4. 曇天の空、初めての対人戦 (2)

 飛空挺内部では墜落寸前の状況でパニックに陥っていた。


『なんとか高度保てるか!?』

「いや、無理だ、プロペラがやられて維持できない」


 飛空艇を操縦している16、17歳ぐらいの少年が外で戦う仲間に対して返す。表情は険しく、汗が滴っている。


「周囲に降りれそうなところないよ!?」


 飛空艇の管制機、レーダーを見ながらミドルボブの少女が叫ぶ。

 飛空艇の内部は子供たちの阿鼻叫喚の声で埋め尽くされていた。


「リュウ、戦況は?」


 操縦している少年が無線機を通じて飛空艇の重火器関係の操作席に座る少年に尋ねる。


「よくない。相手は、プロームに飛行ユニットをつけてるみたいだ。飛空艇の上でケンジとアヤメが応戦してくれてるけど、ほとんど意味はない」

「ちっ陸地戦に持ち込めれば勝機はあるのに……!」


 泣き叫ぶ子どもたちの声と状況の深刻さから思考がせまくなっていく。

 (どうすれば……!)

 そのとき、がががが、という無線音が入った。


『……ま、か……! 応……答を! 聞こえますか!?』


 通信機から音声が流れる。それは自分たちとかわらない少年の声だった。


「聞こえてます、どうぞ!」


 通信管制している少女が操縦している少年の代わりに答える。


『良かった! そこから北東の方向、えっと、飛空艇も北を向いているから、2時の方向、20km先に平地があるのが見えますか!?』


 通信機からの少年の声に通信管制の少女がレーダーの範囲を広げる。降りしきる雨で視界は悪いが、赤い光がライン状に続く平坦な場所が見えた。

 さっきまではなかったはずなのに、と少女は戸惑うが、これほどうれしい状況はない。


「カナタ! 2時の方向、滑走路がある!」

「ルイ、見えてる! そこ目指して着陸させる。リュウ、ケンジとアヤメに近づけさせるなって連絡送ってくれ!」

「了解!」


 リュウと呼ばれた少年が無線を外で奮戦しているプローム操縦者に飛ばした。



 ◇



 機体のコクピットにて、漏れ出た飛空挺内の通信内容を聞いて、ハルカは驚いていた。


「リュウ、ルイ、ケンジ、アヤメ、それにカナタ……??」

「どうしたんですか?」

「いや、たぶん考えすぎかもしれないけど」


 自信がなさそうに話しつつも、ハルカの心臓は早鐘をうっている。

 その名前は、ゲーム“CosMOS”でチームを組んでいたチームメイトの名前だったからだ。


「もしかしたら、知り合いかもしれない」


 少年の言葉に、ノインの表情がモニター内でぴくり、と震えた。

 その様子を見て、サコンが言わんこっちゃないというようにぬいぐるみの首をふる。


「い、いやそうかもしれませんが、ですが、それは……」


 歯切れの悪いノインの言葉にハルカが首を傾げていると、遠かった飛空艇の機影が近づいてきた。

 B3を走らせ、滑走路の終点に立ち、そして信号弾をうちあげる。着陸の体勢に入れ、という合図だ。

 信号弾の意図を察して、飛空艇の機首が下に下がる。飛空艇の下から車輪がおり、アスファルトの地面につく、雨でややスリップするがバランスをとる。

 イツキが見たら、なんと質の悪いタイヤだ、と憤慨しそうだが、操縦者の腕で補い、見事にバランスをとって飛空艇は滑走路に着地を決めた。

 飛空艇の上部には、見覚えのある緑とベージュの機体が見える。


「風招に、マックスガイツ……!じゃあ、やっぱり」


 見覚えのある機体を見てハルカが喜んだのもつかの間、いきなり通信が入った。


『そこのプローム、気を付けて。攻撃が来る!』


 警告が飛んできたのと同時。

 B3が居た箇所に何かブーメランのようなものが飛来し、横っ飛びにかわした。


「今のは……!」

『へえ、僕の攻撃を投げた後に気づいてかわせたのはキミが初めてだよ』


 通信機に入った別の声。それと同時にモニターに新たなプロームの出現を示すマーカーが映し出される。

 B3が視線を向けると、そこには手斧のような武器を握る黄色いプロームが飛行ユニットにささえられ、飛んでいた。

 その機体にもハルカは見覚えがあった。


「ツインハック……!」


 ソロで有名なプレーヤーであり、範囲攻撃も可能な手斧を武器にしつつ、縦横無尽に攻撃してくる強いプレーヤーだ。

 だが、このプレーヤーが最も名をあげているのが、対人戦、それもオーバーキル気味のプレイヤーキル行為からだ。手斧がユニオン内の同盟プレーヤーに当たるのを意にも介さず、ケイオスを殺しまくり、そして、敵対ユニオンのプレーヤープロームを戦闘不能な状態でも切り刻む。

 その行為は嫌われつつも、ダークヒーローのように一定のファンを獲得していた。


「あれ?僕のこと知ってるの?うれしいなあ、もしかして僕のファンだった?けど、キミの機体、見たことないねぇ……見たところ、所属も書いてないし」


 ツインハックがB3に機体の頭部に当たる部分を向ける。獲物を舌舐めずりしながら、見定めているような印象だ。

 覚えがなくてもしょうがないかもしれない、互いにサーバーが違うので対人戦では当たったことはないし、それにゲームの時とは明らかにB3の外観も変わっている。


「まあ、いいや。簡単に獲物が落ちちゃったからつまらないと思ってたんだ、相手をしてよ!」


 ツインハックが、飛行ユニットを引きちぎるように飛び降りると、脚部のスラスターを光らせ、一目散にB3に襲いかかってきた。


 

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