第41話 ある女王の災難 その2

 

 精霊炉が一気にフル回転する。

 未だかつて振るったことのない全力の拳があの男をとらえる。


「ふん」


 こちらの腕が破壊されただと!?

 ならば、く、速い!

 一気に距離を詰められた。


 そのまま振り抜かれた拳。

 回避、まにあわっ。

 くそ、天井が見える。

 頭部から胸部にかけて一瞬で持っていかれた。


「カシュタンテ来い!この機体はもう無理だ」


 精霊炉からカシュタンテを引き出し、空いた穴から外にとびだす。

 同時にあの男に両手剣と化したカシュタンテを叩きつける。

 くそ、これも防ぐか!


「がっ」


 カウンターでそのまま玉座の後ろまで吹き飛ばされる。

 な、もう目の前に。


 カシュタンテを盾がわりに拳を防ぐが拳はカシュタンテを粉砕。

 そのまま我を壁に叩きつけた。


 ああ、そうだな。

 楽しいなカシュタンテ!

 まさかここまで強いとは。


「ふははははは」


 再生したカシュタンテをかまえ魔方陣を展開。

 カシュタンテを乱雑に振るう。

 闇の魔力でできた巨大な無数の斬撃が、周囲を巻き込みながらあの男に向かう。


「へ、陛下、が」


 宰相やら大臣やらも巻き込まれているようだ。

 だから普段から鍛練しろといっただろうが。

 まあ、しょうがない。


 それよりもあの男は?

 あははは、こちらにむかってくる。

 気にもとめずか。


「ははははははは、貴様強いなぁ」


 むかってくるあの男の動きにあわせて、魔方陣を展開したカシュタンテを全力で叩きつける。




「おい、起きろ。死なない程度には手加減してやったんだ」


 我は気を失っていたのか。

 手加減だと、あれで手加減されていたのか。

 ああ、完敗だな。

 我らではこの男の足元にも及ばん。


「お、おきたな。さて女王さま停戦?協定といこうか」


「ふん、停戦などしなくとも、この力があればこの国全てを蹂躙できるだろう」


「んなことに興味はない。俺は俺のほしい戦利品がもらえりゃそれでいい」


「ふん、抵抗したところで無駄だろうからな。欲しいものを言え」


「な、陛下!」


 はあ、愚か者が。

 お前はこの国の王か?

 今この場で発言が許されているのは我のみだ。


「クリス」


「はい、旦那さま」


「ぎ」


 横から口を挟もうとした大臣だかなにかが一瞬で消し炭になる。


「すまんな、礼儀のなっていないものがいて。それで何がほしい?」


「話が早くて助かる。一つ目はセフィルのことだ。御宅の軍人らしいが俺がもらっていく」


「わかった、今後セフィル・ヒダリに関して我が国からは一切手出しをしない」


「サシチ様、まさかこの為に」


「ん?国のトップを通しときゃ今後の憂いもないだろ」


 はははは、この男は本物の阿呆だ。

 女一人のために国に戦争を仕掛けるとは。


 国に戦争を仕掛け、勝利し、女を娶るか。

 その力を持つ男がいるとはな。

 まあ、おなじ女として羨ましくはあるな。


「二つ目は、金だ。1億」


「わかった、すぐに用意させよう。財務大臣は生きているか?」


「はい、なんとか」


「聞こえていたな、命が惜しければすぐに動け」


「直ちに」


「三つ目だ。俺の分の学園への紹介状を用意できるか?」


 どういうことだ。

 まさかこの男チキュウ出身だとでもいうのか。

 チキュウ出身者で女神から力をもらうものがいるのは聞いていたが、ここまでの力をもらうものが存在すると言うことか?


「ふむ、事情がみえぬが。その三人は我が国から紹介しているのではなく、それぞれの女神から学園の方へ連絡がいき、学園から各国へ依頼が来ているのだぞ」


 そうだ、ということはこの男は女神とは関係がないのか?

 この男何者だ?


「そうか、であればなにかこの三人以外が学園に入る方法はないか?」


「そなたたちは夫婦となったのであろう?ならばその線で我の名前で紹介状を書いてやろう」


「すまない、たすかる」


「いや、気にするな。この程度なら容易いことだ」


 こやつらが学園都市にはいれば面白いことが起こりそうだしな。

 それにしてもこの男……

 いや、深入りは危険だな、下手に探れば次は確実に死がまっている。


「最後に」


「セブンちょっとこっちへきてクダサイ」


 なにをごそごそ相談している?


「悪いな女王さま一個追加だ。魔動機兵をくれ。機体はなんでもいい、あれを5機」


「わかった、後程格納庫に案内させよう。好きな機体をもっていってくれ」


「最後だ、今後はお互い仲良くやっていこう。というか次俺たちに手を出すなら容赦はしない。城ごと消えるつもりでいてくれ」


 ふん、悪い冗談だな。

 ここまでされて、まだ喧嘩を売るやつがいるものか。


「わかった、約束しよう」


「では停戦だ。文書で交換といこうか、えーと」


「我が名はナルディスナ・カシュタンテだ。ヒダリ殿」


「今後ともよろしくお願いいします、カシュタンテ女王」


 個人的には面白い男だが国としては、もうかかわりたくないものだ。

 あの愚か者のおかげで我が国はとんだ災難だな。


「ああ、そういえばヒダリ殿の領地はなんと言う名前なのだ?」


「ああ、そうか。俺の領地ね」


「む?何をなやんでいる」



「いや、なんでもない。俺の領地はガンドラル、ガンドラル村だ」

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