第73話 ポピレナシアの想い その3

 

 杏華の料理を食べたサシチが倒れる。


『ちょっと、サシチ?』


 ピクリとも動かなくなった。


『サシチ?』


 この料理を食べたせい?

 こんなに美味しいのに。

 なにか種族的な理由かしら?


「佐七さん?」


『ダメみたいよ。全く動かない』


「どうしたんでしょうね? お疲れなのかしら?」


『あれだけのことをしでかしたんだし、疲かれてるのも無理無いのかしらね』


「あれだけのこと?」


『そう。あいつ光神教の拠点だった場所を消滅させたのよ、跡形もなく』


「ああ、それくらいはやっちゃいますよね」


 え?


「ちなみにポピーと会うちょっと前に、100隻以上の大艦隊を消滅させていますよ」


 100隻!?

 あいつ何やってるのよ。


「さらに、これは信じてもらえないかもしれませんが、闇の女神様を倒してましたよ」


 女神!?

 さすがに意味がわからないわよ。

 あいつなに考えてるのよ。


『とんでもないわね』


「とんでもないですよね」


 いったいなんなのよ、あいつ。

 光神教のやつらをなんのためらいもなく一瞬で吹き飛ばすし。

 私達、機人種に対しても普通に接するし。

 たまに凄くやさしいし。


「それでポピーはどうしたいんですか?」


『は?』


「いえ、佐七さんのことですよ」


『サシチがどうしたっていうのよ』


 不味い。


「それ、本気で言ってます?」


『な、なにがよ』


 不味い、不味い。


「とぼけるのは構いません。ですがその態度のままだと、何も進みませんよ」


 不味い、不味い、不味い。


「佐七さんのこと好きなんでしょ?」


『そ、そんなこと』


 そう、わかってる。

 わかってるけど。


「あるでしょう」


 認めたくないのよ。

 だってあんなに奥さんがいるじゃない。

 杏華だってその中の一人っていうし。


「ポピー、もしかして隠せてるつもり?」


『え?』


「ここに戻ってきてからのあなたは、誰がどう見ても浮かれてる。そして佐七さんと話しているときが何より楽しそう」


『そ、それは』


「あのね、ポピー。私は怒ってる訳じゃないの」


 え?

 どういうこと?


「なんかね、この世界の女の人の中には、佐七さんに一目惚れみたいになっちゃう人がいるらしいの」


『そうなの?』


「うん。そして今のところそうなった人は、みんな一緒についてきてるんだ」


 え?

 なにそれ。


「びっくりするでしょ」


 びっくりしたわよ。


「でね、そんな人達と一緒に生活してるんだけど、凄く楽しいの」


『は?』


「もちろん、佐七さんがきちんとみんなを、相手してくれているのが大きいんだけど」


 そこで赤くならないでよ。

 色々想像しちゃうじゃない。


「それを差し引いても、なんだかわからないけど、うまくいってるの」


『だからどうしたっていうのよ』


「だからポピーも一緒に来ない?」


『え?』


「多分、みんなも反対はしないと思う」


 杏華、急になに言ってるの?


「我も反対せんよ」


 さっき倒れていた人達が復帰したみたいね。


「ヒャタフリフ殿は」


『ポピーでいいわ。って伝わらないか。杏華、ポピーでいいって伝えて』


「ポピーか。わかった、我はナディでいい」


『わかった、よろしくねナディ』


「ポピー、多分だが。今までポピーを守ってくれる人はだれもおらんかったんじゃないか?」


『いなかった』


「守られるというよりは自分が一番強くて、周囲を守ることをかなりの長い間続けていないか?」


『続けてる』


「そんな女ばかりなのだよ、我らは」


『ああ、みんなも同じだったのね』


「そう、だから我も上手くいくと思うぞ」


「ね、だからポピー」


 杏華、なんか凄い顔よ。


「今からみんなで佐七さんを」


 はあ?

 なに言ってるのこの子。


「そうだな。今なら気絶しているようだし」


 え?

 乗ってくるの?


「左の字は天幕に運んでおくね」


 え?

 え?


「今日はポピーさんからデスネ」


「ただ、ヒャタフリ殿はその、なんだ、体が小さすぎるが大丈夫なのか?」


「主様ならなんとかするでしょう」


 なんとかって。

 まあ、実際なんとかできるようにされたけどさ。


『それよりもサシチの気持ちは?』


「旦那さまはあなたのこと気にいってますよ」


 え?


「そうだねー、左の字はそのへん分かりやすいよね」


「という事でポピーどうしますか?」


 なんだかわからないけど、サシチを諦める必要はないってことよね。


『わかったわよ、やってやろうじゃない!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る