10. 決意の先に (3)
黎明の旅団の3人がフェアリスに案内され、ブリッジを出ていくと、残されたケイトとナノはお互いに顔を見合わせた。
ケイトが見るに、ナノは拒否感が強いのか、うまく話すこともできないようだ。
無事だったことを喜んで、すぐにでも頭を撫でくりまわしたいところなのだが、それもさせてもらえないらしく、手がうまく動かない。
(ツバキから説明は受けてたけど、難儀ね)
やれやれとケイトは心の中でため息をつくと、無理矢理手を動かして、ナノの肩に手を置いた。
「肩書きが大事なのではない。心だ、ナノ」
尊大な口調ではあるが、意図することに気づいてナノの表情がぴくりと動き、ケイトの思念へ直接語りかけてきた。
<お母さん!>
<気づいてくれたみたいね。大丈夫、私もイツ君も、ハルも無事だよ。そして、今から大事なことを話すからよく聞いて>
ナノの表情は変わらない。だが、同意の様子を感じとってケイトは続ける。
<私たちは世界の敵とみなされて、対抗するために国を立ち上げたの。家族で皇族って名乗ってね>
軽い口調とは裏腹の重い内容だ。
皇族と名乗ったことは予想と外れてしまったが、世界の敵になる可能性があることは、ケイオス駆逐という目標を家族で掲げたときにすでに話している。孤立しても進む、ということもその時に決めていた。
だから、ナノに説明するのはこれからの振る舞い方だ。
<今、ちょっと……そうだね、魔法にでもかかってるというのかな。少しでもはったりを、皇族という立場を世界の人に知らしめるために無理に演技しなきゃいけない。だから、今不自由になってる。そこまではわかる?>
<うん>
<よし。で、今からもう一つ駄目押しで信じさせるために私たちは動かないといけない。そのためにまだ演技を続けないといけないの。だから、ナノも協力して。お姫様になったつもりでいれば話はできるはず>
「お……お母さま」
さっそく試しにナノが話す。予想以上にケイトの心の中がぞわりと波立つ。まあ、堪えないといけない。
<おっけ。じゃあ、最後にもう一つ、何があっても、見た目が変わってもイツ君はお父さんで、私はお母さん、ハルカはおにいで、私たちは家族。そこは変わらないからね>
「はい!」
元気よくナノは返事を返した。
そういえば、とケイトはハルカへ思いを馳せる。
おそらく今頃混乱していることだろう。が、なんだかんだでイツキと自分の息子だ。
側にはノイン、ウコンとサコンもついている。状況が促せば適応できるだろう。そう信じてケイトは役割を果たすべく、指揮官の席へと着いた。
◇
会議場でイツキが演説し宣戦布告をした。その堂々たる声明は、エイジスに所属するフェアリス達に響き渡る。好戦派に回らなかった彼らにとって、まさしく導きであり、一筋の光明となった。
その宣言は、ケートス周辺のフェアリスだけではなく、放送を介してキナイ島で戦闘するプローム乗り達にも届いていた。
「今の声、イツキさん?」
「マジかよ、国の設立を宣言したのか?」
カナタとケンジが以前会った時のイツキの様子を思い出し、戸惑う。
「シュウ、これって……」
「サキ、まだ警戒をとくな」
判断を求めるサキに対し、鋭くシュウが警戒の維持を呼びかける。
宣戦布告によって、事態が変わったことは確かだ。
だが、戦闘を中止する理由にはならない。むしろ抗戦を呼びかける内容であるなら、攻撃してくる可能性は高い。
「おじ様……」
昨晩、会話した時の穏やかな印象からは想像もつかない、威厳を持って世界を脅す言葉に、ユイが戸惑いの表情を浮かべる。
(立つしかなかった背景はわかる、でもこれでは……)
国という立場をとり戦闘を唆した以上、自ら周囲を敵にまわしたも同然だ。
「おお、おお、遂に立ち上がられたのか、イツキ殿! いや我が皇よ!」
他勢力のプローム乗りが困惑する中、会議の放送を受け、ウコンがプロームを震わせ、感動を表す。
そんな赤い機体の側で。
「何で……」
B3内部でハルカは呆然としていた。
この場にいる面々の中で、一番イツキの宣言を受けて戸惑っているとも言える。
イツキは、自分の父はこんな戦う動機を与えるようなことを叫ぶような人物ではない。
家族であり、よく知っているからでこそその変貌に、訳が分からず混乱していた。
「若、いや、ワタセ・ハルカ皇子殿下」
サコンに恭しく呼ばれ、ハルカの身体が硬直した。
(な!?)
「これから我らが脅威を駆逐いたしまする。危険が及ぶので、お下がりくださいませ」
警告を受け、ウコンとサコンのプロームの影に隠れるようにB3が大きく後退する。
機体の挙動に驚く。だが、自分の手は勝手にB3を操作していた。
(なんで!?)
サコンとウコンを止めるために声を出そうとする、が、声もでない。
さらに混乱するハルカにサコンが語り掛ける。
「皇子、どうか陛下を恨まれるな。全ては我らが咎、我らが願い故の結果なのです」
「そうですとも。この状況下で、どこも家がないのは寂しうございましてな、柱となってくれるお方が、帰る場所が欲しかったのでござりまする」
サコン、ウコンの言葉にハルカははっと気づいた。
(まさか、父さんも)
最初に宣言したのは、ヤナギだ、その後からイツキの様子が変わったのだ。
何かしらかのせいで、思ってないことをさせられているのだとしたら。
「……なん……で」
精一杯抵抗して、声を絞りだす。
「皇子たちを帰る場所として、共に歩みたいのですよ」
「そして、皇子が他の陣営と我らが戦っていて心を痛めるのと同様、我らのせいで戦いたくない相手と戦う皇子を見るのは心が痛いのでございます。だが、こうすれば大義名分を持って皇子の代わりができまする」
微笑むように言う、ウコン、サコンの言葉に涙が出そうになる。
ウコン、サコンが頷きあうと、それぞれ得物を構えた。反応して黒曜とエヴァーレイクが臨戦態勢をとる。
(止めたいのに、動け、身体!)
だが、ハルカの願いは叶わず、ぴくりとも動かない。
相手はチームメイトだった元仲間だ、その強さも手管も知っている。
ウコンとサコンでは適わない、それがはっきりとわかってしまう。
表面上は変わらないが焦るハルカの様子を見て、ずっと沈黙していたノインが音声を発した。
「動きたいのであれば、役割に逆らっていては動けませんよ。お父上のようにしない限りは」
あえて冷めた声でノインが告げる。
それは、動くためのヒントだ。
「ただ、仮に動けたとして、止めてどうするのですか? どのチームメイトを守るのですか? ウコンとサコンを戦わせないのですか?」
ノインが次々と疑問を呈していく。
「あなたは何に剣を向けて、何を守りたいのですか?」
ハルカは、そこでノインが言いたいことに気づいた。先程父が宣戦布告した、本当の意味を。
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