第53話「敵前渡河」

 ──工兵インジィニァ前へフォマァア

『『了解ヤボール!!』』


 ナセルの命令を前に、ゴテゴテと装具をつけ荷物が満載の状態の戦闘工兵が走りでる。

前にでるぞッイッヒカィンマルシュ!』

 擲弾兵達に支援されながら、彼らは前線に張り付くと掘の先の正門跡を注視した。


援護ヒィフゥ射撃シィセン!』


 ヴァバババババッバ──!!

 ヴォォババババババ──!!

 バババババババッバ──!!


 散開したドイツ兵が崩れた正門先、爆炎の中に向かって盛んに撃ちかける。

 反撃らしい反撃はないが、どこに生き残りが潜んでいるか分からない。

 そんな中、何を思ったかドイツ軍工兵が援護射撃のもと数名────無防備に躍り出た。


(工兵ってのは、相変わらず命知らずだな……)


 未だ、城壁から弓矢の応酬がないとも言い切れない中、


距離よしインファノン グゥト! 強度よしカァフト グゥト! 幅よしバラァイト グゥト!』


確認ベシュティシュゴン! 工兵戦闘車カンプファイツェィグ前へマァルシュ!』


 キュラ、キュラキュラキュラ!

 

 ドイツ軍工兵が搭乗していた、鉄製の板を乗せた工兵戦闘車型のハーフトラックが前進し始める。


煙弾ラァフグラナート!!』


 その様子を確認した工兵たちが、一斉に立ちあがり、手に手に構えた手榴弾を投げ始める。

 城門跡地に向かって投げられたそれは、たちまちにモクモクと白煙をふき出す。


煙伏よしラァフ グゥト!』


突撃橋アングリフスパァカ前へマァルシュ!』


 ガラガラガラ! と、ハーフトラック上に乗せられていた二枚の鉄板が、レールに沿って引き出されていく。


 細かい調整は人力でやりつつ、エンジンからの動力でウィンチを操作しながら慎重に橋を伸ばして行くらしい。


 ウィンチから伸びるワイヤーによって不安定に揺れるも、距離も方向性もいい。

 そろりそろりと伸ばされていく突撃橋の先端が、跳ね橋を失った城門の基部に到達した。


 一見無防備に見える作業だが、


 ヴァバババババババババババッバ!!

 ────ズドォォォォオオン!!!


 その間にも、対岸に対する制圧射撃が猛然と撃ち込まれている。


 パンター戦車も負けじと主砲と同軸機関銃、そして前方銃を撃ちかけた。


架橋作業フェネツォンスペティグ概成しましたファエノマァネゴン!』

擲弾兵インファンティリコォ前へマァルシュ──』


 敵の残党がいないとも言い切れないため、まずは擲弾兵を送り込み、前方を制圧する。

 フォッケウルフの爆撃によって城内の視界は極めて悪いため油断できない。

 

 もっともドイツ軍に油断などないが……。


 敵も死に物狂いで抵抗してくるだろう。

 ほとんど追撃中に撃破したとはいえ、城内には多少なりとも兵がいるはずだ。

 

 その敵兵らの視界も閉ざされているが、ドイツ軍の視界もまた悪い。


 そんな中を、ダダダ────! と足音も荒くドイツ軍の歩兵──擲弾兵が相互支援しつつ、突撃橋を渡っていく。


 ナセルもドイツ軍もここまで来て、もはや油断などはしない。

 持てる武器を使って全力で戦っていく。

 残党は僅か──おそらく、負傷兵ばかりとはいえ、追い詰められた敵が何をしてくるか知れたものではない。


 っと、ほら来たぁあ!!

敵襲ぅぅうアングリィイフ!!』


 前方に展開中の擲弾兵から鋭い注意喚起が飛ぶ。


MGぃぃぃぃマシンゲヴェェェア!!』

 突撃橋を渡った擲弾兵達の指揮官が、後方で構えているMG42の射手に指示を飛ばす。


確認ヤー!!』


 ドイツ軍の号令がはしる中、この爆炎の中で生き残っていたらしい王国軍の兵が猛然と飛び出してきた。


 どこに潜んでいたのか──かなりの数だが、その姿は不安定で動きも鈍い。

「「王国ばんざーーい!!」」


 なんだありゃ……?


撃てぇフォィア!』


 その瞬間に、

 歩兵小隊の装備するMG42軽機関銃とハーフトラックの車載機関銃が十字砲火を浴びせかける。


 ババババッババババッババババ……と機関音も頼もしく、王国軍の兵を切り伏せるように倒す。


「「ぎゃあああ!!」」


 撃ち倒された敵兵は数々の遺棄死体を残して、また後退していった。


 突撃は見事。だが、全くの弱兵。

 なるほど……検分するまでもなく、彼らは負傷兵だ。

 死体の一様に血走った目を見るに、クソ国王がスキルを使って戦闘に駆り出したのだろう。


 哀れではあるが、襲ってくる以上は打倒さねばならない。


 それにしても────。


 あれほど……。

 そう……あれほど──ナセルを畏怖させていた王国の権力の、源泉たる軍事力の……。

 そのかなめたる近衛兵団がこのありさまだ。


 かつては、ナセルをして成すすべもなかった王国軍の近衛兵団が、だ。


 国王の前に引き摺りだし、

 コージと決闘させ、

 また拘束し、


 あまつさえ────、


 家族を殺し、

 拐い、

 焼いた──……。


 あの連中が……これだ。


「ははは……」

 とんだ雑魚に成り下がるとはな……。


 彼らもMG42機関銃の連射の前には形無しということか。

 もはや、防御魔法の使い手もいないらしい。防具もほとんどない有り様。


 そりゃ、そこに目掛けて7.92mm弾を連続で撃ち込まれるんだ。

 ──いてぇ、で済むわけがない。


いいぞグート前へマァルシュ! 前へマァルシュ!! MGぃぃぃぃマシィンゲヴェーア援護ぉミァデコン!』


 MG42軽機関銃の二脚を展開しつつ、擲弾兵が橋の近くで体を地面に委託する。

了解ヤボォル!』

 チョンチョンと指切りしつつ、銃身が加熱し過ぎないように連射。

 ──バババババババババババババン!

 さかんに、白煙の奥に向かって弾を叩き込む。


 彼には敵は見えていないが、それは特に重要ではない。


行け、行け行け行けぇロス ロスロスロォス!!』


 ──バババババババババババババン!


 支援射撃に支えられて、半自動小銃Gew43ヒトラーガーランドを構えた擲弾兵がどんどん躍進していく。


 そして、彼らは堀に掛けられた突撃橋を渡っていき────。


 バン、バンッ、バン!──と手に持つ小銃を左右や前方に向けて威嚇射撃。

 走行しつつ射撃も欠かさず渡り切る。


 そして、すばやく橋の左右に展開し、瓦礫を盾にした。

 

到着ぅぅアンクンフト確保ぉぉレェゼヴィアゴン!』

確認ベシュティシュゴン! 工兵インジィニァ前へフォマァア!』


了解ヤボール!!』


 対岸に擲弾兵を展開させたドイツ軍は、次に工兵を渡らせる。


 渡り切った工兵は杭とハンマーを使って橋を固定するのだ。


 ハンマーと杭を持った工兵が、銃を背に打っちゃった状態で渡り切ると、危険を顧みずにハンマーを力いっぱい振るい始めた。


 ガキン、ガキン! と言う音を聞きながら、次はMG42が橋を渡る番だ。

いいぞグート! MG前へマァルシュ! 小銃ゲヴェーア援護ぉミァデコン!』


 そして、ドンドン擲弾兵を送り込んでいく。


 王城側の対岸に進出した擲弾兵の指揮官が盛んに前方に向かってワルサーP38ドイツ製拳銃を撃ちながら、叫んでいる。


集まれザメルン!』


 彼は対岸に渡った兵を集合させると、


全周ウンファサィンダ 防御ヴィタィディドゥン────!!』


 小銃兵を掌握し、全方位に射撃姿勢をとらせるとMG42装備の機関銃手を躍進させる。


 対岸に、機関銃を据えつけた陣地を構築するのだ。

 こうして、少しずつ兵器を前に送りこみ、対岸を要塞化し後続を援護するのだろう。


 機関銃手がガチャ、ガチャ! とMG42と弾薬箱を鳴らしながら、予備銃身と弾薬箱を担いだ副射手を伴い躍進。


 ガンガン! と足音も荒く突撃橋を渡りきり、対岸に到着した。


到着ッッアンクゥンフト!!』


 叫び飛び込むように、地面に張り付くと素早く軽機関銃MG42の2脚を展開して大地に委託。

 すばやく、副射手がサポートする位置に付き、予備の銃身をいつでも取り出せるように控えた。


 安定した射撃姿勢だ。

 

 そして、擲弾兵の展開と工兵たちの作業が終わったのを確認すると、続けて擲弾兵小隊のハーフトラックが渡河を開始する。


 工兵戦闘車によって掛けられた橋はハーフトラックの幅にぴったりだった。


 ギシギシと音を立てながらハーフトラックが突撃橋を渡っていき──。


陣地確保ランドヘズヴィアン! 敵増援にヴァスタンス警戒せよッ テェアゴン


『『了解ヤボール』』


 凶悪極まりない車載機関銃を──バリバリバリッッ! と左右の城壁に向かって撃ちまくる。


『──続けて戦車橋に拡充する。工兵戦闘車前へ!』


 十分すぎる戦力を前方に推進すると、引き続き工兵戦闘車が突撃橋を降ろす。

 今度はさっきよりも作業が早い。


 遠岸と近岸に工兵がいるため作業の速度も倍近い。

 さらには渡河を終えたハーフトラックが盾となり敵火力から工兵を守る。


 ここに来て、ようやく生き残りの王国軍も盛んに接触を繰り返すが、MG42の射撃に阻まれて近づけないようだ。


急げシュネル急げシュネル!!』


 橋の幅を延長するように突撃橋を並べると、先と同じようにハンマーと杭でガキンガキン!──と固定。

 最後に連結させて、補強リングとピンを差し込んだ。


戦車橋パンツァーブルック完成フェアティシァゴン!』


 高らかに工兵が叫び────。







戦車前へパンツァーマルシュ!」

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