第16話 美少女フィギュアを買ったら、まずはスカートの中を確かめるのは常識だ

 また次の日の放課後。


 いつものように空き教室で、心底どうでもいいことを俺たちは話し合っていた。


「美少女フィギュアを買ったら、まずはスカートの中を確かめるのは常識だな。

 パンツの作り込みで、そのフィギュア価値は決まるからな。

 まさに美少女フィギュアの『核』だな。

 そして次に太ももに視線を移し、最後に胸だ」


 姫川さんは優雅に脚を組んだまま、清楚な雰囲気を漂わせる整った顔に浮かぶ意地悪な笑みを浮かべて、冷ややかな表情を崩さずに言う。


「龍一も男の子だねぇ。

 真っ先に目がいくなんてぇ。

 他にも見るところはたくさんあると思うにぃ。

 あと美少女フィギュアのパンツと言えば『純白のパンツ』が定番ねぇ」


「姫川さんの言いたいこともよくわかるが、やっぱりパンツの作り込みが何よりも大切なことだと、俺は思うわけだよ。

 純白パンツも、もちろん大好きだけど、それ以外のパンツも見てみたいものなんだよ。

 だ・か・ら、パンツの柄や色、皺にいったるまで、どれだけこだわっているかで、そのフィギュア価値は決まると言っても過言ではない。

 誰になって言われようと、妥協するわけにはいかないんだ」


「その熱意をもっと別のところで、発揮することはできないものかしら?

 無駄なことばっかりに熱中して、バカみたい」


「はっきり言ってそれは無理だ。

 俺から『エロさ』を取ったら、何も残らないからな」


「胸を張って言うことじゃないわよね」


「姫川さんならわかってくれると思ったのに」


 思いきり俺のことを睨みつけてから、ぷいっと視線をそらし。


「美少女フィギュアを買ったら、真っ先にスカートの中を確かめるのヒトの気持ちなんてわからないし、わかりたくもないわよぉ、バカっ」


「女って生き物はどうして、男のロマンってモノを理解しようとしないかな。

 まったくもって腹立たしいな」


「うっさい、死ねぇ。

 ド変態野郎っ!?」

 

「うぎゃああああ」


 スカートを翻した白くて健康的な女の子の生脚。


 丈の短いスカートの中にある純白のパンティーが、チラチラとその存在を主張し、開かれた中心に垣間見える。


 女の子の一番大事な部分を隠したちっちゃくて可愛らしい『スキャンティ』と呼ばれる柔らかいそうな薄布に気を取られてしまい。


 熊をも一撃で仕留めるかという姫川さんの必殺の『回し蹴り』がふくらはぎを襲う。 


「痛っ!? 痛たぁあああああっ」


 バランスを崩れて倒れ込むと、流れるように寝技『腕挫十字固』がキレイ決まる。


 あまりの痛さに、太ももの感触とか? 女の子特有の甘い匂いにとか? いろいろと楽しむ余裕などまったくなかった。


「相変わらず良い声をあげるわねぇ」


「ぐぎゃあああああっ」


 空き教室中に、凄まじい悲鳴が響き渡った。


 本日の拷問は『絵筆でカラダ中をこちょこちょされる』というものだった。


++++++++++++++++++++++++


 翌日。

 

 放課後の空き教室の出来事。


「脱ぎたてのパンツって被りたくなるわよねぇ」


「だよな。被りたくなるよな。

 生温かくてまるで母に抱かれているような気分になるよな」


 俺の彼女は『謎』すぎて、何を考えているのか、さっぱりわからなかったが、無視すると後々メンドクサイことになるので、心底どうでもいいことを話し合っていた。 


「脱ぎたてのパンツには、安眠効果があるのよねぇ。

 私もよく脱ぎたてのパンツを被って寝ているのよぉ」


「やっぱり脱ぎたてのパンツって最高だよな。

 被りもよし、咥えるもよし、嗅ぐもよし。

 ハンカチとして使うのもありだな。

 さらにそれが彼女のパンツなら、最高に興奮するな」


「そうねぇ。

 彼氏の脱ぎたてのパンツとか。

 本当に最高のオカズよねぇ。

 もちろん、脱ぎたてならパンツ以外でもウエルカムよぉ」


「姫川さんならわかってくれると思ったよぉ。

 やっぱり持つべきものは『ド変態』な彼女だな。

 普通はひくところだもんな」


「まったくその通りねぇ。

 持つべきものは『ド変態』な彼氏ねぇ。

 愛しているわ、龍一♥」


「俺たちめっちゃくっちゃお似合いのカップルだよな」


「それは……どうかしらねぇ、うふふ。

 趣味嗜好が似ているからと言って、相性が良いとは断言できないわよぉ。

 脱ぎたてのパンツだってぇ、パンツの種類によって用途が異なるでしょうねぇ」


「考えてみれば確かに姫川さんの言う通りかもしれないな。

 やっぱり恋愛って奥が深いな」


「そうだねぇ。

 すんぅ~ごくぅ~奥が深くて、幅広くて、一言では言い表せないほどの歴史があって、たくさんの想いが詰まってるんだよぉ」


「姫川さん。俺、思うんだ。

 神聖な学び舎で脱ぎたてのパンツの話をしている俺たちって……」


「それ以上は、何も言わないで……お願い……ねぇ」


 目を潤ませてる女の子ってのは最強だよな。


 そんな顔されたら、何を思っていたって、反論なんてできるわけがない。


「わかった」


「ありがとう、龍一。

 でも本当に年頃の乙女が、するような話じゃなかったよねぇ。

 なんだか急に恥ずかしくなってきたわぁ」


「今さらな気もするけどな」


 つい本音が漏れると、姫川さんは顔を猿のように真っ赤にして反撃してきた。


「龍一のバカァアアッ」


 大きく脚を開いて踏み込むと、ミニスカートがずり上がって太ももが露わになるのも気に留めず、左脚からくり出された『回し蹴り』がわき腹にクリーンヒットする。


「ぐはぁっ、はぁ…………っ……」


 蹴られたわき腹をかばうように、身を丸めると女とは思えないほど容赦ないローキックが首筋を襲う。


「本当に龍一って、デリカシーがないわよねぇ。

 バカバカバカバカバカバカ」


 一瞬呼吸ができなくなったが、この苦しさもまた彼女なりの愛情表現だと思うと思うわず笑みがこぼれてしまう。


 しっかりしているようでいて、どこかズレいる、そんな浮世離れした少女に魅入られていた。


「姫川さんも相変わらずツンデレだな」

 

「龍一こそ、相変わらずのドMっぷりが、とても最高にキュートよぉ」



 本日の拷問は『脱ぎたての下着を無理やり嗅がされる』というものだった




 ++++++++++++++++++++++++




 翌日。


 放課後の空き教室。


「女子ってなんで『パンケーキ』が好きなんだろう。

 絶対に『ホットケーキ』の方が美味しいと思うんだけどな」


「ホットケーキの方が『糖分』が多いからじゃないかしら。

 年頃の女の子にとって『糖分』は敵以外のなにもでもないからね」


「確かに『ホットケーキ』っておやつのイメージが強いもんな。

 でも女子って『甘いモノ』が好きなイメージだったけど。

 糖分を敵視している女の子いるんだな」


「最近はヘルシー志向の女子も増えてきたからね。

 とは言ってもスイーツが大好きな女子はまだまだたくさんいると思うわよ。

 私もケーキとか、甘いモノ大好きだもん。それに甘いモノは別腹だって、よく言うでしょう。

 近所に美味しいケーキ屋さんがあって、学校の帰りにいつもカップケーキを買って帰ってるんだよ」


「そういうところは、やっぱりお嬢様だよな。

 庶民はそんなところでケーキを買ったりしないもんな。

 例え『カップケーキ』でも、高校生が気軽に買える値段じゃなかったと……記憶してるんだけど……セレブ感が……半端ないな……っ……」


「えっ!? そうなの?

 それは、知らなかったわぁ。

 後学のために教えてほしいんだけど、なら、一体どこでスイーツを買っているのかしら」


「と言っても俺もあまり詳しくは知らないんだけど。

 やっぱりコンビニじゃないかな。

 最近はコンビニのスイーツも美味しくなったって、テレビとかでよく見るし」


「あっ!? それ……私も聞いたことがあるわ」


「ところで、話は変わるんだけど、姫川さんってSMプレイにも興味あったよね。亀甲縛りの練習台になってくれないかな。

 ちゃんと肌に跡が残らないように表面の毛羽を焼き、馬油などを染み込ませて『加工』たものだから、安心して身を預けてほしいな。

 あと麻縄とは『麻糸』で作る『縄』のことだよ。

 日本古来より使われてきた頑丈なロープなんだって知ってた」


 自分のロッカーから麻縄あさなわを取り出し縛ろうとしたら、なぜか? 反撃された?


「ちょっといきなりなのをするのよ、変態。

 いったい何を考えているの」


「ああ、大丈夫大丈夫。

 この日のために、イメージトレーニングだけはしっかりしてきたさあ」


「そういうことじゃなくて」


「じゃあなんだよ」


「だって縛られる理由がわかんない……からよぉ。きゃあっ、近寄るなぁ、変態。

 いくら恋人同士でも……普通『緊縛きんぱく』プレイなんてしないでしょ。

 落ち着いて考えみて、私……間違ったこと言ってないでしょう」


「えっ! そうなのか? 

 でもネットの情報だと……」


「ネットの情報を鵜呑みにするのは、とても危険なことよぉ」


「おい、マジかよっ!」


「でも捕縛術ほばくじゅつ確かに、日本独特の美的感性によるものがあるわよねぇ。

 手錠の発達が遅れたことで、罪人の拘束には『縄』による緊縛術が主だったみたいねぇ。

 まあそのおかげで、日本は独自の技術を高め、芸術作品にまで昇華させることができたんだけどねぇ。

 一度ぐらいは『体験』してみたいキモチあるわぁ。

 明治時代の画家であった『伊藤晴雨せいう』は、美しい女囚じょしゅうが縄目を当てられている様子を描いた責め絵などを数多く残してたと言われているわぁ。

 あとは、逮捕された罪人は身に刀剣類などを隠さないよう、襦袢など衣服1枚にされ、縄で回れたという話しも聞いたことがあるわねぇ。

 でも素人が手を出すのはやっぱり危険よぉ」


「ああ、そうだな。『緊縛師』と呼ばれる麻縄を使った職人になるためには、厳しい修業が必要だって聞いたことがあるしな。

 また麻縄は縛って拘束するだけじゃなく、吊し台などを使い被虐者を宙吊りする使い方もあるんだよな。

 じゃあ、そろそろ縛ってもいいかな」


「って、いいわけないでしょ」


「なんでだよ。ちゃんと説明しただろう」


「だ・か・ら、そういう問題じゃないんだって。私は絶対に緊縛プレイなんてやらないねぇ」


「どうして、わかってくれないのかな」


「そんなハレンチ極まりないこと、一生わかりたくないわよぉ」


「これは決してハレンチなことじゃないよ。1回だけ、1回だけでいいからさ」


「きゃあ変態。近づくな、こっちを見るな。ケガラワシイ」


「大丈夫、ぜんぜん痛くしないから、お願い縛らせ……痛っ!? 痛たぁあああああっ」


 熊をも一撃で仕留めるかという姫川さんの必殺の『回し蹴り』がふくらはぎを襲う。 


「死ねぇ、変態ィイイイ」


 本日の拷問は『姫川さんと一緒にコンビニスイーツを食べる』というものだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る