4. 負けん気と強気 (1)

 一体どうしてこんなことになったのだろう、とハルカはB3のコクピットから思う。


「さあ、行くわよ!」


 コクピット内のモニター先には、ゲーム内で見慣れた機体エニエマが二丁拳銃を構えている。

 そういえば、地球でも一方的に挑まれたなー、とゲームだった時のことを逃避するように思い出す。

 けど、今はゲームでも無ければ、紛れもない現実なわけで。そして、エニエマを操るユイはCosMOSでチームメイトだったユイでもあるけど、地球でアイドルだったユイでもあるわけで……。 

 はあ、とため息をつくとハルカは回想を始めた。





 ユイを救助したハルカとイツキはそのまま渡瀬邸に移動し、ケイトとナノに事情を説明した。地球でも有名だったアイドルがやってきたので、二人もかなり驚いたが。

 ケイトが身体の具合を確認し軽い脳震盪を起こしていただけとわかると、打撲した頭部に応急処置を施し、ほどなくしてユイは目を覚ました。


 起きたユイは渡瀬家の面々を見て警戒したが、プロームを用いて助けたことなど救助したことをハルカが説明した。


「と、いうわけで墜落したところを発見してプロームで救助したんだ」


 ややしどろもどろになってしまいながらではあったが。


<おにい、緊張してない? チームメイトだったんでしょ?>


 傍から聞いていたナノが思念伝達で突いてくる。


<チームメイトだけど、まさかアイドルのユイと同一人物だったとは思わなかったんだよ!>


 CosMOSで所属していたチームでは、音声で直接やり取りせずに、音声入力方式のチャットを活用していた。

 その方が指示や会話の履歴が残るからというのと、チャット方式がいいというメンバーが多かったからだ。

 ハルカとしては年齢バレするのが避けたかったからありがたかった。ユイも、もしかたら声バレするのを避けたかったのかもしれない。


 戸惑いながらも真剣に話す態度が伝わったのか、ユイが一つうなずくと微笑んだ。


「そうだったのね、ありがとう。けど、ここって、エイジス海域の島、よね?」

「そうだね」

「まさかこの島に人がいるなんて思わなかったわ。ましてや、プローム乗りがいたなんて」


 そこで、ユイは言葉を切って、考え込む。


「あの、まさかとは思うけど、2ヵ月ぐらい前にこの辺を飛行してたプロームと戦ったりしてないよね? 手斧を持った黄色いプロームとか……」


 自信の無さそうに話すユイの声音は、きっと知らないのだろう、と言いたげだ。


「え、ツインハックのこと? 戦ったけど?」


 対してハルカはあっさりと返答した。


「ちょ、ちょっと待って、ということはあなたが撃破したの? 嘘でしょう!?」


 じろじろと見ながら、ユイが言う。その視線は、強そうには見えないと語っていた。


((正直な子だなあ……))


 やり取りを静観していたイツキとケイトが苦笑いしつつ同じ感想を抱く。

 そこへ、率直なユイに対して怒ったのは、ノインだ。


「なんと失礼な! ハルはツインハックともう一機を同時に相手どって勝ったのですよ!」

「ノイン、それ言いすぎ。一機については不意打ちしたようなもんだし、スペックとか消耗とかいろいろ有利な条件が揃ってたから」


 ハルカが言うと、ユイがほら、と抗議するように言う。


(ん?)

 

 その時、イツキはユイに対して疑問を感じた。

 フェアリスは一部の人間以外には基本不干渉とヤナギから説明を行けていた。フェアリス至上主義のユエルビア共和国でも、信仰対象にしているだけでその存在をはっきりと教えてない、と。

 しかし、ユイは突然現れたノインに驚くでもなく普通にやり取りしている。つまり、フェアリスの存在をもともと知っていたということだ。加えて、ツインハックが戦闘によって倒されたという情報も持っている。


(ということは……)


 思案をするイツキをよそに、ユイとノインが言い争う。


「ハル、あなたは前々から思ってたのですが、自信がなさすぎるのです! ツインハックとは正面から戦って勝ったではないですか、それも一撃ももらわずに!」

「ちょっ、あれの手投げ斧の軌道って変化する上に早くて回避が難しいはず、そんなの不可能よ!」

「なにをもって不可能と言ってるのかわかりませんが、ハルカは飛んできてるのを確認してから避けてましたよ! その後の接近戦でも避け続けてましたし」

「なにそれ!? 本来、プロームってそんなに素早く動けるもんじゃないから、かわせるものじゃない。相手の攻撃を受け止めて流すなり、そらすのが基本よ、そんな駆動ができるなんで信じられないわ!」


 譲ることなく、ぎゃいのぎゃいの言い争う。

 白熱する2人をよそに、渡瀬家の3人が置いてけぼりになる。


「ユイってこんな性格だったんだね……」とナノ。

「そう、チームにいたときもこんな感じだった」とハルカ。

「うん、威勢のいい子は嫌いじゃないな」と楽しそうにケイトがうなずいた。


 ノインとユイが喧嘩する様子を見つつちらりとハルカが思う。


(にしても、駆動のことについてそんなに言われるものかな? チームメイトからよく変態駆動とか言われてはいたけど)


 地球でのことを思い出しながら、ちょっと傷つく。


「こうなったら、実際見せてもらおうじゃないの!」

「望むところです! ハル、行きますよ!」


 トリップしてたところで、いつの間にか二人で話がつき、模擬戦をする流れになっていた。


「え、ええぇ……?」


 



 以上、模擬戦をすることになった経緯である。


 ちなみに、ユイのプロームはイツキが点検済みで大きな破損がないことは確認している。エニエマのパーツの強化については、それに合わせて調整する時間が必要となるので、今回は見送っている。


 さて、どうしたものか、とハルカは思う。プロームの性能的にはこちらが有利な上にノインもいるので、卑怯とも思えてしまう。

 ノインは、アイコンの表示をしきりに動かしていて、やる気に満ちていた。


『おにい、さすがにアイドルのユイを傷つけたら怒るからねー』


 ナノが通信で言ってくる。地球でアイドルだった印象もあり、ユイの味方だ。


『ハル、僕からも。彼女を傷つけること、特にロストだけは絶対に避けてください』


 意外なことに、父もユイの味方のようだった。

 周りを見れば、話を聞きつけたのか、ウコンとサコン、他のフェアリスたちが模擬戦を見に来ていた。

 はあ、とため息をつくとエニエマに向き直る。

 そもそもハルカとしては応戦する気はないのだ。


(今回は岩場だから何とかなるかな……)


 条件を確認して、やるだけやってみるかとハルカは気持ちを引き締める。

 模擬戦開始の合図にブザーが鳴った。

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