四月 第二週 上弦。憧れと理想。

「夢だ……」


 夢。私が告白される夢。私が告白する夢。相手の男性または女性は私の感覚で行けば十分美しいまた可愛らしいと感じられる。その相手に私は校庭で体育倉庫で教室で自分の部屋で様々な所で告白し、された。私がこの夢を夢と明確に気づいたのは私が恥ずかしくなるような台詞を言い、相手のそれを聞き乙女のようになるという所だった。憧れの私ではあるがこれは私ではない。はっきりとわかる、私は憧れはするものの、こんな存在には成れないのだから。バサッと布団を持ち上げて起き上がる。時計はまだ午前4時20分。起きるにはまだ早いだろう。そう思い私は再び横になる。


 見学会から数日後の放課後、私はビラに載っていた常任委員会の部屋を訪れていた。理由は単純だ。私の所属している高校には全生徒が何らかの部活や団体に所属しなければならないという決まりがあったらしい。そのことを忘れていた私には担任からの雷が落ち渋々、貰ったビラの中ではマシに見えた常任委員会に行くことにした。望と桂に常任委員会を見学するといった時は驚かれた。どうやら私は帰宅部になるように見えたらしい。失礼な! いくら何でも校則を破っても帰宅部になるつもりは無い。いくら私立で校則を破る自由があるといってもだ。自由には責任があるというのに先生への印象という責任が。

 常任委員会の教室が見えてきた。緊張して手が震えながら、コンコンと2回ノックをする。少し間をおいてから


「どうぞ、開いてるわよ」


 ビラをくれた先輩とは違う女性の声が聞こえた。


「失礼します」


 ドアを開けると理科や社会科の準備室と同じくらいの大きさの部屋でカーテンが窓に掛かっている。部屋の真ん中に長机が2つあり、そこに栗色の長髪の女性が座っていた。目は灰色掛かった緑色をしている。あれ……どこかで見たような?


「いらっしゃい、見学かしら。ちょっと待ってもらっていいかしら、今私以外で払っていて……。あら、始和もうちに進学したのね、久しぶり」

「あっ、深山先輩。お久しぶりです」


 その長机の奥に座っていたのは中学校で部活の先輩だった深山先輩だった。部長と生徒会長を掛け持ちしていた先輩ならここにいてもおかしくはない。それくらい、文武両道だった。


「また会えて嬉しかったわ、始和。見学に来たのね、ちょっとそこに座って待ってて もらっていいかしら。まだ全員揃ってなくて。コーヒーは飲むかしら?」


 私は椅子に座って先輩のコーヒーを頂くことにした。


「はい、頂きます。ミルクお願いできませんか?」


 ちょっと恥ずかしいがミルク無しでコーヒーは飲めない。お子様だとか言われるけれど、コーヒー自体は好きだ。喉や腹に来る胃もたれや吐き気が苦手でブラックで飲めないだけだ。香りは紅茶と並び最高と断言できる。


「始和ったら、まだミルク無しだと飲めないのね」


 先輩はそう言いながらミルクを入れてくれた。流石、知っているだけあって、対応が優しい。確か先輩は中学の時もコーヒーが好きで顧問の先生から譲って貰っていたはずだ。ここには職員室にあるようなドリップマシンもあるようだし、先輩には天国かも。


「おまたせ」


 先輩が淹れ立てのコーヒーを持ってくる一つは先輩用のブラックの入ったカップ、もう一つはミルクの入った私用のカップだ。


「ありがとうございます」


 久しぶりに先輩のコーヒーを飲む、やはり美味しい。ドリップマシンで作ったものなのでどちらかと言うと先輩と飲むことで美味しく感じるのだろう。


「深山先輩のコーヒーはやっぱり美味しいですね。先輩は委員会で何をされているんです?」


 先輩はその質問に意外そうな顔をしながらこちらに向けて声を放つ。


「私は副委員長をしているわ」


今度はこちらが意外な顔をする番だった。


「少し、意外ですね。委員長でもやってそうなのに」

「確かに立候補しようとしたわ。でも…」


 ちょうどその時、扉が音を立てて開き人が入ってきた。


「桜、お待たせ。今日は新入生にビラを配れたよ。2、3人興味を持ってくれたみたい」


 入ってきたのは女性。あの時みたいに流れる黒髪。あの時みたいに張りのある女性にしては少し低い声。こちらに、いや深山先輩の方を向く顔はあの時に見た――。


「あら陽子、良かったわね。最悪、今年は新入生1人かと思ったから」


 あの先輩は陽子というらしい。黒い髪と顔立ちにしては少し意外だ。失礼そのものでしかないが。


「ええ、本当に。私は2人連れてきたけど……。ねぇ桜、その子……は?」


 あの先輩がこちらに気づき視線を向けた。


「始和のこと?常任委員に興味があるみたいよ」

「そっ、そうなんだ。私の名前は和泉山陽子」

「はい。こちらの和泉山先輩にビラを貰って。特別興味のある部活動もありませんでしたし、こちらの深山先輩とは中学のときもお世話になっていましたし」


 私は経緯を素直に話した。先輩たちに伝わるように。すると


「ちょっと陽子、あなた昨日ビラは配れなかったって」

「あっ、いやごめん。ビラ刷った時にはもういなくて、それでぶらついてたら見つけて渡しただけだから。ビラ配りでは配れてないよ」

「そうなの。でも配れてはいるじゃない!」

「ごめん。でもそれを入れちゃっていいかわからなかったし……。この子は桜の後輩なんだね。そうだったんだ知らなかった」

「そうよ。でも知らないのは当然でしょう、話してないんだから」

「いじわるぅ」

「あなただって、始和に配ったと言わなかったでしょう、お互い様よ」

「そうだけど…」


 2人の会話が弾む、とても仲良く言い合いをしている。負の感情を持たない顔で二人は話す。中学での深山先輩との部活動は楽しかったがその時見られなかった顔を見せている。まるで心置きなく冗談を言い合い、気障な告白を気にせずとも言えそうな関係。今の状況を見て、私は――。


「あのっ!」


 私の緊張した声が2人の空間を切り裂く。


「「なに?」」


 2人はこちらを振り返る。ほぼ同じタイミングだ。後で知ったことだが夫婦山と言われることだけはある。


「私、常任委員会に入りたいですっ!」


――私はほんの少しだけ変わりたいと思った。どう変わりたいかは解らないが。

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