8. 列島制圧最終作戦? (1)
自宅を模した家のある区域、地球で言えば東京を出発してから1ヶ月。
列島の南端、地球の地理に当てはめれば、鹿児島は桜島に当たる小島が見えるところまで渡瀬家とフェアリスの連合部隊は辿りついた。
「遠方から見るだけでも、かなりの数がいるわね。上陸したらもっといそう」
双眼鏡から小島にて複数の強襲型ケイオスの影を視認したケイトが報告する。
到達するまでの道中、ケイオスを駆除していったはずなのだが、追い立てるような形になってしまい、残党が活火山のある島へと凝集してしまうこととなった。
「数は多いですが、橋を構築して地続きで来れる場所として、残りはここだけですね」
イツキが感慨深く話す。小島を制圧すれば列島は制覇した、ということになる。
「到達までひと月半か。先は長いなあ」
「確かに。世界中となると、どれだけかかることやら」
ハルカのぼやきに対し、ケイトも苦笑いで返す。
先を思いやる人間勢に対し、
「この小規模の集団で列島制圧が見えるところまで来ただけでも十分に大したことなのに……」
とノインとノウェムが不機嫌な表情を浮かべる。
そんな待ち受けている戦闘とは裏腹の呑気な様子はさておいて、イツキがヤナギに向き直った。
「では、島に上陸してからの作戦を決めて、突撃しましょうか?」
「……」
イツキが傍らのヤナギに声をかける。しかし、ヤナギはじっと島を見つめたまま動かない。
「ヤナギ?」
「お、おお、なんでございまするか、イツキ殿」
「上陸してからの作戦を決めようと思いまして」
「そ、そうでございましたな、では、そちらで話し合いましょうか」
うわの空、というよりも空元気な様子でヤナギが返事すると、ふよふよと飛んでいく。
「大丈夫かな、ヤナギ。いったいどうしたんだろう?」
「さあ……」
ハルカの疑問にイツキもわからず首を傾げる。心当たりがないか、フェアリスに問いかけようとするも、それぞれ白々しい様子で話しかける前に散ってしまった。
(何か隠しているのがまるわかりですね。嫌なことにならないといいのですが……)
不安は話せば話すほど的中してしまうので、内心で思うだけにイツキは留める。
結果的にその予感は的中することとなったのだが。
◇
突入前に決められた作戦は、島を3手に分かれて各方面から強襲するというものである。
それぞれの部隊で撃破しつつ、島の中央を目指し、合流ののち中央部の山岳の洞穴から内部に侵入。先にフェアリスの調査によって位置が判明した、島地下にあるケイオスのコアを破壊する、という段取りだ。
上陸し、早速3部隊に分かれ、作攻略作戦は決行された、のだが……。
「数多すぎ」
森の中を走り抜けつつ、青い機体、B3が主武装の長剣を振るい、ケイオスをなぎ倒していく。
1機のみで撃破数を重ねているものの、いっこうに周囲のケイオスの数が減った様子はない。
「いくら、戦力を平均的に分散するからと言って、ハルカ単騎は流石に無茶しすぎです」
「だよね。でも父さんから作戦聞いた時は確かにそれしかないって思った」
引きつった笑みを浮かべながらハルカが答える。
なにせ勢いのみでここまで到達した急造の部隊なのだ。数は多くても各機の練度は低い。
ゆえに、一方をイツキ、ケイト、ナノと最近プロームに乗り始めたフェアリス、一方をウコン、サコンとやや中堅ぐらいのフェアリスの乗り手たち、そして、ハルカ単騎の編制で島を攻略していた。
(ここは、数が多いだけで何とかなるけど、ウコンやサコンたちは大丈夫かな……?)
いつもハルカがプロームの動きを都度指揮してきたため、ウコンやサコンに指揮する経験はない。
戦闘をこなしつつ、ちらりとハルカは不安がよぎった。
◇
3方向側の一つを任されたウコン、サコンを中心としたフェアリスが操るプローム数機の部隊は、戸惑いながらも勢いのみで前進していた。ひし形の陣形を崩さないようにだけ注意しているが、各機の動きに連携はない。
「ささサコン、これで本当にいいのか!」
「私に聞くなウコン!分かるわけなかろう。だが、イツキ殿に頼まれたのだ、この部隊を任せられるのは我らしかいないと」
「そそ、そうだな、やるしかあるまい。だが、どうやってまとめればいいのだ!」
そんなやり取りをしている間に、陣形をケイオスに食い破られ、赤い機体を操るウコンが反応し、斧で受け止め、振り下ろした。
仕留めたのは分体のみで、コアをやらないことにはまた食い破られる危険性は高い。
陣形を固めつつ、完全に足の止まってしまった部隊がケイオスとにらみ合った。
◇
一方その頃。
ハルカ、ウコン・サコンらの部隊とは異なり、イツキ達とフェアリス3機の部隊は順調に島の中央部に向かって前進し、他の部隊よりもいち早く到着しようとしていた。
「イツ君、この作戦無茶だったんじゃない?」
「自分でもそう思います」
他の部隊の様子を双眼鏡で見ながらケイトが言うと、イツキがため息をついた。
ウコン、サコンは他のプローム乗りよりもまし、という力量だが、他の者に頼むことができず、任せるしかなかった。
ハルカの方はというと、指揮はしているものの、単騎で突出しがちで他の機体へ負担を配分するという視点がない。
1人で複数を倒してさっさと目標地点を目指してしまう。ゲームで個々の力量が高ければそれもいいだろうが、小島の状況と部隊の練度では分散を助長して危険に晒しかねない。
だから、本人に理由は話していないが単騎にしたのだ。
できることなら、もう少しハルカの速度についていけるほど、フェアリス達の練度を上げてから突入したかった。だが、集結してるケイオス達がまた侵食を始めるかもしれないし、その頃にはフェアリス達の士気も落ちてしまう可能性が高い。ゆえに、強行するしかなかったのだ。
(さらに、気になるのはそれだけじゃないんですよね……)
ちらりと、イツキがヤナギの方へと視線を向ける。作戦中にも関わらず心ここにあらず、といった様子だ。
「ヤナギ?」
「ふぁっ!? なんですかな?」
声をかけられてヤナギが驚いて飛び上がる。
「さっきから、なんか落ち着かない様子が見えますが、どうしたのですか?」
「な、なんでもないですぞ」
問題ないと言いつつも、何か隠している様子が丸わかりである。
「あのですね……」
イツキがいよいよ、いい加減にしろ、と言おうとしたところで、フェアリスが操るプロームの肩部分で揺られていたナノが声を上げる。
「お父さん、あんなところに洞穴がある!」
乗っていたプロームに急停止を呼びかけて停らせると、プローム1機なら何とか通れそうな穴が開いていた。
ノウェムが感覚を研ぎ澄ませるように猫耳を立てる。
「ここから、コアの反応があります」
「じゃあ、ここが目的地ですね。他の2部隊を待つか、それともこの部隊だけで破壊しに行くか……」
イツキが悩んでいるそばを、洞穴の入口にふよふよとヤナギが飛んでいく。
すると、急に島全体が震えた。
『近づかないで!!』
まるで島が鳴いているかのような響きに、イツキ、ケイト、ナノが耳を抑え、ノウェムの不透明な身体にジジッ、とノイズが走る。
叫びに対して、ヤナギが臆することなく洞穴に近づいて叫び返す。
「ツバキ、生きとるんか、ツバキ!」
『呼ばないで!奴らが活性化する!』
その声が響いた直後、数百メートルは離れていたはずのケイオスが雄叫びを上げ、いきなり襲いかかってきた。
一機のプロームが慌てて応戦するが弾き飛ばされ、山の壁面に激突し、動かなくなる。
先ほどよりも高い戦闘力にイツキが戦慄する。
(活性化? まさかこの短時間で膂力が上がっている!?)
「ツバキ!」
そんな様子を気に留めず、ヤナギは謎の声の忠告を無視して呼びかけ続けている。
「ヤナギ、ダメです! さっきの声は聞こえてたはず、呼べばこいつらが強くなる!」
イツキが言うと、ぐっとヤナギが唇を噛んだ。見れば、周囲をケイオスに囲まれていた。
「イツ君、これ何気にピンチだね……」
「ですね、流石にこれは予想しきれてなかったです」
ケイトが引きつった笑みを浮かべ、イツキはどうやってこの場を切り抜けるか、と思考を巡らせる。他の部隊と合流できているならともかく、包囲されている状況では、有効な手が思い浮かばない。
静かにヤナギがナノに話しかける。
「ナノ殿、お願いがござります。わしの思念を接続してくれませぬか」
「接続するのはいいけど、どことつなげるの?」
ヤナギは真剣な眼差しを浮かべて言った。
「この島です」
◇
ハルカとノインがB3を繰り、苦戦しつつも、徐々に島の中心に近づいていた。
その時、突然島が振動すると、島の至るところから砲台が現れた。
「これは!?」
〈姉さん! 退却してください! ヤナギがケートスの力を拝借して突破口を作るそうです。でも、長くは持続できないので、素早くお願いします!〉
ノウェムがノインとハルカに思念伝達で伝える。
直後、砲台が一斉に火を吹いた。
周囲の視界が橙色の閃光で染まり、ケイオスが薙ぎ払われていく。
何か他の箇所で起こったことを察したハルカは、開けたプロームで疾走し、島を離脱したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます