第22話「神など、いないッ!」



 ──蛇行運転だ!!



了解ヤボール


 操縦用のレバーをガコンガコンとせわしなく操縦すれば、Ⅱ号戦車がまるで酔っ払い運転の様に蛇行してジグザグに動く。

 その動きに捕らわれた動く死体リビングデッドどもが、ガッシャ~~~ン、バリ~ン!! とまぁ、盛大にボッロボロに潰れていく。



「はははははは! 見ろッ、骨がゴミのようだ」



 凶悪な笑みを浮かべるナセルは、死体の群れを突き抜けると神官長の前に立ち塞がって見せた。


「よう? テメェのお友達は、随分と臭いな?」

「な、なんななん! 何ですかその鉄の塊は!」


 死体の群れを難なく抜けて見せたナセルに、神官長は腰を抜かして驚いている。


「何を言ってんだよ。……お前らの贈り物だろう? これはよー」


 バリリッ! と服を割き──胸の前ををはだけて見せると、そこにはくっきりと異端者の焼き印が……。


 輪っかの中に十字紋……教会十字だ。


 ────そして、そこにあるのは、焼きつぶれた『ド&%$』の召喚術の呪印──。


「ば、ばかな! ばかな! ばかなぁぁ! あ、あれが召喚獣だというのか! バカな!」


 バカな! バカな!

 ばかばかばかばかばか、バカなぁぁぁ!!


「ド、ドドドド、ド『ドラゴン』は二度と使えないはずじゃぁぁ!?」


「そうだ────『ドラゴン』は去り、……『ドイツ軍』が来た! 俺に復讐せよとの軍隊は来た!」


 そして、次はお前だ!!!


 すぅぅぅう……、

「────戦車パンツァ前へマルシュ!!!」


 ギャラギャラギャラ!!

 履帯音を猛々しく立てると神官長に迫るナセル。


「ひぃぃ! バカな、あり得ない! 呪印は焼き潰した! 潰したんだ!!! ああああ、あり得ない! あり得ないぃぃぃぃ!」


「だったら身をもって試せや!! ──轢き殺せ!」

了解ヤボール


 ギャラギャラギャララララ!!


「ひぃ、ひぃぃい!! あ、貴方たち、わ、わわわ私を守りなさい!?」


「「「「ひょ!!!???」」」」


 表情はマスクで覆われて判別できないものの、拷問官たちが動揺している。


 そりゃそうだろう。


 Ⅱ号戦車相手に、生身の人間に何ができる??


 できるぅぅ??


 ハッ。

 出来ることなど────何もない!!


 なにもないはずだ!

 …………。


 だが、彼らは忠実だった。

 さすまたに、絡め棒、十手に投げ縄等を手に、戦車の前に立ち塞がって見せた。


「お!? ……へぇぇぇ、やろうってのか? ……お前等、あれだよな──」


 そうだ。

 ナセルとて忘れるはずがない一幕。


「──俺の家族をあっさり殺して、あまつさえ、大事な大事な、最後の肉親──リズを甚振ってくれたよなぁぁぁぁ!?」


 両親を貫いた槍……。

 そしてその槍でリズを甚振ったことも覚えているし、……忘れるものか。

 それが例え命令であり、職務であっても。



 ──許せるはずがない!!



「ハッ!! 面を晒せない拷問官どのか……いーだろう。まずはテメェらからだ!!」


 両親をあっさり殺してくれた。

 大事な人を二人とも……あっさりとな!?


 だったら、…………こういうのはどうだ!


 ガコン、砲塔に潜り込んでハッチ閉じると、ナセルは内部の砲座に取りつく、

初弾装填ナッハラーデン──」


 砲塔内には一名の乗員。

 そして、車体部分にもう一名。ナセルを含めて三名の乗員。


 砲塔内の一名は砲の装填手で、手には20発入り箱型弾倉を準備している。


装填よしオゥグストゥス!』


 彼は手慣れた様子で、Ⅱ号戦車の主砲である長大な砲身をもつ20mm機関砲の──その尻の付近にある装填孔にマガジンを叩き込むと初弾を薬室に送りこんだ。

 

「微速前進」

了解ヤボール


 車体部分の一名は操縦手で、Ⅱ号戦車を自在に操っている。

 今もナセルの指示に従い、車体を操縦している。


 ゆるゆると動く戦車はその正面を拷問官たちに見せる。


「まずは──────二人」


 旋回及び仰角クランクを回して砲を連中にむけてやる。

 覗き込んだ照準の先には4人の拷問官。


 殺され、攫われ、焼かれたナセルの大切な人たちと同じ数だ。


「あっさり死ぬってのがどういうことか……身を持って知れや!!」


 ピタリと照準が合うと──────。

 健気にもさすまた・・・・や絡め棒で戦車を威嚇している2人に指向する。


 ハッ!



「くたばれ! ボケェェェ!!!」



 

 万感の思いを込めて発射する!

 拷問官、

 拷問官、

 ごーもんかんどのよぉぉ!


 人をいたぶり、挙げ句に責め殺す仕事だぁぁ?

 …………。

 昔っから言われなかったか?

「人の痛みを知れる人になりなさい──ってなぁ!」


 だったら、まずはテメェで実感しろぉぉぉ!!!


 すぅぅぅう……、

発射ぁぁぁぁフォイアァァ!!」



 ドゥカン! ドゥドゥドゥドゥドゥドゥン!!!


 大音響!

 聴覚に異常をきたしかねない大音響!


 20mm機関砲が唸りをあげる!!!

 

 そいつぁ、

 Ⅰ号戦車のMG13等とは比べ物にならないくらいの音と──────威力!



 ブッシャァァァァ!!


 二発。

 そう、たったの二発で良かった。ケリがついた。


 照準に捉えていた拷問官二人は……こう、なんていうか。


 ボン!!!! って感じで四肢が弾け飛んで、潰れたトマトみたくブッチャァァァと……。


 そりゃもう、あっさりと死んだ。

 あっさりとな。はははは。


 あれで生きてたら逆にすごい。


「はは……すげぇ威力」


 ナセルをして、MG13よりデカいな──……くらいの感想しか抱いていなかったが……まさかこれほどの威力。


 一発目で、さすまた持ちの体が消えた。血煙だけが生きていた証。


 更には貫通した20mm砲弾は、絡め棒持ちの拷問官の腕を掠めて、その衝撃だけで引きちぎる。


「ひぎぃぃ!」


 しかし、奴が痛みを感じる前に胸に2発目が命中。上半身が消える。

 残った肉片は、どこかその辺にポーンと吹っ飛んで行った。


 あとの数発は殺しすぎたオーバキルだけ。残った肉片やら下半身が着弾の衝撃で細切れになっていった。


「いひぃぃぃぃ!!」「にゃあああああああ!!」


 残った二人の拷問官は腰を抜かしている。

 そりゃそうだ。


 生身で戦車の前に立つなんて、魔王を前にするより恐ろしい。




「次は、甚振られた──リズの分だ!!」




 生き残りの拷問官二人はあたふたと逃げようとするも、腰が抜けていてはどうしようもない。

 そのウチの一人に目を付けると、


「潰せ」

了解ヤボール


 ギャラギャラギャラ!!


「……リズの痛みと恐怖を知れぇぇぇぇぇ!」


 バキバキバキバキブチュ!


 微速前進で足から轢き潰していく。


「ギィ────ァァァ!!」


 拷問官が声にならない声をあげている。

 その奥では生き残ったもう一人の拷問官と神官長が魔王でも目の前にしたかのような絶望的で驚愕し、恐怖した目でナセルの方と潰されていく拷問官を見ていた。


 次にそうなるのが自分だと、良く理解できたようだ。


「軍曹……もっとゆっくりだ」

了解ヤボール


 脚が潰されただけではまだ死なない。

 なんとか戦車の履帯から逃れようともがいているのか、視察孔から見える範囲で拷問官が蠢いているのが見える。

 

 だが、10t近い戦車だ。

 人の力でどうにかなるものではない。


 ゆっくり、ゆっくりと微速で動く戦車。

 履帯がヌルヌルと動き、少しずつ拷問官を押しつぶしていく。


 ブッチ……ブチ……。


「────ッッッ!!!!」


 ……ギィィィァァァァ!


 ブチブチブチチチチ……プッチン。


停止ハルトッ!」


 ナセルの号令に従い、Ⅱ号戦車が停止。

 履帯の下からはジワジワと血が滴るのみで、そこに拷問官がいた痕跡は……ほぼない。


「ゴキブリを踏み潰すのと大して変わらねぇな」

 ──音までそっくりだぜ。


「ななななんたることをぉぉぉ!!」


 神官長も腰を抜かしつつも、あまりにも残酷に殺された拷問官を見て、ナセルを詰る。


「そ、そそそそそそ……それでも人間ですか!?」

「あ゛!?」


 おい、

 おいおいおいおいおい、


 おぉぉぉいい!!


「誰に口聞いてんだ、このくそボケが」


 人間だぁぁ? 脳みそ詰まってんのかこのボケ。


「オマエらが決めつけてくれたんだろうが!! 俺は異端者だってな!!」


 人間ですらない。魔族の協力者────そして、人類の敵たる異端者だと。

 その俺に向かって、今さら人間だぁぁぁ?! 


 ハッ! 笑わせるぜ!!


「で~。次はどっちだ!? あ゛あ゛ん!?」


 最後の拷問官どのか?

 それとも部下より先に潔く逝くか? 神官長どの。


 ズルズルと瓦礫の中を逃げ惑う神官長。

 動く死体リビングデッドの援護などとっくにない。


 あとは無様に逃げ惑う神官長と生き残った最後の拷問官がいるのみ。


 彼らは本能か信仰心か、あるいは何か考えがあったのか────屋根が崩れてむき出しになった聖女の像に向かって逃げ出した。


「ぐ、ぐぐぐぐ、軍隊を召喚するなんて聞いたこともない! なんだそれは!!」


 なんとか、神像の前まで辿り着くとガクガク震えて神に祈る。

 一人残った拷問官はすでに戦意喪失しているのか、素手になり神官長とともに祈るのみ。


「おお! 天に増します我らが父よ──どうか、私をお助け下さい!」


 もはや祈るしか神官長には手がなかった。

 だが、まったく無策だったわけでもない。


 ギュラギュラギュラギュラギュラ……。


 はははははは。

「……祈って助けが来るなら世話はない。俺も祈った──願った。縋りついた──」


 あの日々を思い出す。

 普通の日常から転落したあの日々を────。


 そして、二度と戻らないあの日々も──。


 だからさ、

 知ってるんだよ──────。





 神など…………いない!!!!!!





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