第22話 怪しい封筒

答え合わせをしよう。

なぜ、かぐやは地球の世界に認識されたのだろうか。

リツイーターで買い物に言ってから数日後、かぐやはふと思い立ったように教えてくれた。

言われてみれば単純で、かぐやがネカフェでした説明の通りだった。

とおちゃんとかーちゃんの二人はかぐやに会う前から、僕の彼女としてかぐやの存在を認識していた。一方のかぐやも僕からの電話で二人が来ることを知っていた。

互いに認識した状態であったから、かぐやは地球世界から認識されるということになったらしい。


そんな偶然でかぐやが地球世界に組み込まれてからも、相変わらずに暑い真夏の日々はトントンと過ぎていった。

温暖化かなにかかは知らないが例年よりも暑い気がする毎日には気が滅入る。

かぐやはちょっとずつだけれどかーちゃんたちと喋れるようになってきていた。といってもそれは本当に些細な変化で、一番近くで見ているはずの僕にもなんとか気がつける、くらいのレベルだ。

それでも、やっぱり、リツイーターの四人で遊びに行くうちにかぐやは笑うことが増えたし、冗談を言ったり、目を輝かせることも増えていった。

 かぐやの部屋着は基本的にうさぎのフード服になった。よほど気に入ったらしく、追加でもう一着も買ったほどだ。僕たちが初めて四人で買い物に行ったときにかーちゃんに買ってもらったらしい。

僕には『かぐやの欲しいと言った服を買う』っていう夢があったのに、かーちゃんに先を越されて少し悔しい気分だ。


かぐやは本を読むことが増えた。僕が会社に行っている間に暇であろうかぐやはよく本を読んでいた。

テレビのない僕の部屋での暇つぶしといえばそれくらいしかないだろう。もともと、僕が本好きなのもあって部屋にいくらか本があるのもかぐやをそうさせた原因かもしれない。内容的にかぐやに読ませるのが後ろめたい数冊の本は押入れの奥にしまっておいてから、かぐやには自由に本を読んでもらうことにした。

 夕食を食べてからは、かぐやが日記を書いているのを見るのが日課になった。僕なら三日と経たずに飽きるであろうソレをかぐやは未だに日を絶やすことなく書いていた。

 僕たちの日常は回り始めていた。ようやく安定し始めた毎日には特に変化もなく、安心して明日を迎えることが出来たし、明日が来るのが当たり前になった。かぐやと会ってからのしばらくのドタバタはもうすっかり治っている。

特に不安もないまま、八月は終わりそうになっていた。




八月二十九日(水)


この日もいつも通りの日だった。そう書いてしまうとなんだか日常が壊れたり、世界が突然変化したりしそうなものだけれど、そんなことは無くて別段代わり映えのしない日だった。

 日も沈んでそろそろ帰ろうって時に僕は社長に呼び出された。とおちゃんが「なんかしたか?」とおちょくってきたが面倒くさいので無視する。

社長以外は誰もいない会議室で社長はゆっくりと待っていた。この広い部屋の中で社長と二人きりというのはやっぱり緊張する。

特になにかをした覚えはないが、こんな雰囲気だと流石に身構えてしまった。そんな自分が顔に出てたのか、多部社長はまず僕をほぐすように言葉をかける。


「私、そんなに怖いかな?」

「いや……怖くないですけど……」

「大丈夫、大丈夫。そんなに大した話じゃないから」


そう言うと、社長はなにやら茶封筒を僕の方に差し出してきた。怪しさ満載の封筒をはたして受け取ろうか迷っていると、社長は笑って続けた。


「別にやばい書類とかじゃないよ~。高杉君はテーマパークとか興味あるかな?」


あまりに唐突な質問に間抜けな声が出そうになる。もしかしたら社長は本題に入る前に軽い話で空気を和まそうしているのかもしれない。

テーマパークは行った経験がなかった。行ったことがないのには別に特別な理由があったわけでもなく、単純に機会がなかっただけだ。友達がとおちゃんしかいなかったのだから、人よりそういう機会に巡り合う確率が低かったのかもしれない。

とはいえ、興味がないわけではなかった。社長の質問の意図は分からないままに素直に答える。


「行ったことはないですけど……興味はあります」

「そっか、良かった。これ、千葉にあるテーマパークのチケットなんだ~」

「え、あの有名なですか?」

「うん、あの有名な。それでね、これ高杉君にあげようと思って」

「え!? それは……申し訳ないです!」

「いいの、いいの。なんか商店街の福引きで当たっちゃってね。でも社長、忙しいから期限内に行けそうになくて……使わないのはもったいないし誰かにあげようかな~って」

「いや……でも……」

「どうせ、ただで貰ったやつなんだし大丈夫だよ? その代わりお土産ちょーだいねっ!」



 その後も社長には説得され続けて、遂に僕は折れてしまった。まぁ、相手からの贈り物を断るのも変な話だろう。

社長には何度もお礼を言ってから会社を出る。結局、話はテーマパークのことだけだったらしい。無駄に緊張してしまったのが少し損に感じるけれど、大した話じゃなくて良かった。

電車に乗って、封筒を開けてみると中には四枚のチケットが入っていた。てっきり一枚だと思っていたものだから、これには驚いた。丁度、リツイーター分ある。よくできた偶然に笑いそうになるのをこらえて僕はアパートに帰った。


 テーマパークには九月五日に行くことになった。人を誘った経験がほとんどない僕からすれば誘うだけで一苦労だったけれど、いざ予定が決まれば後は楽しみだけだ。

蝉時雨の中で八月は終わり、すぐに、九月五日はやってきた。

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