第69話「君に花束を────(中編)」
───いい加減出てこい!
───クソ女ぁぁぁああ!
MG34は全弾吐き出した後、沈黙。
急速に空冷されていく、カン……カン……という独特の音を聞きながら、ナセルはMG34を放り出した。
ガシャーン! と派手な音を立てて転がる銃には見向きもしない。
どうせ、弾切れだ。
弾は外にあるが、取りに戻る気はない。
(───アリシア……)
目の前には7.92mm弾の破壊の嵐を一身に受けた居間がある。
あらゆる家具が破壊され、元の状態がどのようなものであったかは誰にも知れない。
もはや、知りうるのは思い出を共有する二人だけ。
ここにいるナセルと、どこかにいるアリシアの二人だけ……。
「はははッッ!!」
バッキャーーーーーーン!!!
最後にMG34を据え付けていたテーブルを思いっきり蹴り上げて破壊すると、居間を後にしたナセル。
その顔は無表情。
感情の色が消えていた……。
僅かに色があるとすれば、銃の握把を握りしめ真っ白になった手と、真っ赤に染まった瞳のみ。
それがナセルのにとっての涙か、怒りか、悲しみなのか……。
はたまた別の何かか……。
無言のまま、居間を後にすると、
アリシアはまだ反応しない……。
(いい度胸だな、アリシア)
ならば、最後まで見届けて貰おうか。
俺とお前の家───……。
その最後の瞬間をぉぉお!!!
「────風呂と便所ぉぉお!」
───ピィン♪
腰から
────ズドォォォオオオオン!!!
空間内での使用により、爆風と爆炎がナセルを炙るも全く動じず、キーーーーーーーーーーンと耳鳴りがなるのを幸いに、大声で叫ぶ。
「アリシアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
愛していた。
愛していた。
愛していた。
愛していた。
愛していた。
「俺はおまえをアイシテイタゾぉぉお、アリシアぁぁぁぁあああ!!」
そうだ。
いたのだ。
だが、
「だが、もうお前を_______ッッ!」
ぶっ飛ばす。
ぶっ飛ばす。
ぶっ飛ばす。
ぶっ殺してやるぁぁぁぁぁああ!!
たが、その前に!!
「……一個ずつ、試してやろう。俺の味わった苦しみと苦しみと苦しみを!!
そうとも、
「お前に教えてやろう──……あの汚物の味、あの牢獄の飯の味、あのブチまけられた残飯の味、あのヘドロと泥水の味ぃぃい!」
そして、
尊厳を奪われた「──屈辱の味をぉぉぉぉおおお!」
出てこい!
出てこいッッ!!
出てこぉぉぉおいッッ!!!
さっさと出てこい、クソアマ!!
いるのは分かってんだ!!
「さぁ、出てこい!」
出てきて、俺の前で
頭と要領のいいお前のことだ。
命乞いか?
言い訳か?
愛を
よりを戻したいとでも
「…………お前が何て言うのか、今から楽しみで、楽しみで、楽しみで仕方がないッッ」
だから、さっさと出てこい!
でないと家をぶっ壊してから、テメェの汚ぇ面を王都中に晒してやるぁぁあああ!!
バラバラー! と便所と風呂が吹っ飛んで燃える。
背後ではぶちまけられた糞尿が酷い悪臭を放っていたが、……ははは! ゴミクソ野郎の住処の匂いとしてはちょうどいい。
断じてここはナセルの家などではない。
断じて違うッッ!!!
もう、ここは違うんだッッ!!!
書斎に入るとMP40を2丁で構えてブチかます。
軍人時代の溜め込んだ任務の報告書の写しや、冒険者時代に手に入れた様々な古文書や巻物。
そして、趣味の一環として購入していた古い書籍。
壁には、軍から貰った感状や、冒険者ギルドから渡された賞状の類。
そして、教会の出す高価な本……勇者と聖女の伝説を記載した聖書────。
この部屋にはナセル以外は出入りしていなかったのだろう。
古い匂い──黴と埃の匂いが漂う場所。
……ナセルが心落ち着ける空間であった。
だが、
「────全部、虚構だ……!」
何が、勇者だ!
何が、聖女だ!
俺の何を功績として称えた感状だ?
俺の何を称して授与した賞状だ?
全部……全部、虚構だった!!
そうとも!
積み上げたものは、全部消え去った!
こんなもの……、
こんなもの!!!
「──こんなものは何の価値もないッッ!」
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!!
バスバスバス!!
9mmパラベラム弾の連射を受けて穴だらけになっていく書物……。
そして、ナセルの過去の栄華……。
生きた証──────。
躊躇いなくそれらを撃ち抜いていく。
守ってくれなかった。
庇ってくれなかった。
戦ってくれなかった。
ナセルを讃えた軍も、
ナセルが尽くした国も、
ナセルの貢献したギルドも、
そして、教会すらも────。
その全てが役立たずどころか、ナセルに牙をむいて襲ってきた。
勝手に盛り、勝手に欲情し、勝手に決めて───挙げ句の果てに、人の女房を欲したクソ野郎の機嫌を取るためだけに!
そんな奴らがくれたもんなんざぁぁあ!
「──────燃えろぉォぉォおおお!!」
至近距離で撃ちまくり、発砲炎で焦がしていく。
紙や羊皮紙はよく燃える。
ナセルが火を付けなくとも、銃弾の熱と徐々に部屋が熱く、明るくなっていく。
消えろ、
消えろッッ!
「───消えてなくなれッッ!」
これはケジメだ。
こんなもんに、何の未練もないッ。
俺には、二人の女がいるだけだ。
そうとも、二人に会いたい!!!
会いたいッッッッ───。
それだけが真実ッッ!!
「そうだろうぅ! アリシアぁぁぁああ!」
燃え盛る書類や本を背景に、明るい書斎をあとにするナセル。
バァン!! と、家を揺るがす程の大音響でもって書斎を封鎖した。
あとは勝手に燃えていくだろう。
さぁ、残るは3部屋。
俺の部屋と勇者コージの部屋……。そして寝室。
「いい加減出てこい! クソ女ぁぁぁああ!」
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