最終章⑤(自分が誰かに微笑みかければ、きっと相手も微笑んでくれる)

 乗ることわずか五分くらい。下手くそなポンピングブレーキで止まった車から、奴らがどやどやと降りていく。もちろんわたくしも降りるようにと促された。目隠しのせいで足元がおぼつかないというのに、肩甲骨の辺りを後ろから小突かれる。


「しっかりしろよ、加賀谷かがや

 山崎やまざきだか小椋おぐらだかよくわからないが、ふざけた声をもらって階段らしきものを下りる。靴底一枚を隔てた感覚で探ったところ、今下りているのは石段だとわかった。


 突然段差がなくなり、思わず転んでしまいそうになった。平地に入るとなにかがわたくしのくるぶしをくすぐったのだけど、こそばゆいというよりは気持ち悪いと表現する方が近い。これはおそらく、草だろう。


 草の生えている場所を注意深く歩いていく。少し離れたところからドドドド――、という音が聞こえてきた。生き生きとしてみずみずしく、同時に腐ったような匂いがする。水の匂いだ。それも、人工の水ではない。


「さあどうぞ、お嬢様」

 白木しらきが肩を抱いてくる。世界最低のエスコートだ。どこかの建物へと入ったようで、わたくしは目隠しを外されたが、目の前の光景は依然として真っ暗なままだった。


 パチン。誰かがスイッチを入れると、二ヶ所に設置された白熱球が光を宿し、建物の全貌が明らかになった。横並びの部屋が二つ。どちらも四畳半くらいの狭い部屋で、壁はベニヤ板を重ねてつくられている。家具もなにも置かれていないのだけど、六人が入っているためか幾分かの圧迫感を覚えた。奥の部屋にはパイプ式のベッドがあり、その上にまだ気を失っているらしいハヘ子さんが横たわっている。

 白木は両手を胸の前で、恭しく開けた。

「どうだい、これが僕たちの『秘密基地』だよ」


 率直な感想を言わせてもらえば居心地は最悪だ。窓がないのですごく不安な気持ちになってくるし、白熱球のクロームオレンジ色はなにかの儀式でも行いそうな異常さを醸し出している。光に映る彼らの口元はどれもがにやけていて、わたくしは寒気がした。


「加賀谷さんと戸田さんはなかなか面白いことをしてくれたみたいだしねえ……うん、僕はきみたちにお礼をしないといけないかな」

「お礼って……どういうことですか。あなたはこれ以上、なにをするつもりなのです?」

「あんなちゃちい写真じゃ、物足りなくなっちゃったってことさ」

 白木は奥の部屋へと歩いて行きパイプベッドの端に座ると、ハヘ子さんの顔をじいっと見つめた。そして、それほどの力を込めずにハヘ子さんの頬を叩く。

「ううん……」

 ハヘ子さんの目が、薄っすらと開いた。


「おはよう、お姫様」

「う……いたた……あ、あれ、白木くん? あの、どうして……」

 自分が寝転がっていることに気づいたらしいハヘ子さんは、両手をパッと顔に当てて恥ずかしさを隠そうとする。しかし白木はハヘ子さんの片手を掴み、無理やり脇の辺りまで下ろした。

「ふふ。二度寝はだめだよ」

「はへぇ……白木くん、恥ずかしいよ。ここ、どこなの?」

「わからない?」

「うん……」

「それなら、ここでなにが起こっても戸田とださんにとっては夢みたいなものさ。おかしな夢を見ていると思って、じっとしていてくれたらいい」


 いや、違う。今わたくしとハヘ子さんがいる場所は、けして夢の世界などではない。


 わたくしには全てわかっていた。


 ここがどこかということ。

 そして、この建物がどういうものなのかということ。


 かつてハヘ子さんに白木に告白してもらうという作戦を立てた時、わたくしは学校の屋上から三編みあみ市の景色を一望したが、その景色の中で三編市に流れている川は一本だけだった。それにさっき白木は車を使ったが、移動した時間はせいぜい五分くらいだし、隣の市まで出るには短すぎる。


 つまり――、


 白木の言う「秘密基地」とは、河川敷に建てられた木造の小屋のことだろう。

 わたくしは以前にこの小屋の近くを歩いている。ハヘ子さんと祖父江そぶえと駄菓子屋に行った日の帰り道、ハヘ子さんが「あの家、秘密基地にしない?」と言って指差していた、あの小屋だ。

 今、自分が監禁されている場所はわかる。だったら誰かに助けを求めることもできる。しかし連絡する手段がない。下手に騒げば奴らに暴力で黙らされるだけだろうし、ましてや逃げたりしようものならなにをされるかわからない。

 身体がムズムズする。助けを呼ぶための情報は手に入っているのに、それを形にできないというむず痒さだ。この河川敷沿いの道は祖父江の散歩コースなので、仮に祖父江に連絡をつけることができれば彼は五分もかからずに駆けつけてくれるだろう。でも……。



「いやだぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」



 ハヘ子さんの悲鳴が響いた。泣き声にも近い。はっとしてパイプベッドの方に目をやると、白木がハヘ子さんのワンピースを脚の部分からめくり上げようとしているところだった。露わになったハヘ子さんのふとももは、じんわりと汗をかいている。


「やめてっ! やめてよぅ!」

 ハヘ子さんは必死に抵抗する。起き上がろうとする。白木はそんなハヘ子さんの肩を押さえつけ、一方ハヘ子さんはなんとかして自分のももを隠そうとしている。

「白木っ! なにをしているの!? あなた! やめなさい!」

 叫ぶとたちまちに小椋と山崎に後ろから組みつかれ、わたくしは身体の自由を失った。

 白木はハヘ子さんに馬乗りになり、上半身側から脱がそうと試みる。


「よく見たら、戸田さんはやっぱりかわいいね」

「やだやだやだやだ! 白木くん、そんなことしないで!」

「そうもいかない。戸田さんの恥ずかしい写真も撮らないと」

「なるほど、さすが白木さんっス!」

 馬鹿が馬鹿みたいな声を出して喜んでいる。

「写真だけじゃ戸田さんも満足できないよね。せっかくだからこのきれいな身体は僕がもらってあげるよ。もしかして、戸田さんは初めてなのかな?」

「なんで! なんでこんなことするの……離してよ、白木くん」

 白木はハヘ子さんの胸元をぐいっとねじり、枕元に置かれてあるハヘ子さんのバッグを床に投げ捨てた。そのショックでなにかがブチッと音を立ててちぎれた。カンガルーのストラップだ。床の上で横向きに寝転ぶカンガルーは、目をつやつやと輝かせていた。

「うるさいっっ! 初めてかどうかを訊いてるんだ! 答えろ、戸田さん」

「こんなの、したことないよ。だから、やめてよ……」

「それはよかった」

 一瞬、閻魔えんまみたいな形相になった白木だったが、すぐに歯を光らせて笑った。

「初めてっていうのはいいよね。大丈夫、怖がることはない」

「うああん。うう、うあああん……」

 ハヘ子さんは白木の身体をもぎ離そうとするのをやめた。もちろん白木を受け入れたわけではなく、恐怖や悲しみのために、自分の気持ちに蓋をしてしまったのだろう。


 このままでは彼女は犯される。誰よりも純真で純粋なハヘ子さんが。こんな男の手で。

 そんなの、許されるわけがない。だからわたくしだけは、けして諦めてはならない。


 千乃ちの、そうだ千乃は? ……ぶつぶつなにかを呟きながら棒立ちになっている。


 千乃、お願いだから酔いを覚まして下さい。あなた、白木のことが好きなのでしょう? 好きな男が目の前であなたとは違う女を襲っているのに、このままでいいのですか?


 しかし千乃は動かない。なのでわたくしは千乃の復活を諦めて、声を張った。

「白木っ! このわたくしが保険をかけていないとでもお思いですか!?」


 白木の手がゆっくりと止まり、

「……保険? どういう意味だい?」

 わたくしの方を見てきた。


「わたくしがあなたを完全に信用したと思って? 裏山をめちゃくちゃにしたあなたのことなんか、信用するはずがないでしょう」

「ふふ。ちょっと誉めればホイホイついてきたくせに」

「くっ……」

 あまりにも恥ずかしい記憶が、脳の中心を這いずり回る。が……、

「い、いいですか、わたくしは祖父江に一時間置きに連絡をしなければなりません。この連絡が途絶えれば、祖父江は警察に通報するという手筈になっているのです」

「……ふうん」


 ――はったりだ。


 ぶっちゃけると、わたくしの今の発言は完全なはったりだった。

 祖父江とはそんな約束を交わしていないし、だいいち祖父江はわたくしが白木の家に行くということ自体を知らない。それに一時間置きの連絡なんて現実的にはできるわけがない。もし本当に白木の両親を交えてのランチが開かれたとしたら、食事中に何度も電話をかけなければならないからだ。ちょっと考えればすぐに暴かれる、脆いはったりだった。


 だけど、この嘘は予想以上に彼らの危機感をくすぶったようだ。


「し、白木さん。まずくないスか?」

 わたくしに抱きついている山崎の手が、わずかに緩む。

 白木は山崎の発言を無視し、以下、小椋と山崎が意見の擦り合わせを行う。

「馬鹿か、山崎。だからって加賀谷に電話をかけさせんのかよ」

「でも警察だぜ、警察? いくらなんでもやばいって」


 そうだ。飲酒に暴行、監禁に強姦未遂……こいつらは短時間の間にとんでもないことをやった。もしも警察に捕まってしまったらどうなるか、ちょっと考えればわかるだろう。退学、少年院、勘当……奴らの頭の中では、そんなイメージがわき上がっているはずだ。


「仕方ない、加賀谷さんに電話をかけさせよう」

 白木は脇役の二人よりも頭の回りが速いようだが、そんな白木といえどもリスクを無視できなかったらしい。白木は熟考を重ねて、結論を出した。


「でも、もし加賀谷が助けを呼んだらどうするんスか?」

「そんなそぶりを見せたらすぐに電話から引きはがせばいい。要はここがどこかということさえ伝えられなければ、それでいいんだ」

「なるほどっスね」

「さ、加賀谷さん、電話をかけるんだ。でないと、戸田さんにさっきの続きをするよ」


 ……だめか。このニセの『保険』を交渉材料にしてハヘ子さんを解放させようと思っていたが、白木はそこまで甘くなかったらしい。ある意味、どこか腹をくくっている。ならばとりあえずは祖父江に電話をしないといけない。問題は、その電話でうまく助けを呼べるかどうかだ。


 わたくしはバッグから携帯電話を出した。電話帳を開ける。祖父江そぶえとおる――最後の希望の名前に宛てて通話アイコンをタッチする。耳元でコールが鳴っている間、わたくしは集中に集中し、(なにを話すべきか)ということだけを考えていた。


「もしもし」

 コールが祖父江の声に変わるなり、場に緊張が走る。山崎と小椋はいつでもわたくしに飛びかかれる体勢になっているし、白木はハヘ子さんの喉を握っている。


「あ、加賀谷かがや璃子りこですが……」

「いや、ディズプレイに名前出てたからわかるよ。どうかしたのか?」

「定時連絡の電話です」

「定時?」

 わたくしの首筋に鳥肌が立つ。

「ええ。きちんと連絡しましたからね。わたくしは元気です」

「ちょっと待て、カガリコ。意味がわからん。だいたいお前はいつも……」

「そうそう、わたくしも俳句を詠んでみたのですよ」

「俳句? カガリコが?」

「はい。この前祖父江がおっしゃっていたように、頭の体操としてですわ」

「……ほう。じゃあ、詠んでみな」


「いきますわよ――、


 田んぼ背に 涼風の中 喧嘩して


 テスト前 ハンモックで読む 変な語呂


 恋ってさ 突然なのね 髪洗う


 矮小さ ぞろぞろ責める いかづちよ


 伸びをして 香水二滴 柔らかく


 ――いかがですか?」


「……そうか。俺とハヘ子とカガリコのこと、うまく詠めてるじゃねーか」

「用件は以上です。それでは、失礼いたしますわね」

「ああ……」

 電話を切った。わたくしはやれるだけのことをやった。後は天に祈るのみだ。


「生徒会長さんよ、えらく余計なことまで話してくれたな」

「まあまあ、急に切られるというのもおかしいからね。いい連絡だったと思うよ」

 小椋は凄んでいるが、どうやら白木には気づかれなかったようだ。ただしハヘ子さんの操は今も白木の手の内にあるのだから、けして安心はできない。


「さ、続きといこうか」

 再び、白木の手がハヘ子さんの胸元へと伸びた。

「白木くん……うええん、ひぐっひぐっ……恥ずかしいよう……」

「ほんとにかわいい。きみはいったいどうやって生まれてきたんだろうね」

「うう、やだ……」

 びりびりっ! 白木はハヘ子さんのワンピースを下着ごと引きちぎった。

 ハヘ子さんの上半身が生まれたままの状態で艶やかに光っている。蛍光灯一つの暗い室内の中であっても、その肌の色が純白であることは容易く見てとれた。


「きゃあっ!」

 がぶっ! ハヘ子さんが白木の手を噛む。

「いたっ! こ、こいつ! つまらないことをするなッ!!」

 白木はハヘ子さんの頬をしたたかに打った。打たれた部位がほのかな紅葉色に染まり、ハヘ子さんの目はぶるぶると震えた。


 だめか、祖父江は間に合わないかもしれない。


 わたくしは意を決し、無駄とは知りつつも大声を上げようとしたその時――、


「や、やめろおおおぉぉおおおぉおおおおぉぉおっっ!!」


 わたくしの代わりに叫んだのは、千乃だった。


「千乃っ! 正気に戻ったの!?」

「なぜだ白木くん! 私に好きと言ってくれたのは、嘘だったのか?」

 白木が千乃に……そんなの、初耳だ。


「きみはお嬢様のせいで進むべき道を曲げられたと言っただろう? だから今、こうやってきみと一緒に復讐をしているんじゃないか」

「そんな! そこまでは言ってない!」

「いいや、僕は聞いた。それにきみは、僕の家で加賀谷さんに思いのたけをぶつけていたよ。あれれ、覚えていないのかい?」

「それは……」

「計画を立てたじゃないか。そのとおりに実行しているじゃないか。なにが不満なんだ」

「す、少なくとも戸田さんは関係ないだろう」

「たしかに戸田さんは不運だったかもね。でも、不運、それが全てなんだ」

「……馬鹿な。白木くん! それはやりすぎだ!」

「話にならないな。おいっ、押さえてしまえ!」


 小椋が千乃の背後に回った。千乃は素早く身をひるがえし、戦闘態勢に入る。


 しかしふらついた。千乃の足はもつれて動かなくなった。顔をしかめて頭に手を当てているのはきっと、アルコールの毒素がまだ抜けきっていないからだ。


「大人しくしろよな!」

 千乃は片目を歪めさせたまま、小椋に羽交い絞めにされる。悲しいかな、千乃はあの圧倒的な強さを微塵みじんも発揮できないまま、下郎げろうの手なんかに落ちてしまった。


「く、う、」

 千乃は下唇を噛みながら、悔しそうにうめく。

「も、もしかして白木くんはお嬢様への復讐をしたいがために、私に好きと言ったのか? あれは偽りの言葉か? 私は、白木くんの駒に過ぎなかったのか……?」

「やっぱり千乃さんは聡明だね。きみなら、もっといい高校にいけたかもしれないな」

「そんな、私はあの日からずっと、毎晩夢を見ていたんだ。白木くんと一緒の大学に通う夢。近くに住んで、夜になったらお互いの部屋を行き来する夢。それから、二人で人生の計画を立てたりして、それなのに……」

「人生? そんな先のこと、知らないよ」

「……そうか。それが、答えか」

 千乃の首ががくっと前に折れる。ぽとぽとと音を立てて床に雫の染みができた。「うっ、うっ……」という嗚咽も聞こえてきた。そうか、千乃は白木に騙されていたんだ。

 もちろんわたくしに対する恨みもあっただろう。それは事実だ。千乃を苦しめてしまったという、間違いのない事実だ。しかしその感情を白木が利用してよいという理はない。



 ――くそったれが。



「白木っ! お前は、なにを勘違いしているの!」

 白木は瞳孔を開き、わたくしに目を滑らせる。

「おっ、加賀谷さんもそんな言葉遣いするんだ。で、勘違いっていうのは、なにかな?」

「ハヘ子さんよりわたくしの方が美人なのよ! わたくしが、そんな女に美貌で劣るなどありえないでしょう!」

「加賀谷さん、きみ、なにを……」

「それにわたくしは千乃よりもスタイルがいいの! 見てご覧なさい、この胸を!」

「……はあ。立派なものじゃないか」

「やるなら……身体を傷つけるなら、まずはわたくしからにしなさい!! その二人ではお前を満足させることなどできないっ!!」

 ハヘ子さんがこっちを見た。千乃の頭も水の抜けたししおどしのように、上がる。

「だめだよリコピン! そんなの、絶対にだめええええええっ!!」

「白木くん、私が先だ。辱めるなら私にしろ!」

 うわははははははははっ! 白木は自分の腹を押さえ、大口を開けて笑った。

「きみたちのわけのわからない友達ごっこは最高だよ! もちろん順番にいただくことにしよう。でも、まずは戸田さんからだね」

 白木はハヘ子さんのワンピースの破れた部分に手をかけると、びりびりびりと下半身までを一直線に引き裂いた。ワンピースは真っ二つに分かれ、ハヘ子さんの胸と腹の前でピラピラと舞う。

「白木――――ッッ!!」

「白木くん!」

 わたくしたちが叫べば叫ぶほど、白木は興奮していくようだ。さっきまで茶化していた部員たちの空気がずしりと重くなり、白木一人が頭一つ抜けて狂気の渦に陥落していく。


 すると――、



「ハヘえぇぇぇぇぇぇっっ――――!!」

 ぐるりんぱ。ハヘ子さんの顔がめちゃくちゃになった。

 白木は涼しい目でハヘ子さんの顔を舐め見る。



「わしはオレンジマン軍曹であるぞ! 我が隊は203高地を死守するッッ!」

 ハヘ子さんはおじさんみたいな声色で、しかも滑舌かつぜつよく言った。

 白木はいたって冷静に、ハヘ子さんのおへその上を指でなぞる。



「こんなところに、ほんとにおいしいラーメン屋さんがあるのでしょうか!? 行ってみないとわかんないからね、行ってみましょう!」

 続いて、

「ご主人、これぇ、おいしいね! なにか隠し味があるの?」

 白木は左手でハヘ子さんの両腕をまとめて掴み、彼女の頭の上まで挙げた。



「金さん? はて、金さんとはいったい何者でしょうか? その金さんとやらをここ白洲に連れてきていただきましょう! そうだー、金さんを出せコノヤロー」

 白木の手はショーツの入口に狙いを定め、間もなく侵入しようとしている。



 ……ハヘ子さんは。ハヘ子さんは、最後まで笑わせようとしていた。そうすればなにもかもが解決すると思っていたに違いない。それは彼女なりの、悲しい経験則だった。


 そしてハヘ子さんは、ずっと笑っていた。どうして笑っていたのかはわからない。


 でも。


 自分が誰かに微笑みかければ、きっと相手も微笑んでくれると。

 そう思っていたのかもしれない。


 しかしハヘ子さんは、男の力に負けてしまったのだ。

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