第一章⑮(つまり、ラブレターです)

 翌日の昼休み。四人で校舎の屋上に集まった。


 予行練習でもないけれど、まずは場所の状況をきっちりと把握しておかなくてはならない。屋上に出る扉には鍵がかけられているが、その鍵は生徒会で保管している。つまり他の生徒たちが屋上に上がってくる危険性はほぼ皆無といっていい。


「お嬢様、告白するのは戸田とださんですよね。だったら、どうして戸田さんが屋上の扉の鍵を持っているのか、白木しらきは不思議に思うのではないでしょうか?」

「屋上で告白したいので生徒会に借りた、ということにすればよいではありませんか」

「ほう、なるほど。さすがはお嬢様ですね!」

 千乃ちのが手をわきわきとさせて今にもわたくしの身体を襲わんとしている。お願いだからこの場ではやめて下さいね。……いえ、この場以外でもノーサンキューですが。


 屋上の扉があるところは床の部分から盛り上がっていて、ちょうど一階分の高さの立方体になっている。その立方体には備えつけのハシゴを使って上ることができる。告白を決行する時には、ハヘ子さん以外の三人はここに上って戦況を見守ることに決めた。


 また、屋上には設備と呼べるものはいっさいなくて、ただのだだっ広い空間があるだけだ。屋上の端から端まで、それこそ排水溝の奥までのぞきこんでみたが、想定される問題は特に見当たらなかった。


 胸の高さに並ぶフェンスの向こうには、三編みあみ市の景色が広がっている。三編市は基本的に住宅の多い街なので高い建物はない。かすかに見える隣の街には商業ビルが建っているが、三編市は数棟で固まった高層マンション群を除いてはせいぜい四階建てが関の山だ。

 だけど平坦な街並みも悪くはない。ところどころに公園があるのもなんだか平和な感じがする。一番広い公園の向こう側には川が流れていて、川に架かった陸橋の上を普通列車がのんびりと渡っていった。空には淡雲が浮かんでいる。空の色が透けて見えるのは、まるでレースのカーテン越しの景色みたいだ。もうすぐ、夏がやってくる。


「じゃあ、昼休みの作戦会議は解散でいいかな」

 祖父江そぶえが、やきそばパンをかじりながら言った。

「待って下さい。大事なことを忘れていますよ」

 わたくしはベージュ色のトートバッグから便箋と封筒を出した。スマイソン社のレターセットで、白地のシンプルなものだ。そして、万年筆をしっかりと右手に握る。

「白木には放課後に屋上に来ていただかないといけないわけですから、手紙を書かねばなりません。つまり、ラブレターです」

「そっか。で、カガリコは字に自信はあるのか? あまり上手そうじゃねーけどよ」

「笑止。人並みの字くらい、書けますわ」


 ハヘ子さんと千乃にはゆっくりと昼食をとってもらい、わたくしはその間に手紙をしたためた。祖父江はやきそばパンを食べ終え、フルーツ味のブリックを飲み、次にコロッケバーガーの袋を開けながらわたくしが手紙を書いている様子をじいっと見つめていた。



『拝啓 白木様


 桐の花が美しく咲く季節になりましたがいかがお過ごしでしょうか。

 突然のお手紙で驚かれているとは存じますが、あなたにお伝えしたいことがあります。

 本日、部活動終了後、校舎の屋上に来ていただけますか。

 鍵は開けておりますのでご心配なさらないで下さい。

 あなたへの想いをお伝えできることを心より楽しみにしております。

 それではまた、放課後にお会いしましょう。

                                 敬具』



 ふむ。パーフェクトの出来とまではいえないがこんなものでどうでしょうか。あまり詳しく書きすぎると、ひょっとしてハヘ子さんはボロを出してしまうかもしれません。ですから後は、ハヘ子さん次第ということにしておくのが適切というものでしょう。


「おお! おおおおおっ!」

 祖父江が感嘆していますが、なんなのでしょうか、いったい。

「カガリコ、お前めちゃくちゃ字がうめーじゃねえか! どっかで練習したのか?」

「ふふふ。祖父江にしてはいいところに目をつけましたわね、誉めて差し上げます。いいですか? お嬢様というものは字が下手であってはならないのですよ」

「ほおー、へえー、そんなもんか」

「ほんとだ! リコピンの字、すっごく上手!!」

「ふん、当然だ。お嬢様だぞ」

 いつの間にか昼食を終えたハヘ子さんと千乃も手紙をのぞきこんでいる。こうして誉められるのはとても嬉しい。なんだか唇がもぞもぞとしてしまう。あまりに嬉しいものだから、字を書くコツを皆に教えてあげた。

「字は正方形の中に書かないといけないと思っていませんか? もしそうでしたら、まずはその考えを捨てて下さい。字は四角形でなく三角形で書くのです。上下に分断している字は三角形を二つつくるというイメージで書くとよいでしょう」


 みんな、すっかり感心してくれたみたい。――やったね。

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