15話 鏡と仲間
翌日。
ある人物を呼び、浮かない顔の五郎の姿が広い空き地にあった。
「幸運も逃げていきそうな酷い顔してますね。一度、地獄でも落ちますか?」
陸上競技のハンマー投げに扱うハンマーに似た、不格好な何かを持った永久が話しかける。
ワイヤーに繋がれた球体は電熱線コイルで形勢されていた。3から4mほどの長さがあるワイヤーの回りは、ビニル絶縁電線が巻き付くように持ち手の部分まで伸ばされ、手元では絶縁体が剥がされ導体がむき出しとなっていた。
「そうだな。それも一興か」
「はぁ、貴方がその調子でどうするんですか。文字通りの糞探偵に成り下がる気で?」
「大丈夫だ。仕事との分別はつく。安心しろ」
「信じましょう。で、これもう少し見た目どうにかならなかったんですか? 不格好を通り越して、もはや粗大ゴミにしか見えないのですが」
電熱線コイル偽ハンマーを困惑した表情で眺める。
「急ピッチで作ったんだ。無理言うなって。使う時は一発強打でぐいっとな」
「分かっています。その辺は任せて下さい」
「頼りにしてるぜ」
足音が聞こえ、そちらへと目線を向ける。
「探偵さん。このような人気の無い所に呼び出して、一体どうしたんですか?」
空き地に現れたのは山田さんであった。
「少々お話を、と。鏡さん殺害についての」
「分かったのですか? なら、皆を呼ばないと」
彼はそう言うと、スマホを取り出すが五郎はそれを止める。
「貴方だけで十分だ。それに予めそちらも準備してきてるのでは?」
「何を根拠に」
「この場合、そういう返答の仕方はあまりオススメしない。まぁコレはいいです。適当に話すのでどうぞ。後はご勝手に」
永久はまたですか。と呟き、薬を弾き飛ばすと口にふくみ噛み砕く。左頬に花のタトゥーが浮かび上がり、山田さんは少しばかり警戒をする。
「まず、鏡さんを殺害した能力。これはほぼ液体操作系で、刑事から聞いた襲われた時の話を考えると、操っているのは液体窒素」
菊地から聞いた情報だ。液体は"生成された"と。
薬を投与し能力発動時、周囲の窒素を瞬間的に冷やし作り出しているのだろう。
「殺害方法はその液体窒素を使っての絞殺。更に念の為に周囲や彼女に液体窒素をばら撒いた。死んでいた部屋はかなり狭かった。窒息させ殺し切るにも十分なうえ死亡推定時刻をずらせる。ではなぜ、首の帯状の痕をわざと残すような殺し方をしたのか。それは氷系の能力だと思わせるためわざと付けた。後藤さんに殺人予告を出した人物に罪を擦り付けようとしたから。あの日に犯行に及んだのは、以後のスケジュール調整をしやすくかつ出所を待ったため」
彼はタバコをおもむろにポケットから取り出すと、永久に足を思いっきり踏まれた。
「いってぇ!? 何しやがる」
「それは此方の台詞です。また馬鹿みたいに
「火はつけないからね? っと、おっほん」
仕切り直すようにわざとらしく咳払いをする。
「失礼。最後になぜ貴方に絞り込んだのか。幾つか理由はありますが、まずは、刑事を襲わせるタイミングで俺に接触をしアリバイを作る。こうしておけば容疑者から外れやすいし、あわよくば邪魔な奴も葬れて一石二鳥。次に後藤さんの護衛として紹介した佐々木さんの存在。電脳力者。と断定出来る証拠はまだないですが、証言と薬を使用すればすぐに割れるでしょう。あー、そうそう。エアコンのコンセントを抜いたのは、室温を少しでも高くするためですよね?」
昨日ミラーを通して菊地に調べて貰った事。それは、殺人予告をした犯人が何に襲われた。かであった。
そして、彼の予想通り異様に冷たい液体に襲われたと供述している事がわかっていた。
「……察するに、この場に私を呼んだ。ということは犯人だと言いたいようですが、それだけでは些か」
「そうですね、確かにこれだけだと確固たる証拠。と到底言えないです。口が美味い人なら逃げ切れそうだ」
五郎はポケットに手を突っ込み、何かのスイッチを押す。
「絞り込んだ理由、まだあるんですよ。合鍵。オーナーさんに聞いたんですが、鏡さんの家の合鍵。家主には秘密で、ひっそりと作ってたんですよね? 一体何の目的で? それと殺害当日の最終確認というのは、何処との打ち合わせなんでしょうね? 他にも━━」
そう問いかけた瞬間、永久がバリアを展開し何かが接触し轟音を奏でる。
「そりゃぁ……ね。もう全部分かってるんでしょう探偵さん」
接触した何かは湯気を発生させている液体であった。そして、遠くからゆっくりと近づいてくる仮面を付けた人物が確認出来た。
恐らく最終確認というのは、イベントのではなく殺害計画の。であり、電話の主はそこにいる実行犯。
遮られてしまったが、殺害日当日にミラーの家の近くのコンビニの監視カメラに1人の女性が映り込んでいた。その女性というのが佐々木美代子。
最後に通話記録。保田鏡が死ぬ直前、犯人2人が連絡を取っていた記録も確認出来ていた。
「可笑しいな。上手くやっていたと思ったんだが」
「あんたの誤算は、ミラーのデータ化した意識が残っていて、死亡直後の写真を取られていた事。これがなければ多分、俺の所まで回って来たとしても擦り付けは成功していた。連中も全然手が回ってないみたいだしな。それと、あんただけ鏡の事を見ていなかった。ミラーの事だけを見ていた事と、襲撃時あんたは態度の割りに体が反応してなかった。そこに違和感がな」
「そうか。次は気をつけなくてはな」
彼はスーツの内ポケットからあるケースを取り出した。
「此方もかよ。永久」
「分かってますよ」
花びらの1つが光り、手から火花が飛び散ると電熱線コイル赤くなり熱を持ち始める。
山田さんは1錠の薬を口に含むと噛み砕き、顔にタトゥーが浮かび上がってくる。
「中々優秀な護衛のようだが、相手が悪い」
彼の周囲の石やコンクリート、土が右腕へと集まっていく。まるで伝承に登場するゴーレムのような大きな腕を形成していた。
「そのバリアさえ破壊すれば、防ぐ手段はないだろう?」
「あらま、確かに相性はよろしくないかな」
今の永久の使える攻撃は、あの腕を破壊ないし貫通させれるモノもない。上手く立ち回られた場合、何も出来ず敗北する可能性のある電脳力だ。
腕を振りかぶり走って距離を詰めると、ゴーレムのような腕を突き出した。
ソレはバリアと接触し、衝撃で全体を震わせ1本の亀裂が入る。
「準備はいいか?」
「多分おーけーです」
「よし、なら実験でもしようか。永久。お前に電脳力の連続使用で電気を送ってもらったのは、ニクロム線を使った電熱線コイル。調整とかしてないから今とっても熱い」
連続してゴーレムの拳による攻撃がバリアを襲い、次第に亀裂が増え欠片が降ってくる。
「何を悠長に話始めてるんですか!?」
「いいからいいから。で、なんで熱くなってるかって言うと、抵抗をゼロにしちまう超伝導技術でも使わない限り、まず金属を始め全ての物質には、大なり小なり電気抵抗ってのが存在する。電気が通りやすいってのは、この抵抗が低い物質の事だ」
バリアが破壊され、2人は後退を後退し新たなバリアを形成し、液体窒素とゴーレムの拳を防いでいく。
「それで、電気を流し一定の
「それが、今この状況となんの関係があるんですか!! しかも大声で、馬鹿ですか!?」
「大いにあるさ。永久、頃合いだ」
彼の合図と共にバリアを消し、別の花びらが光る。
次の瞬間、持っていたワイヤーを鎖付きの鉄球のように扱い、先の電熱線コイルで出来た球体を仮面を付けている人物へとぶつけようとする。
「それでこの熱が何に関係あるかと言うと、液体窒素でも水でもそうだが、気化現象ってのは"体積が爆発的に増える"んだ」
永久が攻撃を受けている間、わざと説明していた事により高熱での攻撃。だと思い込んだ仮面の電脳力者は、自身を守ろうとし。
「すると、どうなるか。簡単だ」
液体窒素の壁で球体を受け止めた。その瞬間、その壁は気化していき。
「爆発する」
1つの爆発を発生させ、仮面の人物と球体を吹き飛ばした。
咄嗟に彼女はバリアを張り、ワイヤーから手を離した。
爆発音に遅れて爆風が駆け抜けていき、吹き飛んだ特性ハンマーはコンクリートの壁に激突する。
「な……!?」
山田は驚きの表情を浮かべ、声を漏らしていた。
「ちょ、ゴローの馬鹿!! そういう事は早く言って下さい! 考えなし! 能無し!!!」
「悪かった悪かった」
仮面の電脳力者は地面に横たわっており、仮面が割れ女性の顔は
遠目ではあるが、息はあるようで彼は一安心する。
「……二重脳力者に、その手綱を握る変な探偵、か。中々の強敵だな」
二重脳力者。その名称の通り電脳力を2つ有している人のことを指す。一般的には極稀に発現する力だと噂されている。
そして彼は、永久の能力をバリアを張る力と金属を銃に変換する力とでも思ったのだろう。電気はバリアの延長線上として解釈して。
「生憎だが、俺達の仕事は"終わってる"んだ」
五郎はポケットから小型の無線を取り出す。
「つーわけだ。大将、一番美味しい所はくれてやるよ」
近くのビルから何かが落下し、着地する。
「美味しい所? 後処理の間違いだろう」
正体は、大きな切り傷のようなタトゥーが入った菊地であった。クイッと眼鏡をあげ、山田を見据える。
「まぁ、俺の愛車をお釈迦にしてくれた礼をしたかった所だ」
歩を進ませ始め。
「一昨日の刑事ッ!?」
「本人ではないが、多少は
少しずつ速さを上げていき、距離を詰めていく。
間合いに入りゴーレムを腕を振るうが、避ける素振りを見せず真正面から攻撃を受けた。
「ひゅー、アレには追いかけられたくはないな」
「誠に遺憾ながら、同感です」
ゴーレムの様な腕は見事無残に砕かれ、破片が周辺に飛び散っていた。
驚きの言葉を発する間もなく彼の強烈な一撃が腹部に入り、意識が飛ばされその場に倒れ込む。
「にしても、人の形した戦車かなんかかアレは」
「案外、地球外生命体かもしれませんよ」
「無駄に説得力がある気がするのが怖い」
「そうでしょう、そうでしょうとも。さて、これは豊作の匂いです~♪」
永久はそう言いながら、仮面の女の方に歩いていく。
「気ぃつけろよー。さて、ミラー。本当に何も言わなくて良いのか」
五郎はスマホを取り出し彼女に問いかける。
「はい。話す事はありませんので。五郎さん、ありがとうございました。これで安心出来ます」
彼女は深々と頭を下げる。
「此方だって仕事だ。礼は要らん……って、報酬のさ。お前、好きにしていいってどういうこった?」
彼女は笑って顔を上げるとこう言い放った。
「勿論、五郎さんの部下なり、奴隷なり、使用人になるのです。なのです!」
五郎の顔は引きつり、肩を落とす。
聞こえはいいが、要は居候するって話だ。居候と言ってもいい案件かは疑問ではあるが。
「文字通りなのな。まっ、便利だしナビゲーターぐらいに思っとくよ。よろしく」
「はい、よろしくお願いしますなのです♪ ボス!」
すると突然、永久の悲鳴が五郎の耳に届き急いで彼女の方に視線を向ける。
「ハズ……レと単発。不作、凶作……!! 大損やだぁよぉ」
緊急事態ではないようで彼は安堵するも、相当消費したにも関わらず収入が少ないは今後に響きそうであった。
「それで、永久ちゃんの電脳力って何なのですか? 二重脳力者なのですか?」
少しばかり話しても良いものか考えたが、一応知って貰っておいた方が後々良い気がしたので、彼は軽く話す選択をした。
「いんや、二重脳力者じゃない。一見するとバリアを張り、鉄を銃に変え、筋力を上げたり、電気を操ったり。色々能力を持ってる風に見えるが、有している電脳力自体は1つ。解析習得または能力のダウンロード。要はコピー能力って奴だ。ただし、色々と制約があるから、最強にも最弱にもなれる不安定な電脳力なのさ」安
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