第121話

 しかしクリスの一族は会話の前に一度殴らないとまともに話ができないやつしかいないのかね?


「旦那さま、ご紹介が遅れました。こちらが私のいとこにあたるジスジャージルです」


 見た目は高校生くらいか?


「はじめまして、ジスジャージルさん。私はサシチ・ヒダリ、この村の村長をしております」


 ん?

 どうした?


「ジジ、ご挨拶」


「あの、オレあなたの拳に惚れました! 一生ついていきます! 兄貴って呼んでもいいですか!」


 兄貴?

 この子なに言ってるの?


「ジジ?」


「あらあら、熱烈な告白ね」


 ディラグラシアさん、その悪い笑顔はやめてください。


「ジジ。一生ということはあなたもクリスと同じように、サシチさんとつがいになるということでいいの?」


「そんなつもりは」


 うんうん、兄貴分てことだよな。

 本当のところはそれもどうかと思うんだけどな。


「アスクリス様、ダルダロシュ様、ディラグラシア様、お願いがあります」


「あらあら何かしら?」


「オレ、兄貴じゃなかった、ヒダリ様についていきたいです。あの拳にあの一撃に惚れました!」


 は?


「ということなのだけれどサシチ様? ちなみに竜族の女は諦めが悪いですよ」


 ディラグラシアさん、実例はもしかしてあなたですかね?

 駄目だといったところで話聞かないんだろうなぁ。

 なら、落とし所を提供してお茶を濁すか。


「はあ、わかりました。つがい云々は置いて、とりあえずはこの村で暮らすという事でどうでしょうか?」


「兄貴のそばにいられるってことか?」


「そのようですよ。ここからはあなたの努力次第よ、頑張りなさいジスジャージル」


 なにを頑張らせるつもりなんだか。


「わかった、オレ頑張るよ。ディラグラシア様」


「その意気よ。まずはあなたの後ろにいる従姉妹が最初の難関よ、頑張ってね」


 まあ、頑張れよジスジャージル。


「ジジ、ちょっとお話をしましょうか」


「クリ姉、頭がっ、頭が割れるよ!」


「大丈夫、そんな簡単に割れないから」


 そうだな。

 なんといっても竜だしな。


「でもミシミシって聞いたことない音が頭から」


「私も経験してるから大丈夫。旦那さま少々席を外しますね」


 いや、そんな助けを求められても。

 ジスジャージル、すまん!

 俺にはどうにもできん。


「ディラグラシア様!」


「頑張って、ジスジャージル。それが最初の試練よ!」


「それじゃあ、いきましょうねジジ」


「頑張れよ、ジスジャージル。手足がとれるくらいなら治せるから大丈夫だぞ」


「兄貴、なんの助けにもなってねぇよ! いやだあああ、誰か助けてえええ」




「サシチさん、ジスジャージルのことお願いしますね」


「つがい云々は置いて、この村で面倒は見ていきますよ」


「あら、ジスジャージルになにか不満でも?」


 ディラグラシアさん、目が笑ってなくて怖ええんだよ。

 あとダルダロシュさん一言くらいなんか話そうぜ……。


「不満も何も、俺は彼女のことをよく知りませんし」


「クリスだって似たようなものだったでしょ」


 なんで知ってるんだよ。


「それに彼女はまだ子どものようですし」


「身体的なことで言えば彼女は十分大人よ」


「え?」


「なんせ彼女の母親もあんな感じですからね」


 ジスジャージルのお母さん。

 なんかごめんなさい。


「まあ、中身が子どもっぽい所があるのは事実ですけどね」


「婿殿、竜族の女性は振り切れないぞ」


 ダルダロシュさん、ぼそっと怖いこと言うなよ。


「子どもだとかそういうのは関係ないんだよ、婿殿……」


 えらい実感こもってるな。


「あなた?」


「いや、なに可愛らしかった君と私との馴れ初めの話だよ」


 ダルダロシュさん、まさか!?


「そうさ、婿殿。私は彼女が小さなレディだったときから、彼女に捕まっていたんだよ」


 おっさんを捕まえる幼女。

 ディラグラシアさんならあり得そうだな。


「捕まえるなんて人聞きの悪い。ただあなたに尽くしていただけですよ」


 絶対に嘘だ!

 この竜は絶対色々やってる。

 ああ、過去を思い出してダルダロシュさんが!


「とにかく婿殿」


 おっ、帰ってきたか。


「おとなしく諦めてくれ」


 マジかぁ。

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