第221話 ナディの至福の一日

 

 うむむ。

 寝坊したせいで、我が夫の手料理を食べそこねてしまった。

 しかもカシュタンテのやつ、これ見よがしに自慢しおって。


 まあ、我が夫のことだ機会を見つけてねだれば嫌とはいうまい。

 今後の楽しみとしておこう。


 ……。

 異性にものをねだる、か。

 まさか自分がこのような事をするとは。

 少し前まで思いもつかなかったことだな。


 カシュタンテ王国国王か。

 ついこの間まで、その座にいたはずなのだがな。

 遥か昔の話のようだ。


 いや、今が濃厚すぎるのだ。

 戦場に立つ時の高揚感と充実感とは全く異なる。

 それでいて充実した日々。


 それなりに長く生きてきたが、まさか自分がこんな日々を過ごすことになるとはな。

 そういえば、我が夫との初対面でセフィへの思いを聞かせれたな。

 あれを少し羨ましいと思ったが、我自身が同じ場所におさまっているとは。


 あの時の我が聞いたらなんと思うであろうか。

 打ちのめされた後の我であれば、諸手をあげて褒め称えるか。


 あの武力。

 あれは圧倒的すぎた。

 この我が畏怖し、羨望の眼差しを向けるほどに。


 っと、いつまでも浸っている場合ではないな。

 まだまだ片付けなくてはならん仕事がまっている。




 今日はこの辺で終わらせるか。

 ん?

 ノック?


「誰だ?」


「ナディ、俺だ」


「なんだ我が夫か。何かあったのか?」


「おう、仕事は終わったか?」


「丁度、今日の分を終わらせたところだ」


「昼飯でもと思ったんだが。迷惑じゃないか?」


 我が夫はこういうところが押しが弱いというか、なんというか。


「迷惑な訳がないだろう」


「そうか、そりゃよかった。天気もいいし、外で食べないか?」


「わかった、今行く」


 む、我が夫一人とは。

 珍しいな。

 ということは今日は二人で昼食か。


「ナディどうした?」


「?」


「なんか嬉しそうだぞ」


「顔に出ていたか?」


「いや、なんとなくだな」


 ふふふ。

 なんとなくか。


「っとどうした?」


「目的地まで運んでくれ」


「あいよ、この抱き方でいいのか」


 やはりこの抱かれ方はいい。

 お姫様抱っこといっていたかな?


「ああ、少し下から我が夫の顔が堪能できるからな」


「はいはい、こんなんで良ければ好きにしてくれよ」


「うむ」




 これは?

 パンに色々な具材が挟んであるのか。

 は!

 もしや!?


「我が夫よ、これはもしかして」


「ん? ああ、俺が作った」


 なんと!

 これがカシュタンテの言っていた。


「これが原因で、朝からカシュタンテとやりあってたって聞いたからな」


 ほう、カシュタンテとの騒動もたまには役に立つのだな。

 なにせいつも叱られてばかりだからな。

 ピョン次郎の奴め、いつもいつも謎の重圧を与えてきおって。


 まあ、よい。

 そんなことより、今はこれだ!

 その前に。


「我が夫よ」


「どうした?」


「ここに」


「はいはい」


 うむうむ。

 やはりここに座らんことにはな!

 最近、ここを狙ってるものが多過ぎて、うかうかしてられん。


「それではいただくとしよう」


「おうよ、召し上がれ」


 うむ、今日も一日素晴らしい日になりそうだ!

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