◇第七話◇

「いやー、しかし初対面の、しかも女子と無駄話してる所俺初めて見たわ。すげぇな。新鮮だな」


何が凄いのか疑問に思いながらも、少なくとも褒められてはいないと悟る。コロコロと話題の変わるこの男に、一々答えていては身が持たないと知っている稜は、テキトーに相槌を打っていた。


「てかさ、何か稜機嫌悪くね?いやいつも悪いけど、今日は一段とさ」


「いつもって何だ。…………気の所為だろ」


「え、何今の間」


図星を突かれ、素直にそうだとも言えずに否定をする。実際機嫌が悪いのだろう、あまり表情が変わらず喜怒哀楽が読み取り辛い人間なために分かり辛いが、微妙に眉間にシワが寄っている。


目を凝らさなければ気付けないであろうその感情の変化を見抜けるのは、友人の中では蓮だけだと思われる。いや、そもそも稜に友人なんて蓮以外いないのだから当たり前なのだが。


西校舎を出た二人は、次に南校舎へと移動する。此処は主に図書室が建物を占めている。他にも教材室や相談室、保健室など、生徒をサポートする環境が整っていて、他の校舎に比べると比較的静かな印象が強い。


「広いわりに教室ほとんどねぇんだな。図書室でっか」


「宝庫だな」


「お前はまたそうやって目を輝かせる……。小説の何が良いんだか、俺にはサッパリだよ」


自己紹介でも言った通り、稜の趣味は読書。暇さえあれば常に本を読んでしまうほど、本が好きらしい。お気に入りは何かと問われても、どれもこれも良作過ぎて一概にコレと言える物が存在しないとのこと。


「これから休み時間は此処に来る事に決めた」


「待ってくれよ、放置プレイは悲し過ぎるだろ」


ただでさえ学校外では全くと言って良いほど会ってくれないのに、これから更に会えなくなるのは何か虚しいと文句を垂れる。


「まぁ、冗談はこのくらいにして」


「今の冗談だったのか」


真面目というわけではないが、冗談なんて言葉がこれほどまでに似合わない奴が他にいるのかと思わせられる。表情一つ動かさないのだから尚更だ。


「中学の頃は図書室なんて有って無いような存在だったからな。此処ならテスト前に帰らずにテスト勉強する事が出来るじゃねぇか」


「え、ちゃんと勉強するんだな」


「当たり前だ。お前と違って天才じゃないんだよこっちは」


「そんな褒めないでよ稜ちゃん、照れちゃうわ」


「気色悪ぃからやめろ。消すぞ」


「怖っ」


変なところ生真面目な稜は、中学時代もテスト二週間前ともなると毎日欠かさずテスト勉強をしていた。が、それでも成績は中の上が限度。赤点を取る事は滅多になく、何ならクラスでも上位に入るくらいには勉強は出来る方だ。更には滅多に人を褒める事の無いこの男が天才とまで言うのだから、蓮は紛れも無い天才なのである。天才と馬鹿は紙一重という言葉は、この男のために作られたのだろうとさえ思える。


「それにしても静かだなぁ、此処は。何か落ち着かねぇ……」


稜とは真反対に、蓮という男は静かな環境が苦手だ。一人の時間もそれほど好きではないらしく、基本的には友だちや家族と一緒にいる印象が濃い。かといって一人になることも少なくはなく、たまに自室で一人ボーッとしてる事もあったりする。本当に稀にだが。


「もう見る所もねぇっしょ。次行こうぜ」


「誘ってきた奴が飽きてんじゃねぇ」


「飽きてませーん。こんな所に長居したくないだけですぅ」


小学生かとツッコミたくなるほど、腹のたつ顔で頬を膨らませる蓮。一体誰得なのだろうか。

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