第51話「戦闘爆撃機(後編)」

「────ぶっとばせぇぇえ!!」


 無線にがなり立てると、上空のフォッケウルフは我が意を得たりとばかりに、翼を振ってバンクして了解の合図。


 二機編隊ロッテに分かれると、地上を無様に逃げ回る国王にあっという間に追いつく。

 そして、鎌首をもたげる蛇のように、ククンと動かした機首を僅かに下げる。


「ぶげ!? な、何じゃありゃ!?」


 腫れ上がった顔面でよく見えるなと感心するナセル。

 国王はといえば、器用に手綱を握ったまま振り返り、上空にあらわれたフォッケウルフを驚愕の眼差しで見ていた。


「はっはっは! そいつは、お前にとっての悪夢だよ!!」


 ナセルの大笑いを背後に受けつつ、国王は僅かばかりの騎馬戦車と数騎の騎兵を引き連れ、命からがらと言った様子で戦場から離脱する。


 だが!!

 そこにつっかけるフォッケウルフの攻撃!


(……安心しな)

 ──ちゃーーーんと、国王だけは殺さないでおいてやるからよ!!


撃てぇぇええシィィイセェン!!」


 ナセルの命令を受けたフォッケウルフは、翼に吊るしたロケット弾を一斉に発射!!


 ブパパパッパパパパン!!!


 まるで翼が燃え上がったかのように黒煙と炎が噴き上がる。

 それはそれは、物凄い炎の尾を引きながら、真っ直ぐに国王たち目掛けて飛ぶ。

 フォッケウルフが装備する対戦車ロケット弾の連続発射だッ!!


 シュゴゴゴゴオオオオオオ!!


 無数のロケット弾が、高速で騎馬戦車と騎兵の残党に突っ込むと────……!


「ぶひぃぃいいい!!」


 国王の叫びをかき消す様に大爆発!!


 ドォン!!!

 ドドドドドドドドドオン!!


 わざと着弾点をずらしたロケット弾攻撃が、国王の周囲にいた騎馬戦車と騎兵を焼いていく。


 あるものは破片に切り裂かれ。

 あるものは爆炎で黒焦げになり。

 あるものは爆音に驚く騎馬が迷走し衝突。

 あるものは直撃を受けてこの世から蒸発。


 あっという間に護衛達を全て消し去った。


「ひぃぃぃいいいい!!」


 一応は魔法防御でもしていたのだろう。

 魔術師同乗の国王がのるボロボロの騎馬戦車はなんとか爆炎を脱し、一台だけで城に逃げ戻る。


 ぶりゅりゅりゅりゅ────!!

「はぶ、はぶ、はぶぁぁああ!!!」


 国王は────もはや、人目もはばからず盛大に脱糞。

 履物の後部がもっさりと盛り上がっているが、そんなことを気にしている余裕もない。


 はぶ、はぶ、

「早く! 速く走れぇぇええ!!」


 バシバシと鞭うち馬を駆るも、すでに限界速度。ぜいぜいと馬が喘いでいるも、あと僅かとばかりに鞭を入れる。


 そして、それをまんじりと見送るナセルではない。


 もはや、追い詰めるのみ。


 兵はなく、

 守りもなく、

 人もいない!


 あとは復讐対象たる国王がいるだけだ。


「──追えぇぇえ!!」


 すかさずナセルはドイツ軍に追撃を指示。

 パンター戦車を先頭に、陣地から飛び出してきた擲弾兵とⅣ号戦車を背後に突撃を開始。


 国王はと言えば命からがらと言った様子で城門を潜り抜けるも、上空のフォッケウルフにはそんなもん関係ない。


 さらには、ナセル率いる地上のドイツ軍が猛スピードで追ってくる。


「ぬぐぁああああ!! は、橋を落とせ! は、はやくぅぅうう!」


 ガラガラガラ!!──と、猛スピードで跳ね橋を渡り切ると、限界を迎えた馬がここでへたり込み、騎馬戦車が横転する。


「へぶ!! ……つつつ──」


 顔面を強打しつつも起き上がり、用済みになった騎馬戦車を乗り捨てると、同乗していた弓手と魔術師の尻を蹴飛ばして跳ね橋を操作させる。


 もはや、王城に残っているのは僅かばかりの留守番兵と重傷を負った兵ばかりだ。


 そして、先ほどまでの戦闘で国王率いる最後の戦闘部隊が完敗したのを見て僅かばかりの留守番兵も逃げ散っていた。


 おそらく、今現在も残る兵力は片手で数えるほどしかいないのではないだろうか?


 だが、それにも関わらず国王は騎馬戦車に同乗していた最後の2名を跳ね橋操作に送り出すと、迫りくるドイツ軍を前にガタガタと震えるのみ。


 もはや、護りは城壁と堀しか残っていない。

 それすらも突破されそうになっている。


「うひぃ!? ぶひぃ!!! は、はやく跳ね橋を落とせ! はやーーーーく!!」


 だが、無慈悲に響き渡る履帯の音。

 それは、堀と城壁に反射しこだますと、一層大きく聞こえて恐怖心を煽っていく。


 ──ギャラギャラギャラ!!


「ははははははは!!」

 わはははははは!!!


 国王の眼前に迫りくるのは、ナセルを先頭に、巨大な戦車と黒衣の軍勢!


 そいつらが今にも国王の懐へ迫るも、上空では怪鳥の如きフォッケウルフがブンブンと飛び回っているのだから迂闊に城門の下から抜け出せない。


「ぶひ!? ぶひ! く、来るな、来るな」

 来るなーーーーーーーーーー!!!


 ────ぶひぃぃぃぃいいい!!!


 そうこうしているうちに、上空のフォッケウルフが蹂躙を開始した。


「いいぞ! ブチカマセ!!」

 ナセルの叫びに容赦はない。あとは残党が僅かだけ。

 敢えて言おう────カスであると!!


 ギャガガガガガガッガガ!!


 フォッケウルフが重低音を響かせていたかと思うと、腹に響く連続射撃。

 機首の13mm機関砲を城中に浴びせかける。


 もともと砲兵の射撃でボッコボコになった王城をさらに耕していき、綺麗な庭園も東屋も、馬を囲う厩舎も使用人の平屋建ても穴だらけになり倒壊していく。


 その様子に、隠れ潜んでいた残党がバラバラと建物から飛び出して来る。

 手に手に弓を構えて盛んに上空のフォッケウルフに撃ちかけるも──効くわけも届くわけもなく、あっという間に銃弾に引き裂かれて骸を曝すのみ。


 もはやただの残党狩り……。

 いや、ただの屠殺だ。


 ──ブパパパッパパパパン!!!


 大量のロケット弾は王城の本丸を除いて各種施設をボッコボコに叩いていく。


 ズドン! ズドン! ズドン!!


 城内の神殿分所、臣下の家屋、食糧庫、武器庫、兵舎、倉庫群と次々に爆発炎上。

 それらを正確無比にぶっ飛ばしていくフォッケウルフだが、なぜか王城そのもの──本丸には手を付けない。


 その様子を茫然と見つける国王に向かっていよいよナセル率いるドイツ軍が目前に迫ってきた。


 ギャラギャラギャラギャラ!!


「さぁ、お前の大事な大事なお城が台無しだ。お次はどうする?」

「ひぃぃいい!?」


 もはや虚勢すら張れなくなった国王は城門の下で腰を抜かしている。


 あとは、堀とそこにかかる跳ね橋だけ!

 それを挟んで別れた二人だが────。


 バキィイイン! と大きな破壊音が響く。

 その音に反射的に身を固くしたのはナセル。

 一方、ナセルとは反対に国王は喜々とした表情だ。


「何の音────」

「間に合ったか!」


 国王の喜色溢れる声音に合わせる様に、ガラガラガラ──! と、跳ね橋を支えていた鎖が弾けて堀に落下していく。


「き、ききき緊急時の跳ね橋破壊装置じゃ!──がははははは! こ、これで手も足も出せまい!」


 冷や汗ダラダラで国王はふんぞり返る。

 尻はもっさり、履き物の隙間から足にまとわりつく茶色のナニか。

 その目の前で跳ね橋が傾いでいき、ドボーーン! と堀の中に没していった。


 これで、王城に渡る手段はなくなったわけだが……。

「ハッ……笑わせてくれる。こんなチンケな堀一つで逃げ切ったつもりか?」


 ギャラギャギャラ……!


 パンター戦車で城門前まで到達したナセル。

 そこで、堀を挟んで国王と向かい合うと。


「くくく……! 単純だがそう簡単に越えられまいて、貴様ら異端者どもが橋を作る間に、我が精鋭が──」


 パァン!


「ひょ!?」


 グダグダと能書きを垂れ始めた国王の繰り言など聞いていられないとばかりに、拳銃で一発足元に撃ち込んでやった。


「オウチに帰ってガタガタ震えていろ……テメェは簡単には殺さねぇ──」


 パン、パンパン!!


 足元を狙って連射。銃の存在は知らずとも足元で爆ぜる銃弾に恐怖を感じないわけがない。


 ついには、「ひぇぇぇえ!」とか叫びながら一目散に逃げ出した国王。



 その様子をを冷淡に見つめるナセルは、






「その汚ぇケツを磨いて待ってろ────」

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