第233話

 さてと、それじゃあ出かけますか。

 えーとハイレイン王国だっけ?


「あれ、兄貴、出かけるのか?」


「おう、ハイレイン王国ってところに行ってくる」


「ハイレイン? ハイレインって、あのハイレインか?」


 ん?

 ジジはハイレイン王国を知ってるのか?


「ジジは行ったことがあるのか?」


「ある! というか、親父とお袋が住んでる」


 は?


「エチゴラさん?」


「いえ、ハイレイン王国の近くに、竜が住んでいるとは聞いたことがありませんが」


「近くじゃない、ハイレインに住んでるんだ」


 え?


「エチゴラさん?」


「そ、そのようなお話しは伺ったことがありません」


「ジジ、どういうことだ?」


「うーん、実はオレの親父とお袋は竜族の中でも変わり者でさ。何でか知らないが、人化して街や村で生活したがるんだよ」


 それを変わり者っていうのか。

 それよりも気まぐれで、街一つ消し炭にするような奴のほうが、よっぽどアレな気がするんだが。


「旦那さま、呼びましたか?」


 !?


「いや、呼んでないぞ」


「クリ姉、兄貴達ハイレインに行くんだってよ」


「ハイレインと言うことは、叔父様と叔母様の」


 おいおい、確定かよ。


「エチゴラさん、ハイレイン王国はこの事を?」


「知らない可能性が高いですね」


 エチゴラさん、心なしか顔色が。

 まあ、竜族だからな。

 あれな感じの方々ばかりだし、知ってしまうと心穏やかではないよな。


「なあ、兄貴。オレも一緒に行ってもいいか? その親父達に兄貴のことも紹介したいし」


「それなら私もご一緒させてもらえませんか? 叔父様達に会うのも随分久しぶりですし」


 心情的にはイエスなんだが……。

 クリス、ジジに加えてあと二頭の竜族か。

 なにかが起こるというよりは、なにかを起こしに行くって感じなんだが。


 エチゴラさん?

 真っ青な顔色の笑顔とか器用だな。


「そういえば、ジジもクリスもハイレインに行ったことがあるのか?」


「ああ、何年かに一度くらいはな」


「私は五十年ぶりぐらいでしょうか? お父様達はもう少し頻繁にお邪魔しているそうですが」


 エチゴラさん、笑顔の色が青から白に!?

 知らなかったとはいえ、衝撃的すぎる事実だったか。

 まあ、一歩間違ったら国が滅ぶからな。


「ジスジャージル様、アスクリス様。この事をハイレイン王国は?」


「知らないんじゃないか?」


「伝えなければならない理由もありませんしね」


 まあ、そうだよな。


「ジスジャージル様、アスクリス様。ご相談なのですが、この事をハイレインの女王様にお伝えしてもよろしいでしょうか?」


「うーん、オレはどうでもいいんだけど。親父達が何て言うか」


「そうですね、叔父様次第かと」


「わかりました。ではヒダリ様、申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」


 は?

 俺?


「わざわざ兄貴に頼まなくても、エチゴラのおっちゃんも一緒に来ればいいだろ」


「そうですね、旦那さまでは上手く伝わらないこともあるでしょうし」


「私ですか? そんなそんな、恐れおおい」


 言葉以上に拒否オーラが凄いな。

 でもな、エチゴラさん。


「エチゴラのおっちゃんなら大丈夫だよ」


「そうですね。既にお父様とも何度もお話してますし、神代竜と交流のある方を軽く見るようなことはしないはずです」


 無駄なんですよ。

 空気とか読んでなんかくれないんですよ!


「ヒダリ様」


 俺にそんな顔で訴えても無駄ですよ。

 諦めてください。


「……わかりました。よろしくお願いいたします」


 クリスとジジと初めての国か。

 ……。

 なにも起こらないことを願うばかりだな。

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