第一章⑥(わたくしのお屋敷)

 ――さて、ここでわたくしのお屋敷についてご説明させていただきます。


 加賀谷かがや家は外から見るとなんのことはない二階建ての家です。ところが一階の玄関を入ったところに夢野ゆめのさんの受付スペースがあります。初めていらっしゃった方はきっと驚かれることでしょう。そして一階には、エレベーターが三基設置されています。


 うち二基は一階から各地下階への直通用で、地下一階から十階までが加賀谷家の単独使用階になっています。十一階から三十階が住みこみで働かれている方の居住階です。なおこのエレベーターに加賀谷家の人間(お父様、お母様、お兄様、わたくし)が一人でも乗った時は、管制室からの指示で他の階には止まりません。


 もう一基は一階と二階を繋ぐものです。加賀谷家の二階は洗濯物を乾かす場所であり、ごみの一時的な保管場でもあります。基本的に洗濯物は各階の乾燥機にかけるのですが、どうしても日干しを必要とする際には二階を使います。ごみはごみを出す前日に各階から二階に移動させ、当日に一階に下ろします。ただ、ゴミには臭いがありますから、一階・二階ともにごみが通る道は厚いコンクリートで区切られています。


 地上階と違い、地下に入ると敷地面積が一気に五倍に広がります。地下一階から十階までが加賀谷家の単独使用階と申し上げましたが、全てが居住のためのフロアではありません。お父様は弁理士という職業で(なんのお仕事なのかは恥ずかしながら存じ上げませんが)、世界中の特許を護っているとか聞きます。地下一階から三階まではお父様のお仕事の関係に使われています。ちなみに千乃ちののお父様はわたくしのお父様のお仕事のサポートもされているようで、頻繁にこれらの階で降りられています。


 地下四階から七階までがそれぞれ、お父様、お母様、お兄様、わたくしのお部屋。各階にバスルームが設けられています。部屋のつくりは皆様の趣味に合わせて異なります。わたくしであれば、勉強部屋とぬいぐるみ(くまさんが多いのですが)のお部屋、など。


 地下八階は食事をとるリビング。九階と十階は物置に使っています。


 地下十一階から三十階のフロアは真ん中で二つに分かれており、各階に二世帯が住まわれています。加賀谷家で働かれている方はちょうど百人いらっしゃいますが、うち四十人が住みこみ、六十人が屋敷の外から通うという形で働かれています。屋敷は地下にありますので、執務中に外に出て日光を浴びることはいつでも許可されています。一日のうちにお仕事をして下さればそれでよく、一日中地下に留まっている必要はありません。


 ……え? 百人は多すぎですって?


 それがそうでもないのです。食事係六名、廃棄物係八名、室内清掃係十六名、お父様のお仕事関係の資料整理係四名、物置管理係一名、バスルーム係四名(バスルームの清掃も行って下さいます)、受付係一名(夢野さん。靴の管理も行って下さいます)、洗濯物係六名、外部連絡係十二名(買い物等、外のお仕事も行って下さいます)、機械・衣類保守係六名、通信係四名、管制室係二名、生活維持係十名(役所や税務署と一緒に仕事をされているらしいです。難しい……)、空調係二名、そしてお父様のお仕事のスタッフ十八名(千乃のお父様も含まれます。千乃のお父様は、他十七名を束ねるリーダーだとか。すごい!)。


 ね? 多くの方が色んな形で加賀谷家を助けて下さっているのです。


 ここまでして地下階を設けているのには理由があります。「加賀谷家が他の家から特別視されることのないように」――これがお父様の信条なのです。ですから加賀谷家を建てる際には三年という月日が必要でした。地上全面にシートをかぶせて工事を行いましたが、近くにお住まいの方は「なかなか工事が終わらない家ね」と不思議に思われたそうです。お父様の信条を外部に漏らす方もいらっしゃいませんので、今のところお父様の信条は守られているといえるでしょう。


 加賀谷家は他の家に対してだけでなく、屋敷で働かれている方々とも普通に接するようにしています。ですから内線で連絡をとり合ったり、皆様が加賀谷家のフロアに遊びにいらっしゃることは自由なのです。千乃も時々わたくしの部屋に遊びにきます。千乃だけでなく、食事係の方がお菓子を持って遊びにきて下さったり、外部連絡係の方が街で見つけた面白いお話をしにきて下さるのもとても嬉しいことですわ。


 わたくしは、皆様にとても仲良くしていただいています。

 ふふ、感謝してもしきれません。


 ……はい、ここまでが加賀谷家のご説明でした。ご清聴下さりまことにありがとうございました。では、夕食前のバスタイムに入るとしましょうか。

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