第23話 名探偵、一同集めて「さて」と言い
◇
名探偵、一同集めて「さて」と言い、
「結論から言えば柚子ちゃんは落書きをしていません」
他七日リスカは開口一番、そう言い切った。
「じゃあ誰がやったというんだ!」
なんて、リスカに体のいいオーディエンスにまで調教された六分魅住職のサポートも相まって他七日リスカの推理ショーの幕開けである。
リスカはあの後五分きっかり、一秒の遅れもなくコンビニから帰ってきた。
そして、僕を伴って「不穏庵」まで来た道をそのまま引き返し、残された四人が何かを言う暇も与えず、勝手に聴衆の前に躍り出て高らかに宣言したのだ。
さしもの彼女も「最初から分かってたんですよね」とは言わず、「お兄ちゃんが最良のヒントをくれたから気づいてしまいました」なんて取ってつけた前置きはしていたが。
それに対する不満の声や疑問の声が一切上がらず、六分魅住職以外が静観を決め込んでいるのはそのリスカの飄々としながらも有無を言わさぬ態度と気迫に呑まれたからだろう。
いや、三人は静観を決め込んでいるなんてものではなく、単に困惑して何も言えないだけなのかもしれない。
しかし、そんな三人と比べれば、諸々の事情より沸点が低くなってしまっている六分魅住職は、
「貴様らはごちゃごちゃと理屈を捏ねていたが、結局のところこいつ以外居ないだろうが!」
と、刺し殺さんばかりの勢いで直違橋を示しながら吠える。
「うーん、『誰がやったか』。それが一番気になるところである、というのはわかりますが、それはこの場で一先ず置いておきましょうか。そっちの方が論理展開が楽ですからね」
その言葉に六分魅住職は不服そうだったが、リスカも頑として譲らない。
この辺はリスカが六分魅住職を翻弄し続けたツケだろう、六分魅住職の中のリスカに対する悪評は留まることを知らないはずだ。
何もしてなくても悪目立ちする奴がわざと悪目立ちばかりしているんだから仕方ないことでも有るのだろうが
それでもそこは、百戦錬磨の他七日リスカだ。
六分魅住職を宥め賺し、受け流して切り払い、一方的に縛り付ける。
そんな風に暫し二人でやり取りをした後、
「……もう好きにしろ」
と、半ば投げやりな言葉を六分魅住職からリスカは引き出した。
性格が悪いくせに弁が立つ奴というのは本当にタチが悪い。
そのリスカのワンマンショーの間、僕が何をしていたかと言えば傍観である。
彼女の五分間の愛情を有効利用できなかったお兄ちゃんとか言う名の愚か者は、語り部の任を解かれて大人しく彼女の推理を聞くことくらいしか出来なかったのだ。
リスカが何か困っているのならば口くらいは出してやろうと思っているが――こと彼女に対してそんなもの必要あるまいし、僕にできることと言えば、
「『誰がやったか』って話が後回しなら、『どうやったのか』くらいは教えてくれるのか?」
なんて話を円滑に進める為のちょっとしたサポートくらいだろう。
一応相槌くらいなら打ってもいいとのお達しはされているので、これくらい喋ることは許されるだろう。
むしろそれくらいの方がリスカもやりやすいはずだ。
現に彼女も「流石お兄ちゃん、人が聞いて欲しいことを尋ねてくれる、質問というものを心得てますね」と満足そうに頷いた。
「まあ僕はそんなもの心得てないので質問を質問で返しますけれど――お兄ちゃんは落書きがどうやってされたかはともかくいつされたと思います?」
「いつ、ってそりゃ昼過ぎだろ?」
「そんな曖昧な時間帯じゃなくもっと具体的に」
僕のざっくばらんとした物言いでは駄目だったらしく、リスカにダメ出しをされてしまった。
いやざっくばらんな物言いとは確か大雑把に、という意味ではなく今のリスカのような物言いのことだったか。
ええと、もっと具体的な時間帯か。
函谷鉾が茶室に入って、退出――その後六分魅住職が一度中を確認し、昼休憩の後直違橋が入って、「落書きだ!」だから……。
「六分魅住職が出てから、直違橋入るまで――お昼食べたのが正午前から一時間くらいだったから、ざっくり十二時半から十三時半までの間ってところか?」
本来ならば直違橋が入るまでが出るまでかは意見が分かれるところかもしれないが、僕は直違橋を信じているし、当のリスカも最初に違うと言ってるのだから僕は間違っていないはずだ。
「ま、そんなところですよね。『柚子ちゃんが入る前に落書きされた』ボクも終着点については異論ありません」
と、その言葉にはリスカも事実確認するように首肯したが、
「けれどお兄ちゃん。貴方は何を持って方位さんが見た後だなんて定義したんです?」
なんて心底不思議そうに僕に尋ねてきた。
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