第33話 シャッターが開いた――

 シャッターが開いた――僕が解放されたのは十一日の正午ぴったりですから計算上は僕はそこで五十時間から六十時間くらいは過ごしていたということになりますね。


 僕縄抜けは出来ますけど脱出イリュージョンはハワイで親父から習ってませんから、そのシャッターが開くまでずっと一人寂しくそこで転がっていたんです。


 正直暇すぎて死ぬかと思いました。


 というか暇すぎて死のうかと思いました――それはちょうど人生に絶望していた時期でもありますし。


 あれ? そういう拷問なのかな? って思いましたよ。


 僕の部屋――密室と呼んでいいような場所に毎日ひとりぼっちで部屋の中に篭ってるって言ったってそこにはゲームも漫画もネット環境も食料すらあるんですからね。


 そこそこ広いとはいえ何もない空間で丸二日って、多分そんな刑罰どっかにありますよね。


 それに、今なら六十時間弱って分かりますけど、その時はそれがいつまで続くか分からなかったわけですから。


 もちろん、途中で二階のシャッターが開いたらしいですし、そう言えば憎子にくこさんの悲鳴とか、彼ら三人の話し声とかそういうのも聞こえてきたような気もしましたが、しかし聞こえてない気もします。


 なにかの音は確実に聞こえましたけれど、防音設備ではないとはいえやはり鉄の壁で物理的に隔離されていましたからそれが何の音かの判別なんてとてもじゃありませんが出来ませんでしたし、聞こえたのはそんな気のせいかも程度の物音だけだったんです。


 娯楽が物音だけって、旧石器時代でももうちょい進んでるぞ。


 そんな折、ふと上を見あげれば、ちょうどいい塩梅に黒い鉄骨が天井から吊り下げられていました。


 その鉄骨は照明と店内の装飾も兼ねているであろうオシャレライトを取り付けるためのものだったんでしょう、頑張ればロープを結べる高さで、成人男性の一人や二人吊るしても重量オーバーにならなそうな奴でしたよ。


 こんなもの首吊りに使えと言っているようなもんじゃないか! 


 ――とか考えるくらいには末期だったということを察してください。


 まあ、僕は着の身着のまま連れ出され、――手錠なんかも僕の着衣の一部とカウントするならば――服以外の物は持ってませんでしたから、そんな心配は必要ありませんでしたけどね。


 無理やり着せられた拘束衣は硬くてそんな用途に適してませんでしたし、むしろそうなることを恐れてロープの類は使用されなかったのかもしれません。


 下に履いている物を脱いで試行錯誤すれば如何様かにして「ソレ」は可能だったのかもしれませんが、そんなことに知恵を絞るというのも悲しくなりますし――見つかった時下着丸出しもなぁ、と。


 それは。


 中々のピンチでしたが僕にそんな美意識があったからこそ今日もこうして僕は弁舌を振るっているというわけです。


 途中で眠くならなきゃキツかった。


 そうして暇を持て余して、一度脱いだ拘束具なんかを付け直し芋虫ごっこに興じていたら、シャッターが急に全て開き、三人がやって来た――と。


 大まかにいえばそんな感じです。


 その後は、僕の巧みな話術と必死の交渉の上拘束衣を付けたままならという条件の元――本当は脱げるけど――出歩くことを許可され、食料品売り場で腹ごしらえしながら三人の話――実質太陽たいよう憎子にくこさん、二人の話を聞いたんです。


 その時点でもう手錠とか外しちゃってたみたいです、二日以上も飲まず食わずでお腹ぺこぺこだったのでつい我を忘れちゃいました、てへっ。


 そして聞かされた話が、密室のこと、日取ひとり其月きつきのこと、C.H.Kのこと、彼らが集められた理由のこと、彼ら自身のこと、その他諸々――まあ大体今まで語って来たようなことです。


 そうして彼らは言いました「誰が其月きつきを殺したか知りたい」「数々の難事件を解決して来た殺人鬼の力が借りたい」と。


 そこで最初の方の「自分が其月きつきを殺した!」に繋がるわけです。


 彼らは僕を殺す為に集まったというのに、僕を見つけた瞬間無防備だった僕を襲おうともしませんでした――その時点で僕は看破しましたよ。


 其月きつきを殺した奴も、そうじゃない奴も、もう殺人なんてまっぴらゴメンなんだと。


 彼らは僕を殺したくなかったんです、もう既に手を汚している奴が三人の中に居たら当然の主張として、まだ潜在的殺人衝動を抱えていたとしても未来のリスクより現実を取って――それは決して僕の身を案じているわけではなく自分の身――もしくは心を案じてのことだったんでしょうけれど。


 人殺しという奴は本当に救えない。


 とりあえず三人の言葉を聞いて思いましたよ、誰が殺人鬼だ。

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