第24話 忘れていたこと

昼。僕たちは今、往来を目の前にしながら道の端に座り込んでいた。

流石に朝から走り回っていればお腹もすくらしい。

四人全員のお腹が鳴り始めたので出店で買ったちょっとした物をこうして食べている。そういや朝はろくに食べていなかった。おにぎり一つだったと思う。


「それにしても暑いな~。やっぱりまだバリバリの夏子さんか」

「その言い回しはなんだよ……。まぁ、まだ九月も序盤だし。ていうか、よく遊んだな~」

「なんというか……テーマパークってこんな感じなんですね」


かぐやは少し疲れたみたいだった。そりゃそうだろう。午前だけで三つか四つの超絶コースターに乗ったのだ。初見でいきなりこれはとんでもない。それでもその疲れ以上にかぐやは楽しそうだった。


「やっぱり四人もいいね~。二人のときとはまた違って賑やかで楽しいや」


言い方に含みがある気がする。かーちゃんはまだとおちゃんのことを根に持っていそうだった。

取り敢えず、ここは第三者として話を逸らしておくことにした。


「そ、それにしてもきれいだね。なんか独特の世界観があるっていうか」

「分かる! 建物だけでも十分凄いもんね」


火山の下に広がる港町と煌めく湖、対岸には古きニューヨークを思わせる街が見える。

湖を取り囲むようにして作られたこのテーマパークはどこの場所でもない独特の雰囲気を作り出していた。

この雰囲気は僕の小さな冒険心をくすぶってくる。もし一人でここに来ていたのならばアトラクションには目もむけずに探索ばかりしていそうだ。


「というか! わたしはちょっぴりご機嫌斜めです!」

「な、なんで……?」

「当たり前だよ! なんでテーマパークでもDIECONの被害に合わなきゃいけないの!」

「なんだ……そっちか……」

「建君! その反応はわたしに対する宣戦布告として受け取っていいのかな?」

「待ってって! だって、かーちゃんは前にDIECONの一番の問題点は周りに心配されることって言ってたじゃん」

「それとこれとは別問題だよ、建君! 乙女心はそんなに単純じゃないのです!」

「面倒くさいなぁ……」

「あ〜、今面倒くさいって言った!」


かーちゃんは冗談半分、本気半分という感じで僕に怒ってくる。かーちゃんのおでこはまだほんのり赤かった。




 時間は少なくともいつもの五倍の速さで過ぎ去っていった。楽しい時間というのはどうも、あっという間に走っていく。

僕たちはそれに追いつくこともできず、徐々に「もう終わるのか」という虚しさを感じるのだ。

すっかり日も落ちかけていた。湖に煌めく灯とその情景はこの世のものとは思えない、幻想郷のようだった。人の騒めきもどことなく寂しさが混じってきた。まるで花火の終わった祭り会場のようだ。

本当に色々なものに乗った。もうここのテーマパークにあるアトラクションのほとんどは乗ったかもしれない。四人で過ごすこの時間は水彩画みたいで、これ以上の幸せはないんじゃないかと思えた。この空間を守るためなら僕はなんだってできるかもしれない。

それでも時間だけからはリツイーターを守れずに、空が一気に赤から青へ、そして闇へと変わっていった。テーマパークの光は星の光を拭い去って、空には月だけが光っていた。


「やっぱり夜もきれいだね。ちょっと寂しいけど」

「そうだな~。また四人で遊びに行こうぜ!」

「当たり前だよ。でも、それ言われると終わった気がして余計寂しくなるじゃん」

「あぁ、ごめん、ごめん」

「私も楽しかったです。なんか、今言うのも変ですけど……ありがとうございます!」

「いやいや、こちらこそありがとね」


そんなことを話しながら湖にかかる橋をテクテク渡っていると、とおちゃんが急にハッと目を見開いてかーちゃんの方へ華麗なターンを決めた。どうしたのだろうか。


「思い出したぞ!!」

「何を?」

「前来た時のこと」

「え……ホントに~?」


かーちゃんはとおちゃんにグッと近づいて怪しげにとおちゃんをジトッと見る。こう見てみると、やはりかーちゃんの背の低さがより浮き立つ。


「ホントだって」

「じゃあ言ってみてよ」

「えっとだな……ちょっと待て。姫ちゃんと建じぃの前は恥ずかしいな」

「とか言って分からないんでしょ?」

「私はとおさんが何言っても特に何も思わないので大丈夫ですよ?」

「僕も大丈夫」

「あんたらが大丈夫でも俺は大丈夫じゃないんだ!」


三人で黙ってとおちゃんを見つめる。無言の圧力だ。無言の圧力の効果は絶大。とおちゃんはすぐに折れた。


「……仕方ねぇな……ほら……あれだ。かっちゃんが……告……は……」

「え~、なんて~?」


かーちゃんがニヤニヤしながら聞いている。僕は何となんとなく察したし、かぐやも分かったみたいだった。

それでもとおちゃんには言わせてみたい。とおちゃんがこんな恥ずかしそうな反応をするのはそうそうない。たいてい彼にはそういう感情が無いので特に何も思わないのだろう。


「だから……告白……」


とおちゃんは頭を寄せてくるかーちゃんから目を逸らして答えた。そうしてかーちゃんはパッと咲いた笑顔で満足そうにとおちゃんに寄せていた顔を離す。


「正解! よくできました!」

「やめろ、恥ずかしい」


いつもとは立場の逆転した構図が新鮮だ。ここまで知ってしまえば、どんな告白だったのかも知りたくなるものだろう。


「とおちゃんはどんな風に告白したの?」

「告白したのは私だよ?」

「え?」

「ちょうど今くらいの暗くなってすぐの時間にここらへんで告白したんだ〜」

「……とおさん」

「な、なに? 姫ちゃん」

「それは忘れちゃダメなやつです! 告白されたのを忘れるなんて最低ですよ!」


かぐやが怒ったような口調で言った。かーちゃんも「そうだ、そうだ」と頷く。女子からの猛バッシングにとおちゃんは慌てて言い訳をし始めた。


「違うんだ。告白自体はセリフまで覚えてるんだけど、どこでとか覚えてなかっただけで……」

「それも中々だけどね。じゃあ……名前だけチェンジさせて、そのセリフをわたしに言ってみてよ」

「は!?」


なんだか、これ以上ここにいるのは申し訳なくなってきた。二人の邪魔をしているような気分になる。しばらくは二人きりで昔を振り返るのもいいのかもしれない。


「あっ、じゃあ後は二人で楽しんで。僕たちはあっちのベンチで待っとくから」

「ちょっと待って、ちょっと待って! 流石に冗談だよ。自分の言ったセリフを聞かされるなんて恥ずかしいもん」

「そ、そっか……」


明らかに本気の声色だったが、言ってから恥ずかしくなったのかかーちゃんは否定した。やっぱりかーちゃんは冗談か本気かが分からない。




 十時もすぐそこまでやってきて、閉園が近づいてきた。結局、閉園二分前の時点でテーマパークの最奥地にいた僕たちは全速力で出口に向かった。

一人、抜きんでて早すぎるとおちゃんを追いかけて、なんとか時間までにゲートに着いた。

ゲートから出れば、そこはもうただの日本で、いつもの空気が肌に馴染んできた。夢から覚めたような、そんな感覚がする。

と同時に、急にお腹が空いてきてゴロゴロと胃が鳴り始めた。周りの騒音がお腹の音をかき消してくれているだろうに、僕の顔は赤くなった。

夢からは覚めたが四人の別れはまだまだ先だ。

このきすぎたお腹をこのままにしておくわけにはいかない。

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