70.5話 シェリーと狂弌


 無人島。


「み、美矢ちゃんのお気に入りはシェリー方だよね!!!」


 狂弌は銃弾を避けつつ再びシェリーの元へと真正面から接近していく。

 

「そうでもないわよ!!!」


 彼女も逃げるように移動し並走するようにして何か、機構や回路が多くまるで機械のような大砲を生成が生成されていく。

 だが彼はそれに目もくれず、シェリーに光のビームを照射していき、展開している防御機構の耐久や拡散状態を観察していた。


 普通ならば大砲は完成前に迎撃すべきもだ。普通ならばこのように堂々を組み上げる代物ではない。

 両者は分かったうえで、真逆の行動を取っていたのだ。

 一方は真正面から戦いたいからと。

 一方は敢えて見せた方が、戦いやすいからと。


「美矢が気に入るのは戦って"楽しい"相手か、守りたいと思える人だけ。で、あたしはどちらでもない!」


 展開しているフィールドを張替え、同時に地球圏ギリギリに配置してある複数のレールガンを一斉発射する。

 彼はその一連の行動を呼んでいたかのように、事前に足を止め防御体勢に入り攻撃を全て防ぎ切る。

 上空を見上げ口を動かし始めた。


「そ、そうかな? あ、案外さ、シェリーの思っている以上に……き、気に入られてるかもしれないよ」


「だと、いいんだけどね!」


 次に周囲に展開している機関銃の残りで間隙を埋めようとするが、何食わぬ顔で薙ぎ払われてしまい舌打ちをする。


「そ、そうだよ。じゃないと、み、美矢ちゃんが、一緒に居るわけないよ。そ、それで完成したのかな?」


 耳から血が流れ、血涙も流した目でシェリーを見据えた狂弌が問いかける。

 

 使える手は少ない。ミサイルを生成した所で、銃火器を生成した所で、生物兵器を使用した所で、化学兵器を使った所で有効打には到底成りえない。

 彼を打ち破るならば別の何かが必要となる。


「もう少し待ちさ無いっての。こちとら、あんたと違って負荷がだんちなんだからさ……!」


 即興でガトリング砲を生成し、右手でグリップを握るとバレルがゆっくり回転し始める。

 重量は浮遊させているため問題にないにしても、この期に及んでそんなものを? 彼はそう考えるが同時に構造が簡素であり、何より弾倉が見当たらない事にも疑問を覚える。

 そして、先程彼女が生成したブツから一つの仮説を導き出した。


「ま、まずいかな」


 狂弌は呟きつつ、正面にある光の玉を薄く伸ばし円形の盾へと変形させ光をまとわせている腕も盾のように使う。

 すると、発射され飛来してきた弾丸は壁を貫通し、腕へと到達すると物凄い衝撃と共に弾け飛んでいく。

 弾け飛んだ弾丸は海水に触れると小さな水蒸気爆発が発生し、島に着弾したものは小さなクレーターを作り出していた。


「や、やっぱり……!」


 口元が笑ってる彼は立ち止まり、光りの壁の枚数を増やして守りを固めつつ次の手を考え始める。

 どうやって、真正面から打ち破るか。どうやって、あの弾丸を防ぎながら真正面から接近するか、と。


「せ、折角シェリーが本気になってくれたんだもんね。ぼ、僕もさぁ!!!!」


 考えが纏まり、狂弌の左手に円形の壁が一直線に並べ、ソレに沿って彼は再び移動を始める。


「逃げ……? あんたらしくないわね!!!」


 追うようにしてガトリングにから放たれた銃弾が壁を貫通し海面や島に着弾していく。


「い、いけるかな」


 ぼそっと呟き、更に叫びこう続ける。


「勘定はちゃんとしろって、秀一に言われてるんでね!」


 彼は立ち止まると、射角をつけて壁を生成し複数の弾丸を受け止め貫通する光景を見て楽しそうに叫ぶ。


「場は整ったよ、シェリー!!!! 早くしないとっ!!!」


 貫通して飛んでくる一発の弾丸を変異している腕で弾く。


「喉元に爪を立てるのは僕だ!!!!」


 続いて殺到する弾丸のほとんどが、横撃によるビームにより撃ち落とされていく。

 ただ逃げているためでない事は分かっていた。だが、このような短時間で対応されるとは予想外でもあった。


「ならっ!!」


 ポタポタとシェリーの流していた血涙の量が増え、背中から4本の機械の腕が生成される。

 そしてそれぞれ、この世に現存する銃とは見た目がかけ離れ、まるで玩具のような代物が握られていた。


「これでぇ!!!」


 トリガーが引かれ、放たれた銃弾はガトリングと同様のモノであり普通の弾丸ではなかった。

 狂弌は即座に対応してみせるが、数が多く撃ち漏らしが発生していた。だが、気に求めず再び接近し始めると撃ち漏らした弾丸を弾いていく。


 左手に握られたナイフで空間を切り裂き、遠くに空間を繋げると腕の一つを空間に向けて射撃する。

 こうする事により別の射角からの攻撃となるのだが、相手が相手のため奇襲性は薄く、容易く対応されてしまっていた。

 彼の近くに空間をつなげれば対応しきれない可能性もあるが、ほぼ同時にカウンター攻撃が叩き込まれてしまうため逆に彼女が倒されてしまう。


 挙句の果てには、地球圏ギリギリに配置しているレールガンも完全に対応されており、一つたりとも掠りもしていない。どころか一つ一つ撃ち抜かれて破壊されてしまう始末であった。

 だが彼は、大砲を除く次の手があれば対応し切れるかは五分と五分の状態でもあった。


「ほんっとうに! 化けもんね、あんたは!!!」


 組み上がった大砲の砲身が彼を捉えエネルギーの収縮が始まる。


「これで━━━━」


「それを待っていた!!!!!!」


 左手から真昼のような光が差し目線を向けると、大きな球体が眼球に広がった。

 彼の流れる血は、無理に腕にまとわせる事による負荷によるものだとシェリーは考えていた。

 だが違っていた。


「読んでっ……!?」


 攻撃を空間の裂け目で別の場所へと送って避けるか? 否、あの規模のレーザーは流石に送れない。

 鉄板と周囲を覆っている特殊光束防御壁で防ぐか? 否、規模が大きすぎて防ぎ切る事が出来ない。

 ならば自身が裂け目を使って逃げるか? 普段ならば逃げた所で好転はしない。寧ろ状況が悪化するのだが、今の狂弌の様子から察するに。


 ガトリングを投げ捨て、ナイフを振り上げるが眉間にシワが寄り、悪態と共にナイフも投げ捨ててしまっていた。


「良かったわね。狂弌、あたしが優しい人でさ!!」


 その言葉と同時に、大砲が光の方へと向き、2重の特殊光束防御壁が彼女の周囲を覆う。

 逃げてしまえばこのまま彼は近いうちに力尽きるだろう。確実に勝ち目的を達成する事が出来る。だが、彼への"手向け"には到底成りえない。


 防壁を張った事により、彼女の攻撃が中断され防御に使われていたレーザーが攻撃へと転用さて次々と着弾し防がれていく。


「ありがとう! シェリーが最後の相手で!」


 大砲から砲撃なされ、同時に光の玉も直径50mもあろうかというレーザーとなり射出される。

 両者は瞬く間に接触し、閃光と共に生じた衝撃波を周囲にばら撒き始めていた。


 その裏で彼女にまで手がどといた狂弌は、1枚目の防壁に生じた僅かの傷を抉るように、かつ切り裂くようにして破壊する。


「本当に良かった!」


 そして、防壁の上に立ち腕を振り上げるが、ふととある事が脳裏を過る。

 手放したガトリングは何処へ行った?

 彼は急いで跳びのけると円状に伸ばした盾を複数生成し防衛体勢を取った。

 次の瞬間、何かが盾を破壊していく音と共に複数の銃弾が抜け、彼の体を掠めていく。


「誘い受けが成功したって思ったけど……」


「ははっ、流石に今のは焦ったよ!」


 一つのレーザーが浮遊しているガトリングを貫き、閃光と共に爆ぜる。


「まだよ!」


 浮遊するナイフが空間を切り裂き、義碗の持つ拳銃の銃口を裂け目に向けトリガーを引いていく。


「負荷を気にしちゃ!!!!」


 彼は即座にその場から移動し、並行して多重に壁を生成し保険をかけ攻撃に備えつつ飛来してきた方角を確認する。


「僕に勝てないよ!!」


「んなもん、百も承知だっての!!!!」


 天空から一筋の淡い光りが降り、咄嗟に反応し身体を傾けていた狂弌の左肩を貫通する。


「くそっ、避けられた!?」


「まだ生き残ってたのがあったんだね……」


 目線を空へと向け、一つのビームが彼の視線の先へ向かって行く。


「けど、仕留めきれなかった時点で」


「ッ!?」


 閉じゆく空間の裂け目の先から、一瞬ばかりの閃光が見えシェリーは咄嗟に予備の小型の特殊光束防御壁を自身の目の前に展開する。

 数瞬後、複数のビームが裂け目を通って襲いかかってくる。


「僕の勝ちだ……」


 それらは彼女本人には防がれ有効打を与える事は叶わなかったが、義手を全て破壊し内部から展開している防壁装置を破壊してみせていた。

 そして、腕を振りかぶって襲いかかろうとする狂弌の姿が瞳に映る。


「いいや、時間切れよ」


 フッと彼の右腕を覆っていた光が消え、赤く染まっていた瞳も元の綺麗な蒼眼へと戻っていた。


「あ、れ……」


 ゆっくりと身体が傾き落下を始めるが、生成された鉄板の上に落下し同時にシェリーが作った大砲の砲撃が海面に到達し巨大な水しぶきを上げていた。


「馬鹿ね。あたしが本気で付き合うと思ってた? あんたに負荷を━━━━」


 語りかける彼女の言葉を遮るように彼は満足げな笑い声を挙げる。


「な、ななな何を、い、言ってるんだい。シェリーは本気で、ぼ、ぼぼぼ僕に付き合ってくれていた……じゃないか。み、美矢ちゃんの……時とは違って、さ」


 ポツポツと巻き上げられた海水が雨のように降り注ぎ始める。


「どう、かしらね。本当にそう思う?」


 狂弌の血まみれの顔がシェリーへと向けられ、無邪気な笑顔と共にこう返答される。


「そ、そう思ってるよ。だ、だって、シェリーは……ほ、ほほほ本音を、よく……隠すじゃないか。昔だって、よく……下位の皆を……ま、も……」


━━━━守ってるのにも関わらず、誤魔化してたじゃないか。


 ゆっくりと彼のまぶたが閉じ、まるで悲しむかのように塩の雨の勢いが増していく。


「……そんなんじゃないわよ。あたしはただ」

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