第35話「王国よ! 震え上がれッ!」
※ 王国側視点 ※
──チュバァァァァアアアン!!!
本日午後、王都で激しい振動と爆発を確認。
それはあの豪華な王城の敷地内で発生したらしく、黒々とした煙が立ち上っていた。
巻き上がる黒煙とともに、王都には生焼けの死体が大量に降り注いだ。
そこかしこで起こる悲鳴の連鎖。
だれがこんな晴れた日に血と肉の雨が降ると予想しただろうか……。
それと時を同じくして、王都の住民は今朝から続く騒音とともに、さらには見たこともない化け物やドラゴンが多数空を舞う姿を目撃する。
まるで悪夢のような光景。
それは
不安気に窓の隙間から外を見る人々。
国の護りたる国王の偉業を思い王城を眺めて見れば、そこには爆風をうけて全ての窓が損壊している無惨な姿が見えた。
その余波をうけて、割れた窓の破片がキラキラと舞っているその光景───。
太陽の光を反射して輝くその様は一種幻想的ですらあったが、その背後に立ち上る黒煙を見ればこの世の終わりにしかみえなかった。
──グゥゥォォオン…………。
低い唸り声のようなものが、遠くから響いてくる。
そして、また化け物どもが空を舞うのだ。
まるでドラゴンのような唸り声をあげるそれは、住宅の屋根スレスレを飛び、通りすぎたあとには物凄い風を巻き起こした。
その風圧は屋根板を軽々とひっぺがしていくほどだ。
……グゥゥゥウウオオオオオン────!!
ビリビリ! と窓ガラスが振動し、屋根板が何枚か剥がれていく音が聞こえた。
そこを見上げた住民の目に写る4匹の化け物。
その化け物は、翼を生やし燕のように空を飛ぶ。恐る恐る見上げた翼には十字紋のようなマークをつけており、この世の何よりも高速で飛んでいく。
この王都を。
勇者の末裔が治める国の青空を。
召喚された勇者が暮らす街の上空を。
そいつらは縦横無尽に空を舞い……。
乱暴に飛びまわり踊っている。
だけど、なんということだ。
そいつらは……、そいつらは優雅にも翼の端から白い雲を棚引かせていた。
────ォォォオオン……!!
そして、彼らが通りすぎたあと────。
それは来た。
彼らが来た。
奴らが来た。
軍隊が。
化け物が。
──ドイツ軍が来た!!
────ギャラギャラギャラ……!
──ギャラギャラギャラ……!
まず最初に目についたのは鋼鉄の車。
激しい金属音を立てて爆走しているのは鋼鉄の────ば、馬車か?
いや、違う。
…………な、なんだアレは?!
そいつらが走るだけで王都の住宅は地響きでガタガタと揺れ動く。
泣き出す子どもに、神に祈り出す老人。
そして、今にも逃げ出しかねない王都の住民たち。
そいつらが一子乱れぬ様子で走り回る度に、石畳は軋みを上げて割れていき、民家の中では家具が揺れ動き、食器が棚からズリ動いて落ちて割れる。
そんな恐ろしい軍団が通り過ぎていくというのに、なぜか奴らと来たら歌っている。
そうとも、謳っている。唄っている。
歌を歌っている!
~~♪
~♪
『『フラァァァ♪ フラァァァアア♪』』
ガン、ガン!
ガン、ガン♪
聞いたこともない旋律は勇壮で、鉄板を叩く打楽器のような音が軍靴の響きを思わせる。
ガン! ガン♪
ガン、ガン、ガン♪
~♪
~~♪
『『フラァァァ♪ フラァァァアア♪』』
勇壮で軽快な音楽と共に、それは来た────。
ロクに抵抗数勢力もないまま、多数の市民が暮らしている街を堂々と真昼間から行進していく。
──ギャラギャラギャラ!!
盛大な音を立てて驀進する黒衣の軍勢──。
間違いなく敵だろう。
『『
煌びやかな鎧に身を包んだ美しい近衛兵団ではない。
高い練度と親しみのある治安維持機構王都警備隊でもない。
質素で堅物が多いも、謙虚で物静かな神聖騎士団でもない。
ましてや、ガラの悪い連中も多く、粗暴な連中が多数所属するも退役軍人も多く市民と密接にかかわる冒険者達でもない。
ない。
ない、ない、ない!!
あんな連中見たことない!
『『
「「「う、歌ってやがる」」」
ガタガタと震え身を寄せ会う住民たち。
「あ、悪魔の軍勢だ……」
「地獄から死者が蘇った?」
「魔王軍じゃない……?!」
そんな恐怖の前でも住民たちは僅かな情報を軒下で交換していく。
き、聞いたか? と──。
「ギルドが壊滅したらしいぞ……」
「神聖騎士団も、教会も灰塵になったらしい……」
「さっきの大爆発は近衛兵団の残骸だぜ?」
ひそひそと話す王都の住民の噂が民家の軒の間で流れていく。
誰も通りに出れないが、こっそりと路地を伝って噂が徐々に徐々にと……。
そして、その半信半疑の噂も段々と形になるにつれ、王都は恐怖に包まれていく。
千年の長きにわたり外敵を寄せ付けなかった王都を軍靴が蹂躙しているその事実に!
『『
──ギャラギャラギャラ!!
「「「神よ!!」」」
──ギャラギャラギャラ!!
「「「「「勇者よ!!」」」」」
家々から発せられる怨嗟に視線と、祈り等どこ吹く風とばかりにドイツ軍は前進する。
『『
高らかに歌い前進する。
ドイツ軍は前進する。
彼らは前進する!
彼らは意気揚々と敵の首都である王都を蹂躙する。
だが、腐っても勇者の国の首都──王都だ。
そんな彼らが、もちろん手をこまねいているだけではない。
立ちはだかるのは──勇気ある若者。
そして、いつ出たかもしれぬが「敵を殲滅せよ」の命令に従った王都警備隊。
さらには、招集されて王城へ向かう途中であった近衛兵たち。
最後に、命知らずの冒険者といった連中。
彼らが散発的にドイツ軍を強襲する。
だが、聞こえは良いものの、ドイツ軍に切り込んでいった彼らの大半は取り付くことも出来ない。
なんたって、
「王都の蹂躙を許すなッ!」
「突っ込めぇええ!!」
勇敢な一団が雑多な武器を構えてドイツ軍に襲いかかる。
建物に隠れた不意の強襲! 実に勇敢だ!
『『『
だが、勇敢かどうかなど関係ない。
鉄火の前には等しく蛮勇。
彼らは死ぬ。間違いなく死ぬ。
ヴォババババババン!
ヴォババババババン!!
「ぎゃああああ!」
「腕が腕がぁあ!」
「ひ! こっちにく──」
無慈悲な銃弾は戦士たちを切り裂く。
そうとも、熱い鉛弾は勇敢な戦士たちに、一片の慈悲も見せない。
ヴォババババババババババババババン!!
ハーフトラックとて無防備なはずもなく。
兵を降ろすこともなく、ただ撃つのみ。
背後に兵を満載したまま、取り付こうとした王国の兵をあっという間に薙ぎ倒す。
──そう、まさに薙ぎ倒すだ。
剣でも、槍でも、矢でも、魔法でもない。何か……。
いや、あえて言うなら魔法なのだろうか?
だが違う。
魔法にある一片の慈悲があれには全く感じられないのだ。
ただただ暴力。
鉄の拳。
そいつによって勇敢な若者がバタバタと死んでいく。
「ひぃ!! た、助けてくれぇえ!!」
「神様────こ、こっちに、」
──ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
そうとも……目に見えない暴力で、あっという間に王国の兵に冒険者たちが蹴散らされていくのだ。
──ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
無残に晒された死体は、その馬車たちによって無慈悲に、そしてゴミのように
もう、グチャグチャだ。
──ぎゃぁぁああああああああああ!!
悲鳴など知らぬ。
慈悲など知らぬ。
感情など知らぬ。
戦士に対する礼儀など皆無。
敵を敵として処理し、敬意もへったくれもない。
奴らは暴力の化身だ!
ただただ戦争
そして、連中はといえばそのままに、あろうことか……王城に攻撃を始めた。
この国を終わらせるつもりなのだ。
ガン、ガン♪
ガンガン!!
『『フラァァァ♪ フラァァァアア♪』』
ガンガン!!
ガン、ガン♪
それは、これまで安寧に暮らしてきた王都の民にとって、現実におこる悪夢の光景であった──────。
まさに覚めることのない悪夢。
俺の全てを奪ったものよ……。
者たちよ。思い知るがいい。
俺の愛しい召喚獣よ、
「命令する、この国を滅ぼせ──…………」
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