48話 不良とバイヤー

「コレでラスト」


 最後まで抵抗していた不良を倒し、永久は満足げに背伸びをした。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……いぃ、むぅ、なぁ、やぁ、こぉ、とぉ、とぉあまり……面倒くさいや。かなり倒したなー」


 愛は1人1人指差して数えたが、途中で辞め笑ってごまかす。


「ならその数え方を使わなければ良かったじゃないですか」


「んだね。奈央。終わったよ~」


 と、2人は隅に逃した彼女に視線を送るが。


「男の子が宙を舞ってた……男の子が凄い回転してた……筋肉マッチョメンが力負けしてた……」


 しゃがみ込みブツブツを喋っている状況を目の当たりにし、思わず苦笑いしてしまう。


「永久、やりすぎだってよー」


「貴方も人のことは……ッ!」


 違和感を感じ臨戦態勢を取ろうとするが、何かに身動きが封じられてしまい体が思うように動かせなくなっていた。


「はいはい、ストップストップ。子猫ちゃぁ~ん、随分と暴れてくれたみたいじゃないの。ん~?」


 目線を向けると、頬に星型のタトゥーが浮かび上がっている男子生徒の姿があった。その隣にはくだんの城島ゆきの姿も確認できる。


「貴方がボス猿さんですか」


 急に拘束が強まり、少しばかり痛みを感じる。


「子猫ちゃん、ボス猿じゃない。言わば番長だ。この学校のな」


「そーですか。アホ猿なんですね。よぉく分かりました」


「あっ?」


「お、おい永久!」


 永久の体がゆっくりと宙に浮き、少しずつ上昇していく。


「勘違いすんなよ? 此処じゃ俺がルールだ。俺が正義だ。そんな口きいってっと、ちょっと"可愛がって"貰うだけじゃ済まなくなるぜぇ?」


「あはは、いい気味~」


 満足げに隣に居る城島は笑っている光景を見て、もう少しこのままで居てやろう。と彼女は内心思いつつ思考を巡らせる。

 能力はほぼほぼ念能力。体が動けず宙に浮く程度には強い。能力だけを見れば強力で厄介であり、普通にやりあっては大抵の場合は勝てないだろう。


 しかし、対処方は至って簡単である。

 よって此処で問題になるのが、なぜ彼が電能力者であるかである。


「と、永久ちゃん大丈夫かな?」


 無力と判断されたのか、拘束されていない奈央が愛へと四つん這いで近づいていく。

 

「んー、まぁ平気じゃないかー?」


 そうこうしているうちに永久は校舎2階ほどの高さまで上昇しており、このまま落としてもいいんだぜ。など、不安を煽る言動を彼は取るが。


「やりたいならどうぞ?」


 と、彼女は涼しい顔で返し怯える様子を一切見せない。


「決めた。一番キツい奴にお前をプレゼントしてやる。その涼しい顔がどう歪むか今から楽しみだぜ」


「奇遇ですね。私も楽しみな事があるんですよ」


 永久の頬に6枚の花びらが付いた花のタトゥーが浮かび上がってくる。


「っは、まさかお前━━━━」


「貴方のその自信、へし折った時の顔がどう歪むか」


「はぁっ!? 何言ってやが……る……」


 2枚の花びらが光り、永久背後に1枚の大きな壁のようなバリアが生成された。同時に右手を振りかぶり握り拳を作る。


「何故動ける!? いや、ソレ以前になんで能力を……!」


 彼は愛に振り分けていた念力のリソースを切り、永久に全てつぎ込む。しかし、彼女は一瞬動きを止めたものの、次の動作に入っており後ろのバリアを思っきり蹴り彼に向かって降下していく。

 足場にされたソレは衝撃で無数にひび割れ、まるでひびが蜘蛛の巣のようになり複数の欠片が地面へと落下した。


「薬飲んでねぇじゃねぇかよぉぉぉおおおおお!!!」


 彼は咄嗟に後ずさりし、振り下ろされた拳を避ける。が、地面が少しばかり抉れ周囲に砂煙が舞い上がり視界が悪くなる。


「げほっ、クソ! なんも……はえ?」


 煙を切るように何かが顔面に直撃し、視界が揺れ次第に歪み、意識が遠のいて行く。

 程なくして音を立ててその場に倒れ込んだ。


「あ、しまった」


 顔面に直撃していたのは永久の回し蹴りであり、足を降ろして顔を手で覆った。


「勢いで気絶させちゃいけないじゃないですか。ほんとに最近はもう……」


「げほげほっ、か、海堂くん!?」


 城島は倒れた彼氏を目の当たりにし、尻もちを付いて後ずさりする。


「嫌っ、来ないで!」


「別にその辺の馬の骨同様に、今は伸すつもりはありませんので安心してください。代わりに質問に答えて、今後奈央さんにちょっかいを出さない事。いいですか?」


 涙目になりつつも、必死に首を縦に振っていた。



「了解。ちょうど奴ん所に行く所だ、聞いてみる」


 裏路地に差し掛かり、五郎はそう返し頭をボリボリと掻いた。


『ボス、なんて言ってたのです? なのです?』


 コートのポケットからスマホを取り出し、口を開く。


「学校で能力者と戦ったんだと」


 犬探しも安かったから依頼した。ではなく、可能性としてその能力者の生徒が関与している疑いもあったから。だとしても、生徒を疑う分けにも行かず。と言った具合だろう。


『え!? 生徒さんなのです? です?』


「そうだ。情報収集を頼まれた」


『怖いもの知らずのお医者さんも居たもんなのですよ~』


「だな。まっ、稼げんだろうよ」


『稼げたとしても、ミラーとしては命までは張りたくないのです。なのです』


「それ、俺達に対する嫌味か?」


『うぇ!? そんなつもりじゃないのです!』


「冗談だよ」


『ボ、ボスの意地悪ー!!』


 話しながら見慣れた路地を進んでいき、良く居る場所で缶ビールを飲むトムの姿を確認するとスマホをポケットに仕舞った。


「お、旦那。今日は早い到着で。探す手間が省けるってもんだ」


「時は金なりってな」


「旦那にゃ似合わねぇ言葉だ」


「そうかい。トムちょっと聞きたい事がある」


 いつもの料金に更に色をつけて彼に差し出す。


「俺達以外の未成年にも薬売るバイヤー、知ってないか?」


「未成年に……? あー、そういや"教職員"のバイヤーが居たな」


「ッ! そいつの話を詳しく教えてくれ」



「これでよしっと」


 永久は通信機を仕舞い、旧校舎へと足を踏み入れる。

 バイヤーが訪れていたのはこの建物であり顔を隠して売っていたそうだ。

 先程の海堂のとやらもそいつから薬を購入していた。他にも数名そういう生徒が存在し、島田もその1人だという。


 元職員室へと入り、中を調べている愛へと目線を送る。


「何かありましたか?」


「全然これっぽちもなんもないぞ。痕跡なんて見つかんないや」


 彼女はぽいっとその辺に落ちていたノートを放り投げる。


「でしょうね。ほいほいと見つかるようではこうなってないでしょうし」


「島田が居そうな所はどうするんだ?」


「私とゴローでやります。今日はおばエルがうちに来るんでしょう?」


 永久はその辺に落ちていたボルトを蹴り上げキャッチする。


「そうだけど母さんならこういう時、ついていけーって言うと思うぞ」


「ゴローなら家族で過ごせって言いますよ」


 ポケットにボルトを仕舞い、周囲を見渡す。

 すると奈央の姿がない事に気がついた。


「そう言えば、奈央さんは?」


「むー、奈央なら永久んとこの猫が来たから外でもふってるぞ」


 そう言って、彼女は外を指差した。

 タイミングがいいのか悪いのか。だが、聞きたい事が聞ける。カラスナイス。と永久は内心思いつつ言葉を脳内で羅列し、慎重に選んでいく。

 だが、遠回しに聞くのもなんだが面倒臭い。とつい考えてしまい五郎に影響されてるなと感じていた。


「何がなんでもついていくからな!」


「ならば撒いて見せますよ。時に、私の能力に関してはおばエルから?」


「どったん急に。うん、母さんから聞いてた。コピー能力で、すっげぇ珍しいって」


 愛は古びた椅子に腰掛け首を傾げた。


「ちょっと気になりまして。他にも何時薬飲んだの。とか、なんで動けたのか。とか聞かないのかなっと」


「うぇ!? あ、あー……何時飲んだんだ?」


 彼女は明らかに動揺した様子を見せ、目を泳がせつつ外に目線を向ける。


「秘密です。と言いますかその反応なら貴方は知ってるのではありませんか?」


 知りたい反応が見れ、満足すると身を翻し歩を進ませ始めた。

 態度に出やすい人の相手はすこぶる楽だと、考えながら。


「うぐ、嵌められた。あーもー、分かった。こんな風に煙に巻かれるんだな! よく分かった! 奈央の事は任せろー。……けど何かあったら呼べよなー」


 足を止め振り返る事なく口を動かし始める。


「ありがとうございます。愛さん、おばエルにこう伝えておいて下さい」


━━━━警察にはくれぐれも気をつけろ、と。


 永久は中学校を後にし、通信機を付けるも五郎からの応答はない。仕方ないので居そうな場所へと足を伸ばした。

 まずはバイヤーであるトムがよくいる裏路地に。


「旦那? 俺から情報を聞いてどっか行ったよ」


 どうやら入れ違いのようで、お礼を述べて次の場所へと向かう。

 五郎がよく訪れているジャンク屋へと訪れたが、店主によると今日は来店していないそうだ。

 次に警察署へは向かわずに、昔に通っている。と言っていた喫茶店へと向かう。


 一度行ったことがあるから大丈夫だろう。と彼女は最初考えていたのだが、道を数本間違えつつも目的地へと到着する。

 が、売地と書かれた看板が立っており空き地へと姿を変えており肩を落とす。


「まぁ、五郎が此処に来てる分けないですね。にしても、最近また酷く……」


 もと来た道を戻ろうと振り向くと、私服で"投与中"のレーベンの姿が見え流れるように舌打ちをする。

 その様子に彼女は呆れた表情を浮かべていた。


「そんな露骨に嫌がらなくてもいいんじゃない?」


「嫌なので露骨に寄るなと態度で示してるのですが? そんな事も分からないのですか?」


「分かってるから態々言ってんのよ」


「なら黙って消えて下さい」


「はぁ、はいはい。ったく、可愛げがないんだから」


 レーベンは買い物袋をクルクルと回し立ち去ろうとするが、何かを思い出した風を装ってわざとらしく、あ。と声を漏らす。

 あまりにもわざとらしすぎたためか、無視しようにも何かしら情報を知っているのではないか? という疑問が拭えなかった。

 しかし、行動や言動から距離を縮めようとする振る舞いもあり、今回もただ気を引くために行った可能性が高く感じているのもまた事実。

 従って反応するか無視するかという行動の選択に迷いが生じていた。


「……何ですか」


 結果としては反応する。という選択を取ることにしていた。

 もし無視して何かしら五郎に関する情報を知っていた場合、言葉を交わす嫌悪さよりも、自分に腹が立つためである。


「いや、何。五郎ならあんたが今行ってる中学校に向かってるよ。って言おうと思ったんだけど。十分ぐらい前に会ってね……ってちょっと!」


 永久は知りたい情報を得た途端に走り出していた。


「ほんと、可愛げがない。けど、嫌ってる割りにはしっかり反応してる辺りはちょっとは可愛いか」


 スマホを取り出し、ミラーにラインを送ると鼻歌混じりに帰路に着くのであった。

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