第274話 とある師団長の誤算

 

「おかえりなさいませ、師団長」


「挨拶はいい。今すぐこの拠点を廃棄する」


 体一つで逃げてきかたからな。

 残した荷物から、ここがばれる可能性はある。

 ノーゼノンから距離はあるが、最悪報復もあり得るからな。


「は?」


「ノーゼノンに向かった商団が全滅した」


「それは師団長が率いていた?」


「そうだ。俺以外は全滅だ」


 あの孤児院は一体なんなんだ。

 あれが闇の女神かどうかは俺にはわからん。

 わからんが、商団が全滅したのは事実。


 あれは俺達の手に負える相手ではない。


「至急手筈通りに進めてくれ」


「わかりました」


 よし、この拠点はこれでいい。

 あとは本部と他の師団長連中に連絡だな。


「おい、俺は少し席をはずす」


「は!」




 これで最後か。

 流石に本部と全師団長分、複数同じ文書を書くのはきつい。

 だが、準備はこれでよしと。


 後はこいつで送るだけだ。


 相変わらずよくわからん魔方具だな。

 こんな筒が並んでるだけの代物で、途中での紛失がなく情報の伝達が早いとは。

 どうやって長距離間で文書をやりとりしてるんだか。


 まあいい。

 兎に角今はやることをやるだけだ。


 各筒に文書を入れて。

 紋章に触れて。

 よし、完了だ。


「おつかれさん」


 !?


「誰だ!?」


「連絡手段が時空魔法の魔方具で助かったよ」


 なんだ?

 こいつはどこから来た?


「伝書鳩みたいなアナログ手段だったら、追跡で死ぬほど苦労するところだった」


 こいつは何を言っている?


「お陰であんたが連絡の取れる、全ての拠点は確認できた」


 なに?


「貴様、一体何者だ?」


「名前を聞くときは、まずは自分からって習わなかったのか?」


「馬鹿にしているのか!」


「その通りだよ。あんた、まさか自分が本当に逃げられたと思ってないよな?」


 な!?


「は? 本気で逃げられたと思ってたのか? そんなわけないだろ」


 ……。


「あれだけの部隊が一瞬で全滅したのに、お前だけが無事なわけないだろうが」


 くそ!

 俺は泳がされたと言うことか。

 だがどうやってここに?


 俺は転移石をつかったはずだ。


「まあ、なんでか知らんがこの世界の連中は、転移すれば逃げ切れると思い込んでるからな」


 なん、だと?

 転移の後を着けたとでも言うのか?


「どう言うことだ!」


「転移程度じゃ、うちの領地に喧嘩売った奴は逃げ切れないってことだよ」


「お前の領地? 何を言っている?」


「うーん、お前ら情報収集とかしてないのか?」


「それなことは」


 していない。

 帝国がどこかの領地になったという話は……。

 いや、まさか!


「ガンドラル村……」


「なんだ、知ってるんじゃないか」


 まさか、まさか、まさか。

 あんなもの街の連中の与太話だと。


「うん、まあ、あんまりないことだからな。真に受けなかったのはしょうがないけど」


「村に従属する国等あるはずがない!」


「信じるも信じないもお前の自由だよ。どうせお前らはここで終わりだ」


「なにを?」


「は? 国の施設に襲撃かけて、まさか無事でいられると思ってないよな?」


 !?


「じゃあ、そういうことで」


 消えた?

 な!

 天井が徐々に消えていく!


 なんだ!

 何が起こっている?


 な、壁も。

 いや、俺もか!


 くそったれ!

 ろくな死に方はしないと思ったが、まさか文字通り消されるとはな。


 まあいい、こんな化け物相手だ。

 他の連中もすぐに同じ目に遭うだろ。

 あの世ってものがあるのかどうか知らないが、先に行って待っててやるよ。

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