第21話 ????の想い

 

 今日は厄日だ。

 護衛任務にむかう途中でドラゴンと遭遇するとは。

 しかも、出会ったら死が確定するとまでいわれる深紅の狂竜アスクリス。

 私にできることは、部下と共に逃げることのみ。


 あっさりと追いつかれてしまった。


 なんとか部下達を逃がすことはできたが、私は逃げられそうにない。

 まあ、ここで私が時間を稼げば稼ぐほど、先に逃がした部下達の生存率も上がるはず。

 ならばできる限り時間を稼ぐだけ。




 無理だ、これは無理だ。

 一撃で私の魔動機兵の魔力シールドが消し飛んだ。

 一撃って……


 戦力差がありすぎて時間稼ぎにもならない。

 ああ、これは死んだ。

 部下を逃がして名誉の殉職かぁ……。


 嫌だああああ!


 こんな仕事仕事で終わる人生なんていやだー。

 だから機兵乗りなんて嫌だったんだー。

 まだ彼氏だってできたことないのにー。

 結婚だってしたいのにー。


 お、なんとか回避できてる。

 これは逃げられるか?


 頑張れ私!


 って、あれ?いなくなった?

 違ったああああ。

 回り込まれてる。


 巨体の後ろに複数の魔方陣?

 魔方陣が赤く輝きそれぞれの魔方陣から炎の弾丸放たれた。

 その弾丸が弾けて広がる。

 たださえ数が多いのにさらに散弾。


 全速回避、ってもう魔動炉の魔力が!

 大きな衝撃に襲われたと思った時には地面に向かって落下していた。


 ああ、空が青い。

 モニター越しではなく、本物の空。

 どうやら胸部装甲が吹き飛ばされて、コックピットの前方部に大穴が空いたようだ。


 まずい。

 このままだと地面に叩きつけられて終わりだ。

 魔力は?

 いける、0じゃない。


 魔動炉に残っていた魔力を全て使って落下の勢いを殺す。


 地面に叩きつけられるという最悪は回避できたが。

 流石に無傷とはいかなかったか。

 体は痛むがここにとどまってはいられない。

 なんせアスクリスの口から巨体な火球が放たれようとしている。


 一歩でも遠くに逃げなくては。

 く、痛みで体がうまく動かない。


 再度空を見上げる。

 火球がさらに大きくなっている。

 あの規模の火球ならこの辺一体が消し炭だろう。

 これは助からないな……


「こいつを体にかけてろ」


 !?

 だ、誰だ?

 私に自分の上着を被せた?


 何をするつもりだ!?


 な!?

 信じられない。

 放たれた巨大な火球を一瞬でかきけした!?


 さらに咆哮するアスクリスに向かって行く。


「うるせーよ」


 は?

 一撃?


 私は夢を見ているのだろうか?

 あり得ない。

 あの狂竜アスクリスがたったの一撃で地面に叩きつけられ、そのままピクリとも動かない。


 アスクリスを見下ろすように男が立っている。

 ああ、彼が私を助けてくれたのか。


 男性に守られ助けられた。

 この私が!

 悪竜から守られ助けられる。

 まるで物語の姫君のようだ。


 ああ、そういえば男性に守られるなんて生まれて初めてかもしれん。

 鼓動があり得ないほど早い。

 これは。

 これはもしや恋というものか!


 もしや彼こそが運命の人なのか?

 いやいやまてまて、早計にすぎる。

 落ち着くんだ。

 落ち着いてもう一度彼を見るんだ。


 ああああ。

 駄目だ鼓動が全く落ち着かない。

 そうか、これが恋か。

 そしてこの出会いは運命なのだ!


「おい、大丈夫か?」


「はい、大丈夫です」


「そいつはよかった。ほらつかまれよ」


 彼が手をさしのべてくる。

 ああ、わが運命の伴侶なんと凛々しき姿だ。


「申し訳ありません、助かります」


 礼を伝えながら手をのばし、彼の手をつかもうとしたその時。


「旦那さまー、あなたこそ私が探し求めていた旦那さまです!」


 燃えるように揺らめく赤い髪の女が横から彼に飛び付いた。

 なっ、旦那さまだと!


「ふざけるな! 彼こそは私、セフィル・グラセルフの運命の相手。伴侶となる方だぞ」


 運命の出会いを邪魔するものは何人たりとも許しはしない。

 さあ、闘いの始まりだ!

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