以外でも仲が良いと思われてたと思う。陽子と始和、この2人はとても対称的だと感じる。人との関わり方のスタンスや考え方などがだ。


 ふと時間がどれ位経ったのかが気になり、腕時計を見る。後輩との約束の時間までは後5分となっていた。考察への没頭を解き、外の風景へと目を向ける。雨は先程より少々強まった印象を受ける。雨量は増えているようには見えないのでおそらくは風のせいだろう。木々は先程よりは大きくその枝を揺らしている。外を眺めていると傘を差した後輩が小走りで走ってくる。時間を過ぎていないのに急ぐあたりらしいとは感じるが。30秒もしないうちに喫茶店の扉が開き、ベルが鳴る。彼女は傘立てに傘を置き、ハンカチで少し濡れた髪を拭いた。そして店員に一言二言、喋ってから私のいる席の方へやって来た。


「深山先輩、お待たせしました」

「ううん、気にしなくていいわ。約束の時間まではまだあるから」


 こんなことをわざわざ言うから細かいだとか、時間にうるさいだとか言われるのだろう。わかっていても止められない癖というものは多い。


「それより貴女は何を頼むの?私はこのティラミスとダージリンにしたけれど」

「う~ん、私は…。バナナジュースとイチゴのショートケーキにしようかな」

「あら、コーヒーは飲まないのね」

「私が苦いのが苦手なのはしってるじゃないですか。先輩こそコーヒーは頼まなかったんですね」

「あら、言ってなかった?私、紅茶の方が好きよ。コーヒーも飲めるし嫌いじゃないけれど」

「ずっとコーヒーばかり飲んでいたからちょっと意外ですね」

「基本、ティータイムは一人楽しんでいるわ。だから私としてもこれはレアかもしれない」

「そうなんですか」


 私も彼女もコーヒーは頼まなかった。何というか、常任委員会室では皆コーヒーかペットボトルのお茶を飲んでいるのでこの光景は私にとっても新鮮だ。ここで彼女がバナナジュースを頼むのも意外といえば意外だ。しかしコーヒーを頼まないと考えるとこの店の秘かな人気メニューのバナナジュースを頼むのは変ではないだろう。ただ、少しの幼さを感じさせる注文内容をうけて少し私は安心する。ああ、達観しきっているわけではないのだろうと。


「なんだか始和と喫茶店に行くなんて、想像もしていなかったわ」

「それは私もです。深山先輩も私もこういう付き合いを部活とか先輩後輩ってだけでする感じではないですから」

「そうね。逆に言うと今日は何か相談でもあったの?」


 私は疑問を口にしてしまう。陽子にも私の疑問は詰問に聞こえるからもう少し柔らかい聞き方をするか答えてくれるまで待った方が良いと言っていたが自制する前に口から声が滑り落ちる。もう少しこの不器用な声掛けを直さないと。


「えぇっと…。言いにくいんですけど」

「長くなっても構わないわ。大丈夫よ」


 始和は気にしないで話してくれるようだ。


「深山先輩は先週末、先輩と仲直りしろみたいなことを言ったじゃないですか」

「ええ、お互い知らないことがあるのだから誤解も生じるから気にしすぎないでと言ったわ」

「それで今週、話したんです。先輩と」

「そしたら先輩がその、私相手に緊張していたのは私が好きなんだと思うって言いだして。どう反応していいかわからずに“はい”って答えちゃって…」

「どうしたらいいんでしょう」


 それはこちらが聞きたい。陽子が始和に憧れていたのは知っていたし、あの時微妙な空気になっていたから陽子が何かしたとは思ったからフォローはしたが、まさかこんな急展開をするとは思わなかった。流石に予想外だ。


「えっと。まず確認したいのだけど付き合ってほしいとは言われたのかしら」

「そういう訳ではないと思います。単純に好きなんだと思うと言われたので」

「そうか。そうなのね」


 どうやら陽子が焦って気持ちを直接的に伝えてしまったということのようだ。好きだからどうしたいとかは言っていないようだし。


「それなら、少しずつ陽子の好きがどういう好きで貴女と陽子がどうしていきたいかを見極めるのが大切だと思う」

「どういうことですか。それ」

「完全に今までどおりとはいかないし、それは無理だけど陽子を相手にしてどうしたいか、一緒に居たいのか、そうではないのかとかを常任委員会の活動とか休憩とか場合によっては休日を使って確かめていったらということ」

「なるほど。確かに告白はされましたけど、どうしたいかは聞いていないですし」


 だから、そうした方がいいと私は思う。この言葉を飲み込んでしばらく始和が考えるのに任せる。さすがにアドバイスで針路を固めてしまうのはよくはない。しばらくして――


「わかりました。深山先輩の言っていたことを参考に自分なりにできることからして行こうと思います」


 始和はこう答えた。こういう所が彼女の良いところなのだろう。自分の中で考えとして昇華させ、役に立てる。相手をちゃんと考えているからこそ妥協はしない。彼女のそういう所が素っ気ない感じではありながらも人を引き付けるのだろう。本人は意識していないか、気づいていない気がするが。始和のこの一言以降はただの雑談となり、ある意味高校生らしい時間を過ごした。



 始和と別れてから約1時間後、今度は陽子が喫茶店にやって来る。鉢合わせにならなかったか不安になりつつも、3杯目の紅茶を陽子が注文するタイミングで注文する。


「陽子、ところで始和とは仲直りできたのかしら」


 直球を放つ。陽子は分かっているので大丈夫だ。甘え過ぎには気をつけたいが。


「えぇっと、怒らないで聞いてくれる?」

「貴女が犯罪まがいのことをしていなければ全く問題ないわ陽子」

「その…、好きだって言っちゃった」


 顔を赤らめてモジモジしながらあまり大きくない声でそう呟く。聞いてはいたが本人から聞くと衝撃の大きさは変わるものだと感じる。


「それ自体は悪いものではないわ。問題はどうしたいかだと思うけど」

「そこが問題なの。どうすればいいかわからなくて……」


 いつものクールさはどうした。いつもの毅然とした態度はどうしたと言いたくなるのを抑えつつ、アドバイスを口にする。そのアドバイスは始和にしたものと内容は基本同じ。それもそうだろう、好き言ったはいいがどうしたいかを決めていないのならそう言うしかない。そう言って陽子にもアドバイスをする。


「そうやって、貴女の好きがどういう好きかを確かめるしかないんじゃない陽子」

「ありがとう桜、流石学年トップ」

「学年トップは関係ないわ。次席さん」


 アドバイスをした後の陽子は直ぐにいつもの明るい感じに戻った。こういうシンプルな考えをできるところが羨ましい。それゆえにあんなに直ぐに告白してしまったのだろうが。陽子とも小一時間ほど雑談をして、喫茶店を出る。途中までは同じ道を通り、駅で陽子と別れる。


「桜、月曜日学校で」

「ええ、また月曜日に陽子」


 そう挨拶をしてから陽子は改札へと吸い込まれていった。陽子と別れた後、帰り道を歩きながら考える。2人と会う前に2人は対照的だと考えていたがそこまでではない気がした。同じ内容で面は違うものの一緒に悩んでいる。どちらも著しくタイプの違う人ではない気がする。


「でも、これから…気が重いわね」


 これからしばらくは2人に気を使わなければならないのと今後も相談をすることになると思うと少し気が滅入った。流石に恋のキューピッドというか相談役になるとは予想していなかった。雨は止んだが曇り空の残っている。そういえば来週から5月だったなと思いだしながら後輩と同級生の道のりはどう変わっていくのだろうとぼんやり思いつつ桜は残りの道を歩いていく。

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