君は陽を追い空を駆ける

豊羽縁

四月 私の始まり

四月 第一週 新月。私に昼は似合わない。

 四月、始まりの月、出会いの月。学生である私にとっては3回目の入学式。新しい出会いや新たな環境に期待、喜び、友達と笑う、そんな季節。でも私にそこまでの楽しみは無い。私には芯がない。友達には明るくて面倒見が良いなんて言われるけど、そんなことはなく、流されるまま近い人に親切をばら撒いているだけだ。打算があるわけでも、友達が大切と思うわけでもなく、ただこの人はここができてないから友達の私が代わりにという程度。いつまでこの八方美人のようなものを続けるのだろうと思い続けること早3年。恋愛漫画やドラマのような理想的な恋をしてみたいと思いながらも私はあんなに一途に人を愛せない。あんなに強い独占欲を持つことは叶わない。1年という繰り返しの中、まだ桜の咲かぬ4月に私はまた新しい出会いをする。自分が変わるという期待を持てずただレールを走る、希望は捨てたまま。


 入学式は何事もなく終わった。特段、校長の話が長いということも面白いことをいうわけでもなく、入学者の代表でもなかったのでただ座っていただけ。そして今、ホームルームが終わり、先生が教室から出ていく。この後は部活動などの見学会があるようだ。


「始和!」


私を呼ぶ声がする。頭を上げると私の机の方に向かってくる人が2人。


「望。何?」


声をかけてきた長身で茶髪の女の子が望だ。


「HR終わったし、見学会行かない?」


 望が私を見学会にさそう。後ろで立っている桂も含めて私たちは中学校からの知り合いだ。


「私は大丈夫だよ、2人はどこ行くの?」

「あたしは弓道部!。桂は?」


 元気溌剌でスポーツが得意そうなイメージ通りの望がこう答えると桂、少し小柄なおかっぱな少女は―――


「私は美術部…。あと地質研究会」


 文系に見えて、意外とアグレッシブな経歴を中学で見せてきた桂は部活の掛け持ちをするつもりのようだ。


「うーん、私は特に決めてないから適当に見て回ろうかな。2人はもう候補決めてるんでしょ?行くつもりの無いところ一緒に回るのは申し訳ないから、バラバラの方がいいと思う」


 このとおり、私には自分というものがない。だから2人と一緒に回っても意味はないだろう。勧誘する先輩にも迷惑だし。


「そっか、始和がそう言うならそれぞれで見学するか。4時半に校門でいい?何かあったら携帯で」

「うん」

「りょーかい」


 望がそうまとめて桂と私は返事をする。私はカバンを持ち、2人とホームルーム教室を出て左に曲がる。しばらく廊下を進むと渡り廊下に出て、望はそこで体育館の方へ向かった、弓道場はそちらにあるらしい。


「じゃ、また」


 望に手を振ってから別れ、階段を降り、桂と一度校舎を出る。


「先に美術部の方見てくる。また後で校門でね」


 桂はおかっぱをくるっと振って、第二校舎の方へ向かった。文化系はそちらに集中しているようだ。

 とりあえず私は適当に先輩達からビラを貰う。特に興味もなく、流されるままの私にはこれが良いのだろう。そうしてビラを貰うのに疲れ木にもたれかかった。風と暮れつつある日差しが心地良い。この心地よさでは風邪をひくまで寝れてしまいそうだ。少し硬いが少しの木漏れ日と草があれば日が落ちるまではこれで十分だ。こういうのが好きだから若作り婆さんとか呼ばれるのだろうか?そうやってぼーっとしていると―――


「ねえ、1年生かな?大丈夫?」


 そこで私は出会った。その時は別に一目惚れでも何でもなかったが。ただ驚きはしたけで最悪の出会いではなかった。


 目を開ける。まず黒い髪が風で揺れているのが分かった。ちらっと見える制服のリボンは青色で確か青色は2年生だから、2年生のようだ。もう一度目を瞬き、ぱちりと開く。開くと目の前に黒髪の先輩がこちらを見ていた。暗い茶髪の地毛でくせ毛の私からしたら黒くストレートな髪がちょっと羨ましい。


「あ…、はい大丈夫です」


 つい私は反射的に大丈夫と答える。


「そう、良かった。木にもたれかかっていたから、ちょっと倒れてないか不安になって」


 名前の知らない先輩は女性にしては少し低い声でそう言った。


「あっ、髪に葉っぱがついているよ、取っておくね」

「すみません、そこまでしていただいて」


 先輩が気づき、頭についた葉をとる。なんか恥ずかしい。


「いや、ちょっとビラ貰い過ぎてここで見てようかなと」


 行動をそのままに答える。もう少し上手いことを言えないのだろうか。心臓は平常だ。一目惚れではない、ならなぜだろう。


「何か、いいところはあった?」


 先輩は何気なく聞いてくる。でも詰問されるような嫌な感じではない言い方だ。


「いや、あんまり。特にこれといったものが無くて」


 私がそう答えると先輩は封筒から紙を取り出した。封筒は学校あての封筒の再利用のように見える。


「そう、もし興味があるなら今度見学に来てくれない?」


 そういって先輩はちいさなA5サイズのビラを渡した。さっきの勧誘の中では貰ってないものだ。


「えっ。あ、はい」


 突然のことで頭が回らなかった私はついそう答えてしまった。見学に興味などあるはずが無いのに。とりあえず受け取ってしまう。


「ありがとう、良かったらでいいからね」


 そう言って先輩は校舎の方へ戻っていく。ビラを目の前に持ってくると「常任委員会」と書いてある。他のビラと比べると少し地味だった。ただコピーされた手書きの字が優しく感じた。そういえばそもそも常任委員会となんだろう?


「先輩?」


 そして、あの先輩の名前なんていう名前なんという名前なのだろう。校門までの道のりは委員会の名前と謎の先輩で頭がいっぱいだった。私の芯の無いな人生は久しぶりに変わった出会いをした。帰ってからの私は先輩のことについてばかり考察していて、部活決めのことなんか忘れてしまっていた。

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