第48話「ガラスの王国(後編)」
──我が王国は、あと数百メートルしかない!
国王の悲痛な叫びがこだます。
ナセルの侵攻によって王城にまで追い詰められた国王は、もはや怖いもの知らずだ。
たしかに、逃げ場所はもうない……。
王都郊外に逃げようにも、ナセルが逃がすわけがない。だから、ここが最後の戦場。
ここで負ければ城に逃げ帰り、まんじりと滅びを待つだけだ。
ドイツ軍のように通信機器もないこの国では、魔族との戦争に出張っている王国軍主力を最前線から呼び戻すのに何日もかかるだろう。
だから、これが最後。
最後の野戦。最後の戦い。
そのことは国王もよーーーーーく分かっていた。
念のために、保険として勇者を呼びつけたわけだが……、
「あんのクソ勇者め! 何をしとるんじゃ、ビッチと乳繰りあってないで、さっさとワシを護りに来んか!」
ええい────!!
ビシィ!! 大型軍馬に鞭をふるう。
そして、国王自ら重騎馬戦車を駆ると、気合を入れなおすかのように、
「怯むなぁぁあ! 者どもよ! 止まっていては火の矢に狙われるぞ!──委細構わず突進せよ!」
突進突進突進!
突撃突撃突撃!!
突貫突貫突貫!!!
「いけぇぇえ! 続けぇえ! ツワモノどもよ!!」
お、
「「おおう!!」」
ここでようやく先頭に躍り出る国王。
一度は萎えかけた戦意。だが、国王が先陣を切ることで、立ち所に戦う意欲を回復する騎馬戦車隊。
国王も騎馬戦車隊も、
もう、アドレナリンがドバドバと溢れているのか、対戦車地雷の恐怖がスポーーーーンと抜け落ちてしまっているらしい。
…………。
って──おいおい、おーい!!
じょ、冗談じゃない!
このままじゃ、あの野郎死ぬぞ──。
ダメだ!
地雷でドカン!──なんぞ、生温い……!
「おい! 奴は俺が仕留めるんだ。地雷を止めろ!」
ナセルは焦る。
まさか、自殺覚悟で突っ込んでくるとは思わなかった。
そうでもしなければ怯んだ騎馬戦車が進もうとしないからだろうが────。
『無理です。地雷は一度設置したら人力で除去するか誰かが踏むまで解除できません──』
何年でも、何十年でも……。
仕掛けたが最後。
土に還るまで忠実に任務を果たす殺意の塊。
それが地雷。戦場の静かな悪魔だ!
その説明を聞いて呆気にとられるナセル。
なんて恐ろしい兵器を使いやがるんだコイツらは!
──ば、馬鹿げてるぞ?!
(な、ななな、何だその兵器は!)
殺意の持続。
その薄ら寒さにナセルは冷や汗をかく。
「くそ! ならば、俺が討って出る──奴はこの手で仕留めなけりゃならん!」
ナセルの意志は固い。
地雷の恐怖もさることながら、ドイツ軍を召喚したのはナセルだ。
最悪、彼らを召喚から解除し、帰還させれば、地雷も消えるだろう。
だが、今はできない。
国王以外にも敵は大勢いるのだ。
ドイツ軍無くして、ナセルに勝てる道理はない。
結局、騎馬戦車相手に一人で何ができるでもないが──。
──……彼らドイツ軍がいれば勝てる!
今さら彼らの強さと非道さに異を唱えるなど愚の骨頂だ。
だが、裸で敵前に飛び出しても挽肉にされるだけ。
「何か良い手はないか?」
焦りからナセルは『中隊長』に尋ねると、
『了解──工兵小隊長が同乗します。戦車用の地雷原通路まで案内させましょう』
──地雷原通路??
それだけ言うと、『中隊長』は工兵小隊長を呼びつけ、同時にⅣ号戦車を発進させる準備を整え始めた。
だが、
「待て! 奥の戦車はそのままでいい。バリケードを除去している暇もない。今から新しく召喚する」
そうだ。
何も同じ戦車を使い続ける必要はない。
バンメルから奪った『魔力の泉』のおかげで、無尽蔵に沸き続ける魔力。
もちろん何処かに限界はあるのだろうが、もとはドラゴン召喚Lv5のナセル。
ドイツ軍召喚Lvが低い今は、まだ大した負担を感じない。
そうとも、地の魔力が違うのだ。
新しい召喚術とはいえ、使用する魔力はドラゴンの頃とさほどかわらない。
召喚術とは別に、術者自身の身体Lvも見えないステータスとしてあるのだ。
その点、ナセルは軍人時代と冒険者時代に、積み上げた下地がある。さらには、元々のナセルの召喚獣Lvが5であったことに起因しているのだろう。
ドイツ軍召喚Lvは現在4。
本来ならLv4の召喚獣を呼びだせば短時間しか使役できない。
だが、魔力の泉の補助もあり、かつナセルの元の召喚獣Lvが5であったため、現Lvより低い召喚獣を世に顕現させるのはさほど難しくないのだ。
これがLv5になってくるとどうなるか……。
まぁいい。今はそれよりも国王を仕留める事────。
「いでよ! ドイツ軍────!」
ブゥン……。バリケード前に召喚獣ステータスを呼びだし選択……。
「なに!?」
ドイツ軍Lv5:
※ ※ ※:
Lv0→ドイツ軍歩兵1940年
Lv1→ドイツ軍歩兵分隊1940年国防軍型、
ドイツ軍工兵班1940年国防軍型、
Ⅰ号戦車B型、
Lv2→ドイツ軍歩兵小隊1940年国防軍型、
ドイツ軍工兵分隊
Ⅱ号戦車C型、
R12サイドカー
Lv3→ドイツ軍歩兵小隊1942年自動車化
※(ハーフトラック装備)
ドイツ軍工兵分隊1942年自動車化
※(3tトラック装備)
Ⅲ号戦車M型
メッサーシュミット
Lv4→ドイツ軍装甲擲弾兵小隊1943年型
※(ハーフトラック装備)
ドイツ軍工兵分隊1943年型
※(工兵戦闘車装備)
ドイツ軍砲兵小隊
※(
Ⅳ号戦車H型、
ユンカース
Lv5→ドイツ軍装甲擲弾兵小隊1944年型
※(ハーフトラック装備)
ドイツ軍工兵分隊1944年
※火焔放射戦車装備
ドイツ軍砲兵小隊重榴弾砲装備
フォッケウルフ
(次)
Lv6→ドイツ軍装甲擲弾兵小隊1944年型
※重装備(ハーフトラック装備)
ドイツ軍工兵分隊1944年
※
ドイツ軍砲兵小隊
※
※He111H後期型に登載可能
Lv7→????
Lv8→????
Lv完→????
嘘だろ……。
「ま、またLvがあがっている……だと?」
ついにナセルがドラゴンを失ったあの時のLvに追いついてしまった。
召喚術Lv5──。
かつていたはずの、……人生絶頂の時のそれ。
Lv5だと?
絶望から這い上がり、今日で……たったの1日でたどり着いたのは、失ったはずのナセルの人生の最上の時──最盛期のLv……。
(召喚術Lv5か……)
なぜかそれだけで胸が熱くなる……。
それが『ドラゴン』ではなく『ドイツ軍』であってもだ。
たとえそれが無数の屍の上にあるLvであろうと────だ。
失った物を一つ取り戻した気持ちとでも言うのだろうか……。
グググと胸を押さえるナセル。
あぁ、そうか。
俺はまだ────全てを失っていない。
こうして、Lv5の召喚術にまで至ることができた。
絶望とドン底の果てにある再起の時。
それを経てナセルはまた到達した──。
そして、まだまだ先へ行ける。
ドイツ軍とともに!
そして──────────!
そうとも、忘れるものか───!!!
まだ、
「──────リズ……」
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