第3話 恐らく、三人は

 恐らく、三人は日取其月の死を許容出来なかった、何故ならば人殺し予備軍として不知川モールに訪れていた自分達の獲物が減ってしまったということを意味するからだ。


 いや、それだけじゃない――と言うよりそんなものは大した理由では無かったのだろう。


 それだけならばまだ獲物が残っていたのだからそこまでの非道に手を出す理由にはならないだろう。


 しかし他七日リスカも似たようなことを言っていたが、三人は日取其月の死を見て遅まきながら実感してしまったのだ――「人は死ぬとこうなるのだ」と。


 フィクションでは人の生き死にくらい操ったことがあるだろう面々だが、しかし、現実世界でそうして自分が今すぐその行為をしなければならない。


 三人はその事実に心の髄まで身を震わせてしまったのだ。


 だから――


「つまり、どういうことです?」


「――つまり、日取其月は自殺だよ。自らの運命に絶望し密室の中で首を括っていた。だから、お前が日取其月の首切り死体を見て疑うべきは入れ替わりトリックより先にそれが本当に他殺体かどうかだったんだろうな 」


 三人で同時に死体を見つけたと言うのならば三人の共犯だ。



 三人は――「自分が殺した」と主張する三人は「自分が殺した」と主張する為だけ、それだけの為に自殺した日取其月の遺体の首を切り落としたのだ。



 それは素人の仕事だ、いくら斧を使ったところでそう上手く出来るはずもない――だから、愚かしい理由だけで他七日リスカの言うような業の深い遺体が完成してしまった。


 そりゃあこいつには慣れないタスクであったことだろう、自殺に見せかけた他殺体というものは腐るほど見てきた彼女だろうが、しかしわざわざ自殺を他殺に見せかける――それに首切りや密室なんて飛び道具まで持ち出してそんな誤認をさせられたことなんて無かったはずなんだから。


 三人がそうまでして自らの殺人の証明を得たかったのかは今ある状況だけでは分からないし、恐らく目の前のこいつだって知らないのだろうが、普通に――異常者のごとく普通に考えればそれはくじ引きのようなものだつたんじゃないだろうか。


 誰ももう﹅﹅殺しなんてしたくないが三階の殺人鬼は誰かが殺さなければならない。


 だから他七日リスカを遊ばせて、犯人を当てられたら――当たりくじを引いたら彼女の殺害を免除される、なんてそんな取り決めが三人の中でなされていたのだ。


 ……なんてのはやっぱり無理があるか。


 常人的に普通に考えれば三人を呼び集めた黒幕とやらから、そう言うオーダーがあったとした方が違和感がないかも知れない。


 もしそうだとすれば自主的ではない分幾らか救われるが――しかし、それで多少なりとも救われると言うのならば俺としては是非前者であって欲しいところである。


 要約すればこういうことになるだろう。


「日取其月を殺したのが誰かと言えば日取其月だ。誰が首切り死体を作ったと言うならばその三人だろう。それがその『春夏秋冬殺人事件』とやらの答えだよ」


「ファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサー」


 他七日リスカは俺の結論を聞いて、何も言わずにもう最後の一欠片となってしまったワッフルを口に放り込むと、



「その答えは五十八点ってとこですね」


 と言った。


「……五十八点?」


「ええ。この"季節限定マンゴーとキャラメルソースのワッフル"と同じですよ。別に何が悪いってわけじゃないんですけどね。まあ、業務用の生クリームとバニラアイスに冷凍のフルーツ、既製品のキャラメルソース、と材料さえあれば多分僕でも作れるような一品ですし」


 なんて他七日リスカは「僕の舌には充分過ぎるくらいですが」とフォローになっているのいないのか分からないことを言う。


 おい、一体こいつ……なんてこと言いやがる。


「おい……おい、ふざけるなよ他七日リスカ。お前、それ誰の奢りだと思ってるんだ。それを言うに事欠いて五十八点だと? おいおいふざけるのもいい加減にしろよ」


「社会人が千円ぽっちでみみっちぃですね。大体女の子は奢りだからと言って点数シビアにすることはあっても甘くすることはありませんよ」


「だから千五百十二円だろうが!」


「そこで初めて声を荒げるなよ、大人気ねえな。お金に細かい男はモテませんよ――なんてことは、聞き飽きたほど言われてるんでしょうから今更言いませんが、細かいところまで考えられないというのはそれ以上に致命的だと思いますよ」


 他七日リスカはそんな風に言った。


「――細かいところ?」


「ええ、細かいってほど細かいことでも有りませんが」


 俺としては至極真っ当な主張だったが、子供にそう言われてしまっては仕方がない。


 少しトーンダウンして聞き返したが、他七日リスカはニコリともせずニヤニヤ顔を貼り付けたまま言葉を続けた。

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