第4話 元会社員 清水道雄

勇者 清水道雄

ステイタス

 鬱 10

 妄想 30

 散漫 40

 記憶 - 10

 狂 10

戦績 イノシシ型モンスター


 こっちの世界にくる前の話からはじめさせておくれ。

 私は仕事人間だった。朝早くから夜遅くまで、会社で働いた。家が怖かったんだな。自分が無能じゃないって示せるのは会社の中だけだった。

 時代がよかったせいだろうね。今じゃ、終身雇用が崩れて会社への忠誠心なんて持ちようがなくなってしまったそうだけど。会社に尽くしていれば、会社も面倒をみてくれるという、そういう時代が私達の時代だった。

 家ではなにもできなかった。家事も、子育ても、趣味なんかなかったし。家にいてもすることがない。ただぼおっとソファにすわってテレビを見る以外にはな。そんな人間ならいないほうがマシだろう。

 妻が家のことは全部やってくれた。子供のこともまかせっきりだった。

 その妻が先に病で死んだ。働き過ぎで私が先に死ぬとばかり思っていたんだけどなあ。妻の方が働き過ぎだったのかもしれない。

 子供は一人立ちしていた。自分のことだけをすればよかった。でも、会社を退職して家にいるようになって。ほうけていることしかできなかった。

 妻が死んで一年でわたしも死んだ。自殺ってわけではないが、ひとりでは生きてゆけなかったんだね。情けない。

 死んだはずなのに、気づいたら転生していた。役になんか立たないのにねえ。体は若返っていて、夢と希望もそこそこの数値だった。

 でも、わずらわしかったんだ。町の人たちがよってたかって世話してくれようとして。妻じゃあないのにね。妻がいてくれたらよかったんだけど。いや、それではダメだったんだろう。

 ひとりで生きてみようと思ったんだ。若返っていたせいか、夢と希望の数値のせいか。町の外、森の入り口に掘っ立て小屋をね、こしらえて。うん、ひとりでさ。

 魚を釣って、食べられる草を摘んで。畑を耕してね。

 オオカミが移動してきたんだよ。面白かったなあ。知らないだろうけど、「風の谷のナウシカ」って映画があってさ。リスみたいな野生の生き物にナウシカって少女が出会うんだね。手を近づけると指を咬まれる。野生だからね、自分を守るために咬みついたんだ。ナウシカは痛みをこらえて、力を抜く。すると、リスみたいなやつは安心して指を離す。出てくる血をなめる。ごめんよって感じでさ。これでもう友達。

 同じことをオオカミがやったんだ。指なんて生やさしいもんじゃないけどね。腕にがぶっときたね。よかったのは、咬まれても痛くないってこと。それで、オオカミと仲良くなって、うさぎやなんかを獲ってきてくれるようになった。冬なんかあったかかったなあ。暖炉の前でね、六頭もいたから毛皮の布団みたいなものさ。

 元の世界じゃ、キッチンに立ったこともなかったのに、こっちじゃうさぎを解体して料理して食っちゃうんだから。妻が聞いたらヘソを曲げるんじゃないかな。ははは。

 そうしているうちに、三十年。異世界でスローライフを満喫したよ。

 その間、町が平和だったっていうのも運が良かった。そろそろ夢と希望が残り少なくなってきたってときに、あらわれたんだね。イノシシみたいなモンスターが。

 異世界を十分満喫したから思い残すことはなかったんだけど、モンスターを倒しきるか心配だった。私が倒せなかったら、町の人たちが死んじゃうんだから。それなのに、体は老いてるわ、夢と希望は残り少ないわ。そりゃ、心配になるってものじゃあないかね。

 自分で作れないものは町の人にもらっていたしね、町の外といってもあまり遠くない、行き来はいくらか続いていたんだ。なんだかんだいって、世話になっていた。

 それで、モンスター退治に出た。そしたら、オオカミたちがついてきてくれてね、一緒に戦ってくれた。どうにかイノシシみたいのを倒せてね。役目を果たせてよかったよ。

 また、オオカミたちとスローライフにもどって。いよいよ、夢と希望を使い果たしたから、ここへきた。

 ああ、オオカミたちがお別れの遠吠えをしてくれているね。

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