第二章⑥(おそろいだ! おそろいおそろい!)

 土曜日。久しぶりに晴れ間が広がり、天を突く岩雲がトリプルアイスクリームのように重なっている。昼過ぎから出かけて、ハヘ子さんと買い物をした。ハヘ子さんの着ているワンピースの腰から下の部分にはひらひらのフリルがついていて、胸元には青いリボン。さらにはかわいらしい麦わら帽子もかぶっていた。


「やっとこやっとこ、くりだしたー♪」


 ハヘ子さんは手をぶんぶんと振りながら歩く。

 わたくしはオフショルダーTシャツにポースリンブルー色のノースリーブチュニックを合わせてみた。黒地のTシャツは、腕の部分に赤のラインが二本入っただけのきわめてシンプルなものだ。今日の天気からして、ちょっと暑かったかなとも思う。


「ハヘ子さん、歩くのが早いですわよ!」

「リコピーン、このお店に入っていーい?」

 ……くっ。聞いちゃいない。


 ハヘ子さんが入ったのは、雑貨屋だった。実はわたくしもこういう店が大好きだ。わたくしは物持ちがいいのであまり買い物をしないのだけど、レターセットやシールを見て歩くだけでも嬉しくなってしまう。かわいい犬さんのシールを見つけたので、心の中で(ごきげんいかが?)と呟こうとして「ご……」と言いかけた。危ない危ない、ひとりごとを言うところでしたわ。


「あっ、これっ!」

 ハヘ子さんはカンガルーのぬいぐるみを手に取った。卵くらいの大きさだから、バッグにつけたりするものだろう。というか、ハヘ子さんの通学鞄にはすでにカンガルーがつけられていませんでしたっけ? この子はカンガルーが好きなのね。趣味が合うではありませんか。


 ハヘ子さんはぬいぐるみを一つ持って、レジに向かった。

 ふふ、好きなものを見つけられてよかったですわね。


 ……と思っていたら、


「はい、これ、リコピンにあげる!」


「え? それはハヘ子さんが欲しくて買ったのではないのですか?」

「ううん……そりゃ、かんがるまるは何人いても嬉しいけど、でも、わたしはもうもってるから。だからリコピンにあげるんだ!」

「そんな。いいのですか?」

「もちろんだよぅ。ご飯をごちそうになるんだから、そのお礼だよ。ね、受けとって?」

「ありがとう、ございます……」

「えへへ」

 つやりと光ったカンガルーの目は、心なしか笑っているようにも見える。

「この子、わたくしのバッグにつけさせていただきますわね」

「ほんと? じゃあわたしとリコピン、おそろいだ! おそろいおそろい!」

 うふふ。あまりに口元の曲線が強くなってしまったものだから、慌てて手で隠した。


 おそろい、か。おそろいね……。うん、悪くはありません。


 ハヘ子さんは歩行者優先を示す白線の上だけを歩いた。白線から外れたら谷底に真っ逆さまだそうだ。街は賑わっている。こんなにもたくさんの人が歩いていて、あちこちで黒山ができている。わたくしの服や肌が、知らない誰かにぶつかった。でもハヘ子さんほど輝いている人は、どこにもいない。

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