第17話 集会のお題目は

「集会のお題目は治療の為だとか意見交換だとかC.H.K.の人権云々だとか毎回違って、主催者も国だとか一企業だとかまちまよ。結局何の為に集められてるのかはよく分からないけれど――ただ一つ共通しているのはそれには絶対参加しなければならないってことだけかしら」


「強制参加なんじゃあ十中八九監視目的ですね、釘を刺すというか未然に防ぐみたいな意味合いもあるんでしょうが。それって参加拒否ったらどうなるんです?」


「そうね、さっき貴方がどか食いしてたもの全部吐き出しても構わないなら教えてあげてもいいけど」


「リバースってことはグロ系ですか。僕こう見えても結構場数踏んでるんでグロ耐性は――」


「貴方の経歴を踏まえた上でなお言ってるのよ?」


「…………」


「…………」


「え、えっと、えっと。それでつまり太陽たいよう達とはそこ――そのC.H.K.の集まりで出会ったってことなんですか?」


太陽たいようとやらがどっちか分からないけれど、多分そうなるわね。私は都合七回その集会に参加させられていて今このモールにいる体の大きい方は二回目に、小さい方は五回目だったかしらね」


「だから『無作為に集められたC.H.K.』が知り合いでもおかしくない、か……ふぅん、なるほろね」


「このモールと言えば、もう一人――いやもう二人かしら。とりあえずあの男にもその集まりで出会ったわよ」


「は? もう一人って…………え? まさか、日取ひとり其月きつきもC.H.K.患者だったんですか?」


「違うわよ。私があの男って言ったら一人しか居ないでしょう?」


「いや、知りませんけど」


「私がC.H.K.の強制招集で出会った男と言うのは一十いとう一人ひとりのことよ」


「……は?」


「だから一十いとう一人ひとりよ、一十いとう一人ひとり。知らないわけじゃないでしょう? もしかすると殻井からい証拠しょうこもいるかも知れないわね」


「……一十いとう一人ひとり殻井からい証拠しょうこ、ですか?」


「ええ、大きい方と先に話したなら知ってるでしょう? アイツの名前は覚えてないけれど、アイツの話のレパートリーがそれくらいしか無いのは知ってるわ」


「いや、太陽たいようが他人への悪言を介してでしか会話出来ない系のおじさんだなんてことはどうでもいいんです。それよりもつまり一十いとう一人ひとりもC.H.K.患者だったんですか?」


「ええ、殻井からい証拠しょうこもね。それにもっと言えばこの密閉空間に招待されたC.H.K.患者は三人だけではなく本来ならばその二人も含めた五人だったのよ」


「え、ちょっと待って。ちょっと待って。僕アドリブ弱いからそんな情報次々出さないで――こほん、えーと。ん? いや流石に出来過ぎじゃ無いですか、え、ここ同窓会の会場でしたっけ?」


「だから出来過ぎてなんか無いわよ、一見偶然のように見えても、全て必然だって言ってるの。それに結局二人は来なかったみたいだし――と私も思ってたわ」


「それはまた何故……とは言いませんね。そっちのがどう考えてもまともですし」


「ふふっ、私だってそう思うわよ。けれどこうも思うのよ――彼らは本当に来ていなかったのかしら? って」


「……ふうん?」


「だって考えてもみなさいよ、彼らにとって――否、私達にとって絶好の機会なのよ? 倫理観が無ければ……いや、倫理観があればある程、これは美味しい話だと思うんじゃないかしら」


「……さあ、どうでしょうね。それを絶好の機会だと思う憎子にくこさんにとってはそうかもしれませんけど」


「いえ、美味しい話なのよ。逃すには惜しい話なのよ――だから二人は仲睦まじく来ているのよ、この狩場にね」


殻井からいさんと一十いとう一人ひとりが?」


「ええ。そして私達を出し抜いて日取ひとり其月きつきを殺したのはその二人のどちらか――あるいは両方なのよ。私には分かるわ、卑しいあいつらはそういう美味しいところどりが得意なんだから。それ以外あり得ないと言ってもいいわ」


「それ以外あり得ない、ね。何かを考えるのに絶対陥っては行けない思考ですけど、流石に無理があるんじゃないですか? 仮に二人――ってか他の第三者が参加者としてひっそりと来ているにしても結局誰も二階に上がれなかったことに違いはないんですから」


「…………そうよ、開かなかったシャッターがあるじゃない? 二人は私達と別行動していたんだから全てのシャッターが開くと同時に二階に上がり、シャッターを下ろした。そして私達が遠回りする間に――」


「ははっ、太陽たいようが言ってましたけど、貴方達三人は正午前にはエスカレーター、其月きつきの死体の側のエスカレーターに集まっていたんでしょう? そしてシャッターが下りるのではなく上がらないのを見た」


「……ええ」


「それでどうやって気づかれないように二階に回り込むんです? 仮にそこのシャッターに細工して上がらないようにしておき、他のエスカレーターから先回りしたとしてもそんな僅かな時間じゃ日取ひとり其月きつきを殺せませんしね」


「……それじゃあ、どうやったら一十いとう一人ひとり日取ひとり其月きつきを殺したことになるのよ」


「だから、どうやってもそうならないと言う話でしょう? 一十いとう一人ひとりは犯人――って言い方が正しいかわかりませんが犯人じゃありませんよ。端から居ない人間のことを論じても無駄ですけど」


「違うのよ、居たのよ、きっと居たに決まってるじゃない、だって全部全部一十いとう一人ひとりが悪いんだから。そうじゃないとおかしいじゃない」


「そうじゃないとおかしい、ね。はははははっいや本当に笑わせますよね、いやマジで。密室は密室なんですからどうしようもないでしょうに」

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