現実が夢を浸食したのか、夢が現実を浸食したのか。

 個人的な話だけれど、人を殺したことになっている夢を繰り返し見る。
 殺害シーンはいつもない。警察が現れて、僕ははじめて殺人を犯したことを思い出すのだ。そして、ああ、隠しきれない、もう逃げられないと諦めて震える。
 目覚めて思う。まさか人を殺してはいないよな、と。少し夢に浸食されたと自覚する。

 誰しもよく見る夢があると思う。
 繰り返し見る夢は、潜在的な恐怖やら願望やらを映しているのか。あるいは過去の懺悔のためであったり、目を背けたい現実があるから同じような夢を見るのかもしれない。
 夢と現実の境目は、「僕」と「彼」との間にあるのだろうか。では、ケタケタと笑う彼女はどちらの世界に属しているのか?
 「彼」は無理やり、「僕」になるために夢の世界へ戻ろうとしているのかもしれない。現実には、頭から血を流して死んでいる彼女がいるから。
 夢から醒めてしまわないように。

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