第20話 リツイーターを動物に例えた話

「到着~!」

「なんか……凄いな……」


思わずそんな声が漏れる。

着いたのは、女子が好きそうな雑貨品をこれまた女子らしい雰囲気で売っているお店。『今イチオシ!』だとか『あのテレビ番組で紹介!』だとか書かれている紙が所々に散りばめられている店内から察するに今、人気の雑貨店の一つのようだった。

お店には青春を謳歌しているであろう女子高生が何人もいる。僕には青春なんてものが無かったからなのか眩しくて少し怖く感じてしまう。なんだか情けなくなってきた。


「ここはJKの間で流行ってるものが売ってるんだよ」

「……じぇーけー、ですか?」

「上下関係の略のことだ」

「こら、とっちー! 嘘教えないの~。上下関係の間で流行ってる、って意味分かんないじゃん。ホントは女子高生のことだよ、姫ちゃん」

「……ここでは女子高生が権力を持っているんですか?」

「なんでそうなったのかな……。ま、まぁココならいいものたくさん置いてるよ?」

「……俺らは行った方が良い?」

「なんで?」

「なんていうか……ここ女子っぽくて……どうにも入りにくくてだな」

「え~、そうかな? 建君も入りにくい?」

「ま、まぁ……ちょっと恥ずかしいかも……」

「そっか~、じゃあ入ろうか?」


かーちゃんは僕らの手を引っ張って店の方に向かい始めた。

あれ? かーちゃん、話聞いてた? 僕ら行かないって言ったんだけど。

とおちゃんは僕と同じように困った顔をしている。二人で顔をあわせて苦笑い。とおちゃんはこういうことには馴れっこなのだろうか。

店の中は思ってた以上にかわいいで溢れていた。落ち着いたものも沢山あるけれど、それでもやっぱり、おじさんから見たらかわいすぎる。

僕はここにいても良いのだろうか。すごく浮いてる気がする。

かぐやとかーちゃんの二人は慣れないながらに楽しそうに喋っているけど、僕には内容が理解できなかった。二人の間には暗号のような言葉が飛び交っていた。

 日記帳コーナーではあまりの種類の多さに目が飛び出そうになった。かーちゃんがいて本当に良かった。僕ならあまりの種類の多さに圧倒されてなにもできなかっただろう。

かぐやはうさぎ柄で彩られた日記帳を選んでいた。

ボールペンやらシャーペンやらの文房具も見て回った。かぐやが気に入ったらしいシャーペンのノック部分にはうさぎをかたどったストラップが付いている。僕の思っている以上にかぐやのうさぎ好きは重症らしい。

そんな新しい発見もしつつ、店の中を回っていると不意にかーちゃんが僕たちに楽しそうな提案をしてきた。


「ねぇ、リツイーターでなんかおそろい買わない?」

「お揃いか……いいんじゃね?」

「僕も賛成で。かぐやは?」

「私もお揃い欲しい……です」

「決定~! じゃあなにがいいかな? ヘアピンとか?」

「待て、それはおかしいだろ。俺らは男だぞ」

「男だってヘアピンつけても良いんじゃない?」

「俺はつけたくない」

「僕も」

「も~、わがままだな~」


子供が夕飯はなんでもいいって言ったのに、って感じで言われても困る。かーちゃんは冗談で言っているのか本気で言っているのかが分からない。それがこの人の怖い所だ。


「かーちゃん、キーホルダーとかが良いんじゃない?」

「なるほど、それは良い案だね!」

「……キーホルダーコーナーなら向こうにあったと思います」

「いざ出陣!」

「お、おう……」


とおちゃんが戸惑ったように片手を上げる。なんだか、かーちゃんのテンションが高いような気がする。気のせいだろうか?




「こんなにあるんだ……」

「正直、わたしもこの量には驚きを隠せないよ」

「こんだけあったら、お揃いっていうのも簡単だな」

「……この動物シリーズのやつ……とか良いんじゃないですか? それぞれのイメージにあった動物のキーホルダー……みたいな……」

「姫ちゃん、ナイス提案。よくある、動物に例えるならっていうやつだね!」

「とりあえず、かぐやはうさぎっぽい」

「それは確かにそうだな」

「わたしもそのイメージしかないよ」

「そ、そうですか……。嬉しい……です」


かぐやは本当に嬉しそうに笑っている。やはりかぐやは本当にうさぎが好きならしかった。月はうさぎっていうイメージは案外間違っていないのかもしれない。


「かっちゃんは動物で言えばなんだろうな?」

「カエル、かな?」

「それはどうなの? カエルに例えられて嬉しい女子っているの?」

「でも、わたしケロ君好きだよ!」

「だからって自分をカエルって例えるのは……。なんか……泥臭そうだし……」

「あ~! 建君、ケロ君の悪口言った!」

「違うって! ケロ君はデフォルメされてるからいいんだよ! 実際のカエルはあんなにかわいくないから!」


む~っとかーちゃんは頬を膨らます。こんなに表情が豊かな人がカエルに例えられるなんて絶対におかしい。カエルならいつも無表情でいるべきだ。

僕はかーちゃんをなだめるように他の動物に例えてみる。女子が喜ぶような動物がいいだろう。そう、例えば……


「かーちゃんは、猫とかじゃない? 気分屋さんだし」

「なんか悪口に感じちゃうんだけど……」

「たしか、かっちゃん、猫飼ってただろ? ティッシュ好きなやつ」

「スコティッシュフォールド、ね」

「そうそう。後は、かっちゃんは猫っぽいもんな。かわいいし」

「──っ! そういうこと、言わないでよ! 恥ずかしいじゃん!」


まぁ確かに僕が言いたかったようなことをとおちゃんは直球で言った。僕はかわいい猫にでも例えておけば機嫌も直るだろうといった感じで適当に言ったまでだけれど。とおちゃんは割と本気で、恥ずかしがるようなこともなく言った。

かーちゃんは頬を真っ赤に染めている。

とおちゃんはポカンとしながらも、とりあえずで謝っていた。「だって猫耳とか最高にかわいいじゃん」なんて言って火に油を注いでいるのは置いておこう。

かーちゃんの反応が最高に面白い。「ほっといていいのかな?」とでも言いたげな少し困った顔のかぐやと夫婦カップルの痴話喧嘩(?)を暫くは眺めていた。



「ま、まぁ……わたしは猫ということで……」

「あっ、それでいいんだ」

「もしかして、案外気に入ったか?」

「うるさい! それより、とっちーと建君はどうするの?」

「俺は……なんなんだろうな……」

「とおちゃんは虎とかじゃない?」

「これまたマニアックな」

「とおちゃん寅年だろ?」

「随分と安直だな!」

「でも、わたしはとっちーが虎っぽいの分かるけどな~」

「じゃ、じゃあ虎だな!」


かーちゃんが賛成しただけで虎に決めてしまうとおちゃんこそ安直だ、と思うとちょっと笑いそうになった。

虎はネコ科とちまたで聞いたことがある。かーちゃんは猫だし、カップルってことの暗示になっているなんて裏設定まで作れそうだ。なんてくだらないことを考えた。

残るは僕のみだ。僕はなんだろう?

小さいころはよく、キリギリスみたいだと言われてきた。それが悪い意味だと知ったのは大分経ってからだ。


「建は……うさぎ?」

「僕、うさぎなの!?」

「いや、違うだろ。建じぃは犬とかじゃね?」

「理由は?」

「なんというか……いい意味で従順。楽しい時とかは、犬がしっぽ振るみたいに、分かりやすく表情が変わるよな」

「もう少し言い方を考えてほしかった……」

「律義な所とか建君っぽいよ?」


しかし、まぁ言われてしまえば犬な気がしてきた。そう思うともう犬以外出てこなくなる。こういう所が犬らしいのかもしれない。結局、僕は犬だということになった。


 フードコートで昼ごはんを食べてからは再びショッピングモールの探索を開始した。店の中は僕の知らないものばかりだ。

立ち寄った化粧品店ではかーちゃんが得意気に化粧品の説明をしていた。とおちゃんも地味に詳しいのが怖い。かぐやがはリップクリーム一つだけを買っていた。

雑貨屋さんではうさぎのヘアピンも買った。かぐやは早速、アメピンを付けてるのとは反対の左側にうさぎヘアピンを付けていた。ヘアピンは随分とかぐやには似合っていた。




 日も沈み始めたころ、僕らは食料品コーナーにいた。今夜は僕のアパートで四人一緒に食べようということなので、その準備である。

とおちゃんが巨大プリンパーティーをしたいと言ってきたが即刻却下した。プリンは巨大にするものじゃない。味が単純だから飽きそうだし、なにより作るのが面倒くさそうだ。

ここは無難に鍋、ということになったわけだけれど……


「僕は鍋の食材を取ってきてって頼んだはずだぞ」

「おう、だから取ってきたんだ」

「じゃあ、とおちゃんの右手にあるプリンはなんだ? 言ってみろ」

「鍋に入れんだよ。折角だから闇鍋しようぜ」

「ふざけんな。僕は闇鍋なんかしたくない。っていうかプリン鍋を食いたくなんかない」

「……私もです。プリンなんかいれたら他のやつまでプリンに……汚染されるじゃないですか」

「汚染って……もっといい言葉無かったのか……」


かぐやも身の危険を感じたのかこれまで以上に声を出している。卵焼きに苺やらを入れようとしたかぐやが言うことではない気もするが、まぁいいだろう。


「とにかく、闇鍋はしないから! それ戻してこい!」

「ちぇ、しゃーねぇな……」


とおちゃんは寂しそうな顔をして、プリンを返しに行く。そんなふうにしても無駄だ。ここにはとおちゃんに同情する奴なんていない。僕たちは普通の鍋を楽しみたかった。


「普通にすき焼きにしよっか?」

「そうだよ、かっちゃん。それが正しい」

「じゃあ、オージーと黒毛和どっちがいい? ……なんて、答えは決まってるだろうけどね」

「オージーでしょ。同じ牛なら変わんないって」

「嘘……でしょ?」


かーちゃんからは失望さえも含んだ目線が送られてきた。そんな目線で見られては困る。実際食べたことはないのだから適当なことは言えないが味なんか大して変わらないだろう。

というか、かーちゃんが黒毛和牛を食べたいならそう言えばいいのに……。

結局、かーちゃんは黒毛和牛を選んでいた。僕はただかーちゃんに失望されただけだから、なんだか損をした気分だ。


「後は、野菜とか豆腐とかだね」

「あっ、あの……カート押してもいいですか?」

「え? 気を使わなくても大丈夫だよ? カートならカート使いのかーちゃんにまかせて!」


絶妙にダサい通り名だ。かーちゃんは決まったようにしてるけど、全然決まっていない。


「いや、その……楽しそう、というか……押してみたくて……」

「……かわいいよね?」


かーちゃんは僕の方を向いて同意を求めてきた。もちろん同意だ。僕は反射的に頷く。


「バ、バカにしないでください……」

「別にしてないよ~。どうする? 押す?」

「……やっぱり恥ずかしいのでいいです」

「そんなこと言わずに、ほら!!」

「そう言うなら……」


かぐやはカートをゆっくりと押す。その様子がなんともかわいい。そういえば、僕も子供の時はカートを押すのが楽しみだった。

なんてかんじで、のほほんと野菜コーナーを周っていると、とおちゃんが小走りで僕らの元に帰ってきた。そして堂々と右手で掲げるは、みかん味プリン……


「おい。それはなんだ……?」

「見て分かんねぇのか? みかん味のプリンだ!」

「バカ、それくらい分かるわ。……まさか鍋にいれるとか言わないよな?」

「お、なんで分かったんだ? 正解だ」

「とおさん……私は今、すごくプリンに対して不信感を持っています」


かぐやは怒ったような調子で言う。かぐやのこんな声を聞くのは初めてだ。


「それは濡れ衣だ! プリンは悪くない! あのプルンプルンの触感の中に悪意が隠れてる訳ねぇだろ」

「とっちー……プリンは諦めて? 今度、作ってあげるから」

「え? かーちゃんってプリン作れるの?」

「うん、とおちゃんが甘いもの好きだから、お菓子作りは勉強したの」

「かーちゃんのプリンは世界で一番うまいんだぜ!」

「やめて! 恥ずかしい……」


猫のときといい、とおちゃんはそういうことを言うのに抵抗が無いのだろうか。この後、少しの間はかーちゃんに口を聞いてもらえなかったとおちゃんは少しばかり拗ねているようだった。

それでも店を出るころには二人ともいつも通りで、さすがは気分屋だ、と変に納得した。

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