第42話 目を覚ますと、理沙が添い寝していた。

 目を覚ますと、ナイトキャップを被ったスケスケネグリジェ姿の理沙が添い寝していた。


 彼女は幸せそうな寝顔を見せている。


 本当にあどけない、無防備で、安心しきったような表情だった。  


 仰向けの状態から顔を傾けると、彼女の顔がすぐ近くにある。

 

 長いまつ毛が瞼の上で震えていた。


 唇には潤いがあって、俺は少しどきまぎしてしまう。


 しかも純白のリンネシーツを押しあげる丸みはバストの輪郭もくっきりとして、ノーブラだと一目でわかる生々しさだ。


 なのに、形くずれも、脇垂れも、まったくしていない。


 形も攻撃的なロケット型の円錐形だ。


 質感は、芯にリンゴの硬さを含んだもっちりババロアみたいな弾力。


 より正確に伝えるなら『胸枕』。


 胸の谷間に後頭部押し付けるかたちで寝ていた。


 爆乳と言ってよいサイズを誇る豊満なオッパイを、な、なんと枕にしていたのだ。


 膝枕や腕枕なら、聞いたことがあるが『胸枕』なんだ。

 

 おっぱいマウスパッドを枕にして、寝るとは訳が違う。


 比べものにならないくらい気持ち良くて、幸福感に包まれている。 


 寝着の生地を通して、彼女の温もりが伝わってくる。


 ふくよかでありレモンの香りを放っていた。


 ここは天国か?

 

 かすかに動かした俺の指が、彼女の制服のスカートと思しき生地に触れた。


 かなりの密着状態で、スカートから伸びた健康的な脚が俺のフトモモの上にズボン越しにピッタリと触れていたり。


 重力で肩からたれ下がった髪が俺の鼻先にかかってフローラルな感じのいい香りがしていたり。


 おまけにスカートの裾が少しだけめくれ上がってなかなかに際どい状態になったりしているんだけど……。


「ああ、お兄ちゃん目を覚ましたんだ」


「二三、その恰好は……」


 バニーガールのコスプレをした妹が声をかけてきた。


 すっと身を起こし、ベッドの縁から足をおろすように座りなおしながら視線を妹の方へ向ける。


 大きな眼は、晴れた夜の湖面のように澄んでいて、肩や足の付け根などは露出しており、少女らしからぬ挑発的な色香を放っている。


 超極薄の真っ赤なレオタードのためか、くっきりと曲線をさらけ出している。


 さらに目に付くのは凸部分、つまりおっぱいである。


 悲しいほどに慎ましいオッパイだな。


 腰まわりやヒップもほどよく引き締まっていて、実に素晴らしい。


 下半身を包むのはオーバーニー紅いの網タイツ。


 足先は膝上まであるハイヒールの紅いブーツ。


「恥ずかしいから、あまりジロジロ見ないで、お兄ちゃん。

 これはお兄ちゃんを看病する正装だってぇ……ヒメちゃんから聞いたから……」


 誘惑のポーズなのか、自分の胸元を右手で引っ張る。


「それも誤情報だ。騙されているぞ」


「もうお兄ちゃんたら、相変わらず照れ屋さんなんだから」


「俺の周りにいる奴らは、誰一人として、ヒトの話をちゃんと聞いてくれいないんだ」

 

 可愛らしく舌を出してお茶目に笑ったあと


「それはお兄ちゃんに『人望』がないからでしょ」


「一番気にしていることを、平然と言ってくれるな」


「だってぇ……お兄ちゃんは、ドMの変態さんだから、罵倒されるのが大好きだってぇ……ヒメちゃんから教えてもらったもん」


「だからそれは誤情報だって、何度も何度も何度も言ってるじゃないか」


「そんなに恥ずかしがることなってないんだよ、お兄ちゃん。

 ワタシは何があってもお兄ちゃんの味方だからね。

 鬼畜の中の鬼畜で、幼女好きで『性犯罪者予備軍』だったとしても、絶対に見捨てたりしないからね。安心てね」


 噛みつくような視線を感じて


「全然安心できねえよおっ!? 兄を最も敬え」


 ちょうど寝そべっているこちらの足を跨ぐようにして、仁王立ちとなった妹は――――。


「胸なんかよりもお尻のほうが好きでしょ~。ほ~らっ、もっと間近で見てもいいのよ、お兄ちゃん」


 言うのが早いかそのまま体力測定の立体前屈の要領で、膝を伸ばしたまま腰をまで……くんっ、と鼻先に触れそうなほどヒップが突き出され。 


 逆ハート形の桃尻が、細いウエストのせいで、余計張り出して見える。


 お尻から太ももにかけてもむっちりと脂が乗り始めて、女のきざしが現れているが、大人と呼ぶにはまだ遠く、色香よりも若さが目立つ。

 

 なんだこの状況はーーどんどん収拾がつかなくなってきてるぞ。


「もう、うるさいな」


「理沙……起きたのか」


「スヤスヤスヤ……」


 はだけ気味のパジャマをこんもりと押し上げながら上下する、形よい二つの胸。

 

 捲れた裾から覗く、きれいなおへそ。


 そして寝息をたてていた。


「なんだ? 寝言……うぅ……うぐぅ……ぐぐぐ……」 


 く、ぐるしいい……絞殺される……。


 寝ぼけて、寝技をスッと決めてきた。


 理沙は俺の顔をがっちりと腕でロックすると、そのままギリギリと締め上げてきた。


 いわゆるフェイスロックである。


 一流のアスリート級の腕力が、俺のアゴのあたりを強烈に襲う。


 寝相が悪いのにも……ほどがあるだろう。 


「お兄ちゃん、大丈夫? 顔が真っ青だよ」


「…………」


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんああああああ……」




++++++++++++++++++++++++




 意識を取り戻した俺は、新人賞に応募する作品の最終確認をしようと思い。


 ノートパソコンを起動させ、ファイルを開こうとしたが……肝心のファイルがどこにも見当たらなかった。


 目をしばたたかせ。


 目を擦り。


 画面を何度も何度も確認するがやはり、ファイルはどこにもなかった。


 俺が意識を失っている間にいったい何が起きたというのだ。


「ご、ごめん……なさい……お兄ちゃん。

 お兄ちゃんのパソコンを弄っていたら、誤ってデータを消してしまった……みたいなの。本当にごめんなさい」


 バニーガール姿の二三が突然、謝ってきた。


 ただ凹凸の少ない身体なので、胸元が悲しいことになっていた。


「ごめんなさい、龍一。

 なんとか復元できないか? と思って……いろいろと試してみたんだけどね。

 結局……データを復元することは、できなかったわ」


 寝間着姿の理沙も一緒に謝ってきた。


 ちなみに寝巻として着用している『肩ひもタイプのネグリジェ』は、肌の色がわかるぐらいにスケスケだった。


「気にするな。

 悪気があったわけじゃないんだろう。

 バックアップをちゃんと取っておかなかった俺にも責任はあるしな。

 だから泣くなよ」


「でも……龍一が……どれだけ……頑張って、書き上げたのか……私、知ってるから……」


「アタシ……なんて、取り返しのつかない……ことを……。

 ご、ごめんなさい……お兄ちゃん……謝って……すむことじゃないと思うけど……」

 

「だから、気にするなって。

 バックアップは取ってなかったけどさあ。

 俺には、これがあるからさあ」


 愛用の『妄想ノート』を二三に見せる。


「お兄ちゃんが肌身離さず持ち歩いている。

 創作活動の時にいつも使っている『アイディアノート』だよねぇ。

 パソコンを手に入れてからも、使い続けていたんだね。

 やっぱりお兄ちゃんって、貧乏性なところがあるよね」


「もしかしてノートに『原本』が――――」


「ああ、そうだ。

 これがあれば『原稿を書き直す』なんて朝飯前だ。

 だから気にするな」


「わかったわ。

 私は……龍一の言葉をーーーー信じることにするわ。

 その言葉を信じて、最高のイラストを仕上げるために全力を尽くすことを誓うわ。

 二三ちゃんもそれでいいわね」


「うん、ヒメちゃん。

 ワタシもお兄ちゃんの言葉を信じてみることにする。

 お兄ちゃんが執筆活動に集中できるように、サポートすることに全力尽くすことを誓うよ」


「二人が応援してくれるなら、その期待に応えられるくらいの作品を頑張って、書き上げてみせるさあ。

 いつもありがとうな、理沙」


 ポンっと彼女の頭の上に優しく手をおき、撫でてあげる。


 深く考えたわけじゃなくて、自然と手が出たって感じだ。


 彼女はほんとうに、俺には勿体ないほどいい女だ。


 気立てが良くて、器量が良しで、まさに理想の彼女だった。


「もう遅いし、私はそろそろ帰るわね。

 ぐれぐれも無理だけはしないでね♥」


 そう言った彼女の顔が、少しだけ赤く染まっていた。


「いつもありがとうな、理沙」


 心の底から俺のことを心配しているのが、伝わってきたので、もう一度お礼を口にした。


 挫けそうな自分を支え。か細い背中で先に立ち。


 進むべき道を示してくれた『彼女』が、いてくれたからこそ。


 自分はこうしてまた、自らの足で立つことができたのだ。


「今日は、早めに休むことにするよ。

 また明日、学校で」


「うん、また明日……学校で会いましょう」


 お別れのキスをして、理沙を見送った後。



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