第17話 伝えるべきこと

雲一つない夏空の下、僕たちはショッピングモールに入った。無駄に大きい自動ドアをくぐると、途端に冷えた空気が体を撫でる。

この涼しさもまた夏らしい。暑い夏だからこそ涼しいものが浮き立つ。僕たちは風鈴の音にかき氷、飛び散る水にさえも夏を見出すのだ。

夏休みということも関係しているのか客層は家族連れが大半だった。どこからかソフトクリームをねだる男の子の声が聞こえてくる。


「どこ行こっか?」

「どこでもいいんじゃね」

「僕もかーちゃんの行くところに行くよ」

「わたしがリーダーだね! そうだな~、服とかどうかな?」

「じゃあ、そうするか」

「ただし、わたしと姫ちゃんの二人で服を買いにいきます!」

「は? 俺たちは?」

「別行動だよ? 服は女子の武器だからね! 男子は来ちゃダメだよ~」


かーちゃんはかぐやの腕を掴むと勢いよく走っていく。かぐやはびっくりしたような顔のままかーちゃんに連れていかれた。

そのまま二人の姿が見えなくなるまでには十秒もかからなかっただろう。


「とおちゃん……」

「なんだ?」

「解説頼む」

「そうだな……かっちゃんはかぐやと二人きりになりたかったんじゃないか?」

「そうとしてももっとやり方があったろうに……」

「変なとこ不器用だから……」


かぐやは大丈夫だろうか。いきなり二人きりだなんてハードルが高すぎる気がする。傍にいないと不安だ。かーちゃんなら問題ないかもしれないけれど。

でも逆に考えればこれはかぐやにとってもチャンスかもしれない。昨日の夜、かぐやは人と話せるようになりたいと言っていた。かーちゃんと二人きりになったことがなにかのきっかけになるかもしれない。

そう考えたら二人の後を追おうなんて考えも消えた。かーちゃんに悪意がある訳じゃない。それなら問題なんて無いだろう。

 かぐや達がいなくなってから数分経った頃、かーちゃんからメールが届いた。その間、僕らはどこに向かうでもなく、入り口近くの壁にもたれていた。

とおちゃんはポケットから携帯電話を取り出して、メールを見ている。今どきは珍しいガラケーだ。


「かっちゃん、服見るのに一時間位かかりそうだって。服を見終わってから合流だってよ」

「一時間か……。どうする?」

「俺たちも服見るか?」

「え……別にいいけど……」

「なんだよ、嫌そうだな」

「僕が服に興味ないの分かってて言ったろ」

「ごめん、ごめん。でも建じぃもファッションに少し興味持ったほうがモテるぞ?」


とおちゃんが言えば説得力は抜群だった。とおちゃんは僕から見ても分かるくらいにオシャレだ。別に着飾っているっていう訳じゃなくて、それが合っているみたいな感じ。

とおちゃんは素材が良いのだから割とどんな服でも似合うだろう。本人は知らないようだけど女子からの人気も高かったと思う。

なんだか、自分がとおちゃんよりも酷く劣っている気がして腹が立ったので棘を含ませて言葉を返した。


「別にモテたいわけじゃないし」

「……そうか、建じぃには姫ちゃんがいるもんな」


思わずむせる。


「お前、人の話聞いてなかったのか!? かぐやは僕んとこに居候してるだけだって!」

「いや……でも、なんかあるだろ?」

「ないよ! 親戚って言ったじゃん」

「でも遠い親戚だろ? 三親等内じゃなかったら問題ないだろ」


また訳の分からないことを。そもそも親戚だというのが嘘なのだからこんな話はどうでもいい。あまり詳しい話を聞かれるとボロが出そうだ。早い内に誤魔化しておこう。


「どっちみちそういうの無いよ。期待してたような話が出来なくて悪かったな」

「ホントに無いのかよ……。年頃の男女が一つ屋根の下に住んでてなんも無いとか……」


呆れられたような顔をされた。なぜ、そのような顔をされなければいけないのだろう。納得できない。


「まぁ、なんかあったらちゃんと姫ちゃんに伝えろよ? いつ伝えられなくなるか分かんねぇんだから」


さっきまで苦笑いをしていたとおちゃんが、今度はいつもに増して真剣な表情で言った。とおちゃんが真剣に物事を言うのは珍しい。別に馬鹿にしている訳では無くて、とおちゃんは真面目な内容の発言でも茶化しながら言うことが多いのだ。

少し意味深な言い方に戸惑っていると、もう元に戻ったらしいとおちゃんが今度は明かるげに口を開く。


「で、この後どうするよ?」

「あぁ……この後? 本屋とかで良いんじゃない?」

「建じぃらしいセンスだな……。じゃあ、本屋行くか~」

「そういやさ。今どきガラケーなんだね」

「あぁ、これか?」


とおちゃんは自分の顔の近くまでガラケーを持ち上げる。もはや懐かしいそのフォルムを見たのは何年ぶりだろう。銀色に輝くガラケーは随分と重たそうな見た目をしていた。


「羨ましいだろ~」

「いや……別に……」

「俺はかっこいいと思うぜ? このレトロな感じとか」

「ガラケーはレトロではないでしょ」

「そーかー?」


とおちゃんはガラケーをズボンのポケットにしまってから本屋に歩き出した。

考えてみれば、ここ数カ月は本屋には行っていなかった。どんな本を買おうか。考えるだけで胸が躍り始めて、歩くスピードも少し速くなった。

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