35話 誘拐とカチコミ
港のコンビナート。
下着ドロの件で戦闘を行なった場所だ。
永久は入り口近くのコンテナの上座り肩からポーチをぶら下げ、膝には茶トラの猫を乗せ頭を撫でながら夜空を見上げていた。すると、1台の黒い車が走ってくると彼女の前で止まる。
「よ、探偵んとこの嬢ちゃん」
助手席に座る堂島が、車の窓を開け声を掛けて来た。
連絡を入れた先は瀬木川組。とある事情により、永久が使えるパイプで"2番目"に信用出来る筋であった。
彼女は猫を抱きかかえるとコンテナから飛び降りる。
「要件の方は鏡さんから聞いたかと思います。お手数をかけてすみません」
「いいって、いいって。んで旦那は大丈夫なんかー?」
運転席に座っている彼の部下が、ハンドルに寄りかかる。
「ラオ……この猫ちゃんがゴローの無事を確認してるので、生存はしています」
すると、返事をするようににゃーお。と鳴いて見せた。
「大丈夫なん? その確認って」
「はい。問題ありません。この子はとても優秀ですので」
再びにゃーお。と、返事をし少し笑っているような表情を取る。
「まっ、俺らは嬢ちゃんの手伝いをするように、とお嬢からのお達しだ。駒として動くだけだな」
堂島は車から降りると、背伸びをし首を鳴らす。
「んで、俺らは何をすればいい」
「敵との戦闘を極力避け、ゴローの確保を第一でよろしくお願いします。居場所はラオについて行って下さい」
永久の腕の中から飛び降り、付いてこいと言わんばかりににゃーお。と鳴く。
「分かった。が、手伝わなくていいのか?」
「打ちのめしたい気分ですので結構です。
「あ? あー、はいはい」
木刀を持って鍵を閉めると、永久の元まで歩いていき屈み彼女の高さに合わせた。
薬を服用し、彼の額に人差し指で触れると目線を堂島へとむける。
「そういえば、山下さんは?」
「あん? あいつなら朝方に両足の骨折って病院」
それを聞き、肩をすくませる。
「"また"ですか。そろそろ病院が家になりそうな勢いですね」
「実際、ほぼあいつの家は病院じゃろ。事ある毎に入院しちょるし」
永久の頬のタトゥーの花が5枚から6枚となり、指を離して礼を述べる。
「たったと助けちまいましょうぜ、兄貴」
「おうよ。嬢ちゃん、思いっきりぶちかましたれ」
「はい。任せて下さい」
一通り言葉を交わし、タイミングを見計らったように待っていた茶トラの猫が鳴き進み始める。堂島達はその猫の後を着いて歩き始める。
『永久ちゃん、永久ちゃん』
通信機からミラーの声が聞こえ、返事をしつつ永久も彼らとは別の方向に歩を進ませ始めた。
『こう、映画とかドラマのカチコミを想像していたのですが、人数が少なくないなーって思うのですよ』
「電脳力者が少ないですからね。あそこ。普通の相手だったらもうちょっと人数来るんでしょうけど、生憎と頼む場合は相手が普通ではありませんし、普通の人が来ても無駄に被害増える場合がほとんどです」
『でも、ボスも普通の人では?』
積まれたコンテナの横を歩き、永久の頬の花びらが1つ光る。
「ゴローも普通じゃないって事です。それくらい分かって下さい」
永久の周囲にバリアが出現。次の瞬間、何かがぶつかり一直線上に火花が飛び散る。
すると、何処からともなく笑い声が聞こえてくる。
「くっくっく……警戒心の塊のような奴だな。奇襲が意味を成していないとは」
攻撃が合った場所に目線を向けるが、人影はなく暗闇とコンテナが在るのみであった。
まずは敵の能力の前に、居場所を探る所から始めないといけない。
「そりゃ、そんな殺る気満々ですよ。って、空気作ってれば嫌でも身を守るって話です。馬鹿ですか?」
また1つバリアに衝撃が走り、目線を向けるが誰もいない。
遠距離? いや、初撃はバリアを撫でるように攻撃されていた。故に接近での攻撃が濃厚。
「言われてみれば確かに。すまないな。少々機嫌が良いもので、その辺りが疎かになっていた」
嘘。このやり取り含め全て此方の出方を伺う算段だ。
周囲のコンテナの錠米の位置を確認し、ポーチをゆっくり開け手を突っ込む。
「それでいて、小心者と。この仕事、足を洗ったらどうですか。向いてないですよ。糞野郎」
「いやはや、耳が痛いがコレが逆でね。寧ろ向いているんだ」
知ってる。そう思いつつポーチから金属製の警棒を取り出し、一振りし伸ばした。
攻撃が止んだ。手が出ないか、探りを終え次の手を思案しているのか。
『永久ちゃん、こういう時は一か八かの━━』
「黙ってて下さい。雌豚、気が散りますのでっ」
後ろから近づく何かを感じ、姿を確認し離脱する時間がないと即座に判断。
周囲に張っていたバリアを消し、顔と目線を後方に向け別の花びらが1つ光った。そして、剣のような何かが振り下ろされそれを警棒で防ぎ鍔迫り合いが始まる。
「ほうっ、いい反応だ」
攻撃を仕掛けてきたのは人の形をした影であった。
「影っ!? ゴローの話しにあった……!」
影で出来た剣の軌道をずらし、体を捻って回し蹴りを食らわせるが足がすり抜け手応えもない。
「っち」
瞬時に別の花びらが2つ光り、影の腕が作り変えられ突かれた槍を再生成されたバリアで防ぐ。
「器用だな、だが!!!」
足元の影が地面へと伸び、永久は同時に地面を蹴り身体を浮かす。続けてバリアを亀裂が入るほど強く蹴り、弾丸のように飛び上がって一気に距離を開けた。
次の瞬間、影から無数のトゲのようなものが生え、空を貫いていたのだ。
「確かにこれなら、バリアの内側に入る事も容易ですね」
コンテナの前に着地すると、錠米に触れ花びらが1つ光る。
「中々に愉快な電脳力だろう。自慢の一品さ」
人の形成を崩し、丸く平たい影へと形状を変え永久に近づいていく。
錠米が銃へと変わり、銃口が近づくそれへと向けられトリガーを数度引く。
だがそれら全ては地面へと到達し、影にダメージを与えている様子は見受けられない。
『永久ちゃん、これ使用者本人を狙うしか……!』
カメラを通して状況を見ていたミラーの声が耳に響く。
「だから、黙ってて下さい」
花びらが1つ光り地面、コンテナのドアの順に蹴り上がりバリアを足場として再度構築する。そして、その上に立つと先ほど同様槍のようなモノが生成されバリアと接触していた。
コンテナの上に飛び移ると走って移動を始める。
『このまま使用者探すんですね』
「違いますが」
小声で返し、コンテナを飛び降り更に走って距離を取る。
『え!? うそーん!?』
「第一、"御本人"からの殺気はない癖に、影から殺気出すとか意味不明な事する人の居場所なんて、普通に探して見つかる分けもないです」
更に言えば、恐らく相手はプロ。そう簡単には見つかってくれるような相手ではない。
『うぇ!? 小心者の糞やろーでは? ドジっ子さんでは!?』
「本当にそんな分けないでしょう、馬鹿」
おぉう。と唸り声が聞こえてくる中、足を止め白い息を吐き周囲の確認をしつつ思考を巡らせる。
相手は影。ダメ元であったがやはり攻撃は全てすり抜けていた。
だが、それでは可笑しな話だ。何故ならば鍔迫り合いをし、バリアに幾度も攻撃が到達し防いで居るのだから。
考えられるのは、攻撃の際に実体を得ている。この一点。
そう仮定するならば、此方の対処はその攻撃の際にカウンターを入れる事。だが、普通にやっても対処されるのは明白。
撹乱して"操作範囲"を探り逆算して位置を特定する。という手もあるが、今回に限っては逆に利用されるのがオチだ。
よって真正面から倒すほか無い。
必要な工程は、虚を突き相手を騙す事。仮定を確証に変える事。そして、一撃で撃破出来る攻撃。この3つ。
「やるとしたら完全に一発勝負ですね」
相手に勘付かれれば負け、倒しきれなければ負け。分が良い勝負とは思えない。
ポーチの中に目線を落とし、中に入っている空き缶を取り出す。そして、この場所にこの相手。
「ゴロー、あの作戦また使わせてもらいますよ」
「あ、灯りを消したら」
「負け確定ですよ。馬鹿豚さん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます